「飲めなくてもええね〜ん」という元気な歌声とともに、一気にお茶の間にも浸透しつつある“スマートドリンキング(スマドリ)”というカルチャー。お酒を飲まない人、または飲めない人でも気兼ねなく楽しめる新しいドリンク文化を指す言葉である。

仕掛け人のスマドリ社はノンアル・微アルを提供する「スマドリバー渋谷」を運営し、今年5月にはファンコミュニティ「SUMADORI-LAB.」を立ち上げるなど、「時代はスマドリやで!」感を確固たるものにすべく奮闘している。

そこで今回はこのムーブメントを展開する3人の中心人物にインタビュー。スマドリの魅力や「SUMADORI-LAB.」の詳細について話をうかがった。

  • (左から)電通デジタル エクスペリエンスプロデュース部門ビジネスリード第1事業部 コミュニケーションプランナー 水藤彩佳氏、電通デジタル エクスペリエンスプロデュース部門ビジネスリード第1事業部 プロデューサー 須藤純正氏、スマドリ アライアンスマネージャー 吉岡敦史氏

■新たに始動した「SUMADORI-LAB.」って何?

――まずは簡単な自己紹介と、普段のお仕事の内容について教えてください。

吉岡氏:現在はアサヒビールと電通デジタルの合弁会社「スマドリ」に出向していて、スマドリが取り組むほぼすべての施策でプロジェクトマネージャーを担当しています。

須藤氏:私は電通デジタルのビジネスリード第1事業部でプロデューサーとして働いていて、スマドリにはプロジェクトマネージャーとして参画しています。

水藤氏:私も須藤と同じくビジネスリード第1事業部の所属で、スマドリではプランニングを担当しています。たとえば「SUMADORI-LAB.」をどういう制度にするか、会員さんたちのインセンティブをどう設定するかなど、主にユーザーとのコミュニケーションプランニングを手掛けています。

――さっそくですが、「SUMADORI-LAB.」の活動内容などについてご紹介いただけますか?

須藤氏:「SUMADORI-LAB.」は基本的にはオンライン上のファンコミュニケーションサイトで、会員になれば誰でも写真やコメントを投稿できる仕組みになっています。

主な投稿内容については、たとえばご自宅でスマドリ商品を飲んで「これは美味しかった」「こんな食事と合った」と感想をシェアしたり、実店舗の「スマドリバー渋谷」を利用した際の写真をアップしたり……といった感じが多いですね。

運営側はスマドリバー渋谷のバーテンダーさんの特別コラムを掲載したり、新商品の制作秘話などを発信したり、イベントレポートをシェアしたりすることで会員さんとコミュニケーションを取っています。会員限定イベントも定期的に開催しています。

■スマドリバー渋谷を「お酒を飲めない人たちの聖地」に

――「SUMADORI-LAB.」はどのような背景で開設されたのでしょう?

吉岡氏:まず、スマドリの認知拡大と価値向上を目指して2022年に「スマドリバー渋谷」をオープンしました。主なターゲットはN世代やZ世代ですが、そのときに決めたのが「ここをお酒を飲めない人たちの聖地にしよう」ということだったんです。

でも、聖地化するには“熱量の高いファン”が必要で、彼らとのコミュニケーションも絶対的に不可欠だと考えました。「SUMADORI-LAB.」はまさにファンのみなさんとコミュニケーションを深めるための場であり、同時に商品開発のヒントを得る場にもなっています。

須藤氏:“熱量の高いファン”というのは、我々スマドリメンバーのなかで共通言語として常に意識しているワードでもあります。スマドリバー渋谷は、ファンコミュニティを運営するうえで体験価値を与える場として提供し、既存のファンやファンになってくれるポテンシャルをお持ちの皆さんとの関係性を作っていく場所にしたかった。“熱量の高いファン”も、最初は「5人も集まればいいよね」みたいな話をしていたんですよね。

吉岡氏:もともと数千人、数万人を集めるより、熱量の高いファンを10人でも20人でもいいから集めたいよね、と話していたのですが、おかげさまで現時点での会員登録数は約100名にまで広がっています。

――ファン層の傾向のようなものは何かありますか?

吉岡氏:そこは本当にさまざまですね。おそらくスマドリの考え方に共感してくれているので、お酒を体質的に飲めない人、ライフステージの変化などで飲まないようにしている人なども多いと思いますが、年齢も含めて本当にバラバラです。

でも熱心な会員さんの中には、毎週スマドリバー渋谷を訪れ、新作ドリンクを試し、感想をサイトに投稿するというルーティンを楽しんでいらっしゃる方もいます。他にも、普段はあまり外出しないのに、スマドリバー渋谷のドリンクを飲むためにわざわざ他県から渋谷に出てきてくれた会員さんもいらっしゃいました。

――すごい熱量ですね。それでは、「SUMADORI-LAB.」を運営するうえで何か課題のようなものはありますか?

水藤氏:課題ではありませんが、企業目線と消費者目線では結構違うんだな、ということに気づきました。もともとスマドリバー渋谷の商品開発はプロジェクトメンバーだけで行っていたのですが、会員さんと共創するようになってからは、「もっとこう改良したほうがいいよ」「こういう味があってもいいんじゃないか」といったご意見をいただくようになって、先日は会員さんたちが考案した夏季限定ドリンクを販売したところ、まさかの歴代2位の売上をはじきだしたんです(笑)。

吉岡氏:スマドリバー渋谷ではもともと、シグネチャーカクテルの「マーブリング スノー」や「マーブリング レイン」が圧倒的な1位だったのですが、今回の夏季限定ドリンクはあと一歩で追い抜くところまで迫りました。企業主導ではなく、ファン目線で作ることで広く一般的に受け入れられるんだということを立証したひとつの事例だと思います。

――会員さんたちが事前に集まってレシピを考えたんですか?

吉岡氏:事前にワークショップを開きました。その場で夏季限定ドリンクのテーマを「あの子と過ごした夏」にしようと決め、それぞれ意見を出し合い、最終的に絞り込んだ5案の中から「線香花火」「金魚すくい」「ひまわり畑」という3案が正式に採用されました。私たちはこの3案をいかに忠実に再現するかということだけに注力し、最初から最後まで一切口を挟みませんでした。

水藤氏:たとえば「線香花火」は、ドリンクに色付きシロップを落とすことで線香花火が光っているように見える仕掛けで、グラスのリム部分にパチパチ弾ける飴をまぶすことで線香花火の“音”も表現しました。私たちでは絶対に考えつかないアイデアです。やはり消費者の意見はちゃんと聞くべきだと改めて実感しましたし、会員さんとのドリンク開発は今後も続けていきたいですね。

  • 「SUMADORI-LAB.」の会員で開発した、夏季限定ドリンク

■お酒を飲める人も飲めない人も楽しめる「スマドリ」の魅力

――他にも今後、「SUMADORI-LAB.」で取り組みたいことなどがあれば教えてください。

吉岡氏:今度もファンとの関係の強化は推進していきたいと考えています。現在の会員数は100人ですが、今後はもう少し人数のスケールアップも狙おうかとも思っていますし、どうすればファンに喜んでもらえるか、トライ&エラーを繰り返しながら双方向のコミュニケーションを確立していくのが理想的ですね。

須藤氏:ファンとのコミュニケーションをもっと円滑にするにはどうしたらいいか、といった点にも向き合っていきたいですね。先ほど話したように、オフラインでの取り組みが盛り上がっていますが、この温度感をオンラインのほうでも展開し、さらにコミュニティを活性化していきたいと思っています。

水藤氏:これからもファンの意見を大事にしながら共創していきたいですね。あと、私たちは「スマドリアンバサダー」というものを設けていまして、これはスマドリバー渋谷で働く15人の学生アルバイトたちのことを指すのですが、彼らが主導して実施したファン向けイベントもすごく好評だったので、これもまた定期的に開催していきたいですね。

――最後に、「スマドリ」の魅力について改めて教えていただけますか?

須藤氏:私はもともとお酒が飲めない体質で、飲み会がイヤとかではないのですが、どうしてもドリンクの選択肢が少なく、コーラや烏龍茶ばかり飲むことになっちゃうんですよ。でも、スマドリバー渋谷なら100種類のメニューの中から選べます。お酒を飲める人は「今日は何を飲もうかな」とチョイスする楽しみがあるのだと思いますが、私もスマドリのおかげで“嗜好品”としてのドリンクが楽しめるようになりました。

吉岡氏:私も実は体質的にお酒が飲めなくて、お酒を飲む人同士は知らないうちに仲良くなっていて、飲めない人間はちょっと入り込みづらいというコンプレックスもありました。

でも、スマドリバー渋谷なら多くのノンアルコールメニューが揃っていますし、内装もお酒が飲めない方のために設計されています。飲める方からのプロダクトアウトではなく、飲めない方と一緒に作りあげているんです。これはお酒が飲めない人にとってはかなりありがたいですし、「新しい世界が広がってきたな」と嬉しく感じています。

水藤氏:私はお酒が飲める体質ですが、飲めない友人もいるので、居酒屋にはなかなか一緒に行きづらいという問題があったんですよね。お会計の支払いも割り勘というわけにはいかないですし。でも、スマドリバー渋谷なら飲めない友人とも一緒に行けるし、友人も「こういう場所がほしかったんだよね」と言ってくれています。お酒が飲める・飲めないで区切らない世界を目指してこのプロジェクトに取り組んでいますが、スマドリならいつかその境界をなくせる可能性がある。そういうところがすごく魅力的ですね。