パリモーターショーでは、前回に続き日本車の参加が見送られた。しかし、その中で日本のメーカーが欧州初公開の車を展示・発表した。それが、自動車部品メーカーTHKのEV「LSR-05」である。
【画像】日本の技術がパリの舞台で注目を集める!THKた出展したLSR-05(写真18点)
まず、THKは自動車部品メーカーとして知られているが、社名は「Toughness(耐久性)」「High Quality(高品質)」「Know-how(ノウハウ)」の頭文字をとって名付けられた。THKは精密機械部品やリニアモーション技術を専門とし、自動車部品だけでなく、産業機械、医療機器、航空宇宙、ロボットなど多岐にわたる分野で活躍している。また、フランスにも生産拠点を持ち、ヨーロッパ、北米、アジアを含む世界各地に40の拠点を展開している。
そのTHKが独自に開発したのが、アクティブサスペンション「ALCS」、MR流体減衰力可変ダンパー「MROT」、可変磁束型インホイールモーター「enemo」、電動ブレーキ「ESB」、非接触給電システム「CLPS」、そしてステルスシートスライドシステム「SELES」である。これらのコンポーネントを組み合わせ、SN DESIGN PLATFORM(SNDP)と共同開発したのが、この「LSR-05」だ。SNDPは、日産自動車でデザイン部門においてGT-RやフェアレディZなどを生み出してきた中村史郎氏が率いる。中村氏は、日産だけでなく世界のデザイン戦略を牽引してきた人物である。そんな中村氏の手によって生まれたLSR-05は、ラグジュアリーでスポーティなEVとして、2023年の東京モーターショーで初めて発表された。そして、今回は初めて海外でのお披露目となった。
このLSR-05は、単なるコンセプトカーに留まらず、THKが開発したコンポーネントはすべて実際に機能するものであるため、単なる空想の「張りぼて」ではなく、実際に走行が可能な車両だ。LSR-05の前身であるLSR-04は、テストコースで実際に走行しており、その走行シーンが会場のスクリーンで映し出されていた。
日本では、ハイブリッドや水素燃料エンジンといった選択肢もあり、欧州とは異なり電動一筋ではないが、電動モビリティに舵を切ったフランスから見れば、日本はEVカーの分野で遅れを取っているように映ることもある。しかし、THKが持つ先端技術と、世界トップクラスの精密な工作技術を披露したことは、非常に印象深い展示となった。また、自動車部品メーカーが車を作るという動きは、今後の自動車業界に大きな革新をもたらす可能性を示唆している。会場では多くの来場者がブースを訪れ、ジャーナリストやテレビの取材が殺到する様子も印象的であり、日本の技術がパリの舞台で世界に認知された瞬間だったと言える。
写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI