従業員向け健康支援サービス『welltowa(ウェルトワ)』を運営するマイナビは、同社従業員に対し企業向け生理痛体験研修を10月31日に東銀座にて実施。VR体験装置を用いての生理痛体験をはじめ、セミナー、ワークショップを通して、働く女性が直面する課題への理解促進を図った。
女性の健康課題に向き合う
女性の社会進出とともに近年関心を寄せられているのが、女性特有の健康課題である。2024年2月に経済産業省が発表したデータによると、生理(月経)をはじめとする、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円。
また、マイナビが2023年3月13日~14日に実施した「企業と従業員の健康課題への認識に関する調査」では、女性特有の健康課題に悩む女性が抱える症状として、「PMS(月経前症候群)」「月経」が上位に挙がった。
ピル服用によってこれらの症状をコントロールする女性もいるというが、個人差がありすべての人にとって効果的とは限らない。このような状況を受け、「女性が働く職場において生理を含む女性特有の健康課題に対する周囲の理解は不可欠。生理痛体験研修を通じて働く女性が直面する課題を体感し、職場の理解とサポート体制を強化してほしい」とし、ウェルトワは企業向けの生理痛体験研修を提供している。
どれぐらい痛い? 生理の痛みを体験!
では実際に研修ではどんなことをするのか? 大きくわけて研修は、セミナー・生理痛体験・ワークショップの3部構成になっている。
セミナーでは生理が起こるメカニズムや生理痛の基本知識を学習し、多くの女性従業員がふだん抱える体調不良への理解を深める。
生理時の不調として、腹痛・腰痛・情緒不安定・眠気・頭痛などの症状が紹介されたほか、これらはホルモンに起因しているもので決して努力や気合いで乗り切れるものではない、との説明があった。併せて、感じた不調を我慢するのではなく、病院などで受診・治療することの重要性も伝えられた。
続いての生理痛体験では、生理痛VR体験装置「ピリオノイド」を使用。同デバイスは、甲南大学と奈良女子大学における月経痛再現の可能性と効果を検証する研究(※)の中で誕生した製品だ。
デバイスは低周波治療などの仕組みを応用し、腹筋に電気刺激をいれることで生理痛の一部を再現。これは性別に関係なく痛みを全く感じない人もいれば、強い痛みを感じる人もいるという。
デバイスは弱・中・強の3段階で痛みを設定可能。担当者によれば女性の8割以上が本デバイスで感じられる痛みと同等もしくはそれ以上につらい痛みを感じているという。
※:Chihiro Asada et al, “Electrical Muscle Stimulation to Develop and Implement Menstrual Simulator System”, Journal of Robotics and Mechatronics, Vol. 33, No. 5, pp. 1051-1062 (2021.10)
はじめに男性社員が体験すると「弱」の時点で苦悶(くもん)の表情を浮かべる人が多く、「強」までレベルを上げると、その場でうずくまったり、座りこんでしまったりする人もいた。
体験後、複数の男性社員に話を聞いたところ、「想像以上に痛かった」との感想が口々に語られたほか、「どうしたら痛みから逃れられるか、楽な体勢を見つけるのに精一杯で。この上で何か仕事をしようとか、正直あまり考えられなかった」「これが不定期に続く中で仕事をすること自体が無理。それがわかっただけで、すごい気づきです」などの感想が寄せられた。
一方、今回参加した女性社員は、男性ほど痛みを感じていない様子。「弱だとあまり痛みを感じない。痛みというよりはマッサージ機をあてているような振動でした。(男性陣が大きな反応を見せている様子に対し)感じ方がそこまで違うのか、と驚きました」と率直な意見を述べてくれた。
また、女性社員に対しデバイスで再現された生理痛について尋ねてみると、「ぶるぶる感があったんですが、私はそのような感覚はないですね」「強であればリアルな痛みをある程度再現できていたように思います。でも、これよりいつもはもっと痛いです」などの感想が聞かれた。
なお、デバイスはあくまで生理痛の一部を再現しているため、生理痛そのものを再現しているわけではない。
ワークショップで意見や考えを共有
生理痛体験後は、感じたことや行動変容したいことをグループで話し合い、ワークシートに落とし込む。その後、グループの代表者がワークショップで挙がった意見を発表した。
「生理痛によって集中力が低くなってしまうことがわかった。とはいえ、生理が原因で集中力が低下していることを悟るのは難しい。人によって痛みの感じ方が違うのに加え、生理痛を全員が抱えているわけではない。ではどう対策していけばいいのか――。今日の研修のようにこの生理の痛みなどを全員が知っている状況をつくることこそが、改善の一歩になるのではないでしょうか」
また、研修担当者からはどのように従業員支援をしたらいいのか、その方法も紹介された。本研修のような場を設け「理解促進を図ること」、リモートワークなどを導入しフレキシブルに働けるよう「職場環境の改善に努めること」、外部の相談窓口を設置するなどで「健康に関する受診や活動を推奨すること」がここでは提案され、参加者はその内容を熱心に聞いていた。
研修を終えて…
研修後、社員個人に話を聞いてみた。
「情報としては知っていたんですけど、やっぱ実体験するのとでは全然違う。この痛みを抱えながら仕事をしている社員を知っているので、会議の時間や移動手段などを配慮していきたいです。プライベートでは、奥さんが痛いと言っているところを目の前で見ているので、気づかいの仕方が変わると思いましたし、何でもやってあげたいなと感じました」(営業・男性)
「個人的にはすごくいい体験だった。いろんな人に試してもらいたいと思いましたが、デバイスの痛みのレベルは、今のものより段階が増えるといいのかなと。そうすることで、女性のよりリアルな痛みをわかってもらえると思います」(人事部・女性)
人によって感じ方はそれぞれだが、研修を通じて新たな気付きを得た、との声が多数聞かれた。
厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、日本における生理休暇の取得率(2020年度)は、0.9%と1%に満たないのが現状。たとえ制度や仕組みはあっても、形骸化してしまってはもったいない。制度や仕組みづくりと並行して求められるのは、制度を使いやすい企業風土や文化の醸成であり、そのためには、互いが歩み寄り理解しようとする姿勢が必要だ。生理痛研修は、その相互理解のきっかけになるのではないだろうか。
※記事内のコメントはいずれも個人の感想であり、人によって感じ方は異なる