新台が登場すると大盛り上りとなるパチンコホール。毎月のように登場する新たなパチンコ台、パチスロ台ははたして、どこで、どのように製造されているのか?そこで今回はパチンコ・パチスロ台の製造を行うニューギンの生産工場を伺ってみた。
ニューギングループは、パチンコ・パチスロの企画・開発・製造・販売までそれぞれ専門分野に精通した会社が連携しながら一貫した体制でプロデュースする総合アミューズメント企業。同グループは、三重県桑名市と岐阜県海津市南濃町に計6つの製造事業拠点を構えている。
【ニューギングループの製造事業拠点】
・ニューギン 桑名工場 …… ニューギンブランドのパチンコ台を製造
・EXCITE 桑名工場 …… EXCITEブランドのパチンコ台を製造
・ニューギン 南濃工場 …… ニューギンブランドのパチスロ台を製造
・EXCITE 南濃工場 …… EXCITEブランドのパチスロ台を製造
・シンセイ 南濃工場 …… 主基板の製造
・シンセイ 南濃事業所 …… ECO推進事業
まず最初に訪れたのは「ニューギン 桑名工場」。ニューギンブランドのパチンコ台を製造する工場で、ニューギン 製造本部 部長の加藤浩司氏にご案内いただいた。
ニューギンのパチンコ製造拠点「桑名工場」
パチンコの製造工程は、大きく4つのラインに分かれており、最初の工程となる『基礎ライン』は、「釘打ち」や「風車打ち」といったパチンコ台のベースとなる盤面を整えていくラインとなっている。
釘や風車を打つベースとなるアクリル板は、フィルムが貼られ、役物などをつける穴などが空いた状態で仕入れられる。納品されたアクリル板は、製造中に反ったり歪んだりするのを防ぐため、適切な温湿度管理の中で一日寝かせてから使用されるという。
『基礎ライン』は、「全自動釘打ち機」をはじめ、ほとんどの作業がオートメーション化されているのが特徴となっている。特にたくさんの台を効率よく生産するためには「釘打ち」の正確性が非常に重要。あらかじめプログラミングされた位置へ、0.5秒に1本のスピードで、正確に釘を打ち込んでいく様子はまさに圧巻。
「釘打ち」が終わったら、高性能カメラを使って検査。光の屈折を利用して釘の位置や高さをチェックし、およそ0.2mmのズレまで確認可能。人の目で見てもわからないレベルのエラーも見逃さない正確性を誇る。
釘が正確に打ち込まれていることが確認できたら、続いては風車やレールを取り付けていく。「釘打ち」同様、ほとんどの工程が自動化。スピーディーかつ正確に同じ盤面を作るためには、こういった最先端の技術の活用が重要になるという。
なお工場内の各所には、当日の生産計画や進捗状況、予定終了時間などを示すモニターがあり、リアルタイムで状況を確認できるようになっている。
『基礎ライン』に続いては、役物や液晶画面、主基板などを取り付けていく『NBライン』へと向かうが、その前に、打ち込まれた釘の整備が行われる。正確性の高い自動釘打ち機だが、それだけでは要求される精度は出し切れないため、開発部署からの指定にあわせて、専門の外部スタッフが板ゲージとハンマーを使ってさらに0.1mm単位で調整を行う。
『NBライン』でもっとも注目したいのが「主基板」。大当たりの抽選などを行うパチンコ台の頭脳ともいえるパーツであり、盤面に取り付ける前に不具合がないかをチェックすると同時に、不正対策のためにID情報の取得など厳重なチェックが行われる。
主基板、役物、液晶を取り付けたら、役物の動きや各種センサー類の動作をチェック。電動チューリップやアタッカーなど大当たりしないと動作しないパーツは、擬似的に信号を送り扉・羽根を開放させ動作チェックする。最後に、画像検査装置ですべての部品が正確に取り付けられているかを確認する。
『NBライン』で役物、液晶、主基板などが取り付けられた盤面は、『本体ライン』にて本体枠、前枠などが取り付けられる。なお、枠は3、4年に1度くらいの割合で変更されるため、変更前のニューギンの台であればそのまま利用できるので、すでにホールに枠がある場合は『NBライン』終了後の枠がない盤面状態で出荷される。
『本体ライン』は、盤面と本体枠を合体し、前枠を取り付ける工程。検査工程は、枠嵌合・各種ボタン動作・SW類/LED点灯の確認および玉の払出し確認、そしてハンドルを回しての玉飛び検査を行ない動作確認する。
すべての検査が終わったら、完成したパチンコ台にそれぞれ製造番号を付与。どの台がどこに出荷されたかまで把握することができる。最後の梱包は、熱溶着による密封仕様で、一度でも開封すればその痕跡が分かる仕組みになっている。
なお、工場内は約70台の防犯カメラを使って、24時間体制で監視し、各工程ラインの進捗状況などを確認している。パチンコ台はその特性上、不正防止が非常に重要な課題となるのはもちろんだが、製造という面では、安全面と品質に最大限の配慮を行っているという。
30年以上、パチンコ台の製造に携わっているという加藤部長は、「昔と違って、かなり自動化が進みました」と振り返る。かつては盤面のビスもすべて手動取り付け。釘打ち機はあったものの、大雑把な打込みのみで、そこからはハンマーを使い人の手で叩く必要があったという。
しかし、パチンコ工場は量産期と閑散期の波が激しいため、常時雇用が困難。人手不足の中、量産期を乗り切るためには「まだまだ自動化やAIの導入を進める必要がある」と、加藤部長はさらなる自動化の必要性を訴える。
現在パチンコの開発期間は2,5~3年程度。もちろん、製造現場の基準にあわせての開発となるが、役物などのギミックが複雑化していることもあり、加藤部長は「最近では開発段階から製造部門も入り込み、不具合の出にくい機構や生産性の高い構造など、製造目線での意見も取り入れながら協力して作業を進めています」と語る。
そして、ニューギングループの大きな特徴としてリサイクルを挙げ、「リユース品の使用は他メーカーに先駆けてやっていますし、使用点数も多い」という加藤部長。現在では再利用する部品点数もかなり増え、メンテナンスなどにもコストや設備を投資しているという。
パチンコ台のリサイクル・ECOパチの製造現場「シンセイ 南濃事業所」
毎月のように導入されるパチンコ台だが、その役割を終えてホールから出たものがすべて産業廃棄物となるわけではない。ニューギングループでは、2008年に業界では初となるECOパチ、ECOスロの販売を開始。現在もパイオニアとして注目を集めている。
そんなニューギングループにおいてECO推進事業を行っているのが、グループ会社であるシンセイ。シンセイの南濃事業所では、ECO推進事業が行われており、ECOパチ、ECOスロの生産に必要なパーツのリユースなどを手掛けている。なお、隣接のシンセイ 南濃工場では、主基板の製造のほか、リユース部品のメンテナンスなども行われている。
全国のホールで役目を終えたニューギンのパチンコ台は、シンセイ 南濃事業所にて回収されるが、回収からリサイクルに至る過程を、シンセイ 製造部 兼 購買部 兼 ECO推進部 部長の鈴木登希生氏に紹介してもらった。
回収されたパチンコ台から、再利用可能なパーツを分別し、リユースすることによって、同シリーズだが、甘デジなどスペック違いの遊技台に生まれ変わったものがECOパチと呼ばれるもので、ホール経営の効率化に貢献する取り組みとしても歓迎されているという。
回収されたパチンコ台から、まずは製造番号を読み取り、新台出荷時から回収時までの記録をすべて管理。契約した製造番号の台が返却されているかをチェックし、正しくない番号の場合はホールにあらためて確認する。製造番号の確認にこだわるのは、製造管理という点はもちろん、かつて問題となった「不法投棄」への対策も理由の一つとなっている。
パチンコ台から主基板や液晶、各種ハーネス、各種基板、役物などを取り外していく。釘のついているアクリル板は廃棄となるが、産業廃棄物業者にて金属素材やアクリル素材として再利用される。
スイッチやモーターなど再利用可能なパーツもあるが、同じものを一気に解体するためオートメーション化された製造工程は異なり、様々な遊技台がランダムで戻って来る解体作業は手作業がメインとなる。そのため、パーツによっては解体するほうがコストが掛かってしまうこともあるため、そのあたりは人員などの状況に応じて対応するという。
ケーブル類はもっとも再利用できそうなパーツだが、遊技台に使用する部品は行政によって、長さはもちろん、色まで許認可されているため、まったく同じものでないと再利用はできないとのこと。長さ的にも極数的にも使用する台に最適化させているため、汎用化は非常に難しいという。
なお、ECOパチなどでリユースされるパーツは、液晶や主基板だけではなく、役物などの部品も使用可能であればあらためて磨き上げ、できるかぎり再利用するようにしているという。
ECOパチの場合は、最大18点の部品取りを行うが、買い取り機種の場合は3点程度になるという。基本は、高価な電子部品、液晶や基板であり、特に役物系は機種に依存するため基本的には再利用できない。しかし、廃棄先は、遊技機専門に認可された産業廃棄物処理会社かリサイクル会社なので、そこであらためて分別が行われ、スイッチやモーター類など、パチンコの部品として再利用できるものはあらためて買い戻されることになる。
シンセイ 南濃事業所で受入されているECOパチは、スペックを変更した遊技台。通常スペックから甘デジなどにスペックを変更することであらためて販売されることになるが、新台として出荷したものが戻ってきて、あらためてECOパチとして出荷されるのは全体の2割程度だという。
ECOパチとして生まれ変わらない遊技台の回収、いわゆる"買い取り"ももちろん行われており、こちらが全体の3割程度。そして、ニューギンに戻ってこない遊技台は遊技機専門の産業廃棄物処理会社やリサイクル会社に持ち込まれて、処分される。
ECOパチとして生まれ変わるものは、役物など多くのパーツをリユースすることができるが、一般的な買い取りの場合、使い回せるのは液晶や主基板程度。アクリルなどの盤面は、「釘が打ち込まれているなど非常にデリケートなので再利用は非常に難しい」という鈴木部長。こちらは産業廃棄物処理会社において大半のパーツが新たな素材として再利用が行われることになる。
コスト面でいうと、ECOパチは決してお題目ではなく、持続可能な事業として成立しているが、その一方で課題もまだまだ残っているという鈴木部長。パチンコ台を製造するために、部品調達などにおいて、協力会社やサプライヤーの協力が大切であり、ひとつのエコシステムが構築されているが、再利用が進むとサプライヤー側が苦しくなってしまうところが大きな問題になるという。しかし、リユース品の使用はホール側にとっては大きなコスト削減に繋がるものであり、「新台の価格が上がるとホール様が苦しくなって、最悪の場合、ユーザー様への影響も出かねません」。全体としての良好なエコシステムをいかに築いていくかが今後のパチンコ業界にとって、大きな鍵となるようだ。
今回はECO推進のパイオニアともいえるニューギンによる事業を紹介したが、日本遊技機工業組合でも、循環型社会形成への取り組みを推進し、遊技機のリサイクルの促進と適正処理の確保を図るため、「日工組遊技機回収システム」を構築し、使用済み遊技機の回収に努めている。パチンコ台・パチスロ台のリサイクル・リユ―スは今や業界全体での問題であり、業界が一丸となって取り組んでいる重要課題のひとつとなっている。