木灰は野菜の肥料になる

わが家の畑では無農薬、無化学肥料で野菜を作っている。肥料は、主に米ぬかと鶏ふんと木灰だ。コメを作り、ニワトリを飼って、薪ストーブをたいて冬を過ごせば、どれもタダで手に入る。
一冬(10月下旬~4月)で燃やす薪の量は、およそ10立方メートル。軽トラックの荷台に薪を山盛りに積み上げて5台分ってところだ。薪の重さは樹種や乾燥の具合にもよるが、含水率20%以下のよく乾燥したミズナラ(同じ体積の水に対し比重0.67)で1立方メートルあたり約700キロと考えれば、7トンにもなる。

そのすべては山林や庭木や果樹園などの伐採木をいただいているので、燃料代はタダである。もしも、これだけの量の薪を業者から購入するとしたら、エアコンや石油ストーブを使うよりはるかに高くつく。薪の価格は、条件によってさまざまで一概には言えないが、10キロ2000円として7トンだと、軽自動車が買えるくらいだ。それを考えると薪ストーブを導入するための絶対条件は、なによりも燃料を自前でまかなえることだ。

日常的に薪ストーブを使うためには、燃料の薪をいかにして確保するかが重要である

薪は燃焼することで熱エネルギーを発し、あとには燃え切らなかった炭素やミネラルが灰となって残る。その量は燃やした薪の約1%。つまり7トンの薪を燃やせば70キロもの木灰が出るのだ。
木灰は、わが家の庭や畑になくてはならない肥料だ。リン酸(3~4%)、カリウム(7~8%)、カルシウム(20%前後)を主な成分として多様なミネラルを含み、高いアルカリ性で酸性土壌の中和にも役立つ。薪ストーブの灰によってトマトは甘くなり、庭のサクラは見事な花を咲かせる。花咲か爺(じい)のまく灰は、おとぎ話の魔法ではないんだ。

1週間に1~2回、灰受け皿にたまった薪を取り出して庭や畑にまく

薪ストーブ1台で家中が暖かくなる

私は、薪ストーブをこよなく愛する薪たき人である。
この土地に移住してくる前、長野県白馬村に住む友人の家で薪ストーブに出会った。雪の舞う2月の寒い夜だったが、薪ストーブが置かれたその空間だけは、暖かい空気に包まれていた。石油ストーブとも、エアコンとも、たき火とも違う、いままで味わったことがない心地よいぬくもりのある暖かさだった。鋳物の箱の中で薪が燃え、耐火ガラスの窓からは揺らぐ炎を眺められるのである。なんて素敵なんだ!
今思えば、これを運命の出会いと言うのだろう。このときから私は、すっかり薪ストーブに魅せられてしまった。

私が今の暮らしを始めた理由はいくつかあるが、そのひとつは薪ストーブをたきたかったからだ。
それで今、わが家には3台の薪ストーブがある。
セルフビルドした母屋には、米国、ダッチウエスト社の“フェデラルコンベクションヒーター”。鋳物製のハイスペックストーブで、わが家の主力機種。これ1台で家中が暖かくなる。

ダッチウエスト社のフェデラルコンベクションヒーター。薪ストーブをたいていると、家族はいつもその周りに集まる。部屋中が暖かくなるので、12月でも半袖でいられる

かつての住まいで、今はゲストルームとして使っている古民家には、同社の“エリート”がある。これは厚い鋼板製。

ダッチウエスト社のエリート。燃焼室の内部では大きなガラス窓の内側上部から空気が放出され、窓が曇らないようになっている

もう一つは私の仕事場を暖めてくれる日本のホンマ製作所の小型ストーブ“MS-403TX”である。

ホンマ製作所のMS-403TX。ホームセンターで手に入る薪ストーブだ

仕事場では、以前、ホンマ製作所の“時計1型薪ストーブAF-60”を使っていたこともある。昭和36(1961)年に登場した同社のロングセラーモデルで、現在の価格は税込み6980円。暖房能力は十二分。コストパフォーマンスはナンバーワンである。

時計1型薪ストーブAF-60。手軽に持ち運べるので、アウトドアや災害時にも活躍する

ここで、つらつらと薪ストーブの紹介をしたのは、一口に薪ストーブと言ってもそれぞれ違いがあるからである。それをこれから説明しよう。

薪ストーブの2次燃焼とは

薪ストーブは、大きく2つにカテゴライズできる。
1つはホームセンターで買える薪ストーブ。もう1つはスペシャリティーストア(専門店)でないと買えない薪ストーブである。

ホームセンターに並んでいる薪ストーブは、一般的に5万~10万円前後の価格で、DIYによる設置を前提に販売されている。仕事場にあるホンマ製作所のMS-403TXは、これだ。
一方、スペシャリティーストアで扱っているのは主に欧米製の薪ストーブで、ダッチウエスト社もそのひとつ。価格はストーブ本体で平均50万~60万円。なかには100万円を超えるモデルもある。さらに、煙突も1メートルあたり5万~10万円する。設置はプロの業者が行うので、その費用も含めると薪ストーブ本体と合わせて100万円以上かかるのが一般的だ。

では、ホームセンターとスペシャリティーストアの薪ストーブは何が違うのか。最も大きな違いは構造である。
安価な薪ストーブは、言ってしまえば単なる鋼板や鋳物の箱である。その中で薪を燃やし、煙はまっすぐ煙突から抜けていく。当然、材料のコストも安く抑えられている。
それに対して、いわゆる高級薪ストーブと言われるものは、2次燃焼、3次燃焼をさせる構造になっている。簡単に言えば、薪が燃えて発生する煙をもう一度燃やして、薪の持つエネルギーを無駄なく熱に変えられるのである。煙突から白い煙はほとんど立ちのぼらず、薪も長持ちする。
薪は加熱することで炭化水素などの可燃性ガスを発生し、それに引火することで燃焼する。ガスが完全燃焼すれば、理論上、煙突から不純物を含んだ白い煙は出ない。目に見えない熱い空気が出ていくだけである。煙突からもくもくと白い煙が出るのは水蒸気や燃え切らなかったガスである。2次燃焼はこの不燃性ガスを、再燃焼させる仕組みだ。

2次燃焼システムには、いくつかの方式があり、代表的なのはクリーンバーン燃焼方式とキャタリティック燃焼方式だ。わが家のエリートは前者、フェデラルコンベクションヒーターは後者である。
簡単に説明すると、クリーンバーン燃焼方式は薪を燃やして発生する不燃性ガスに、新鮮な空気を送り込んで再燃焼させる仕組み。

クリーンバーン燃焼方式では、火室(燃焼室)の上部から新鮮な空気が放出されて不燃焼ガスを燃焼させる。オーロラのように踊る美しい炎はクリーンバーンの特徴だ

キャタリティック燃焼方式は不燃性ガスが火室から煙突に至る間に触媒を通して化学反応させ、強力に発火させて再燃焼させるものだ。触媒方式では不燃性ガスに含まれる不純物の90%を燃焼させられるとされ、極めてクリーンな排気を実現する。

不燃性ガスを再燃焼させるハニカム構造の触媒

薪ストーブは煙突が大事

燃焼の要となるのが煙突である。ホームセンターの薪ストーブに使われるのは、単純にステンレスの板を丸めて筒にしたシングル煙突というものだ。ただ、これでは薪ストーブの性能を十分に引き出すことはできない。その理由を説明しよう。

薪が燃えるためには新鮮な空気が必要だ。そして給気口から空気を取り入れるためには、強いドラフトで煙を排気しなくてはならない。
ドラフトとは、排気される煙と外気の温度差によって発生する上昇気流のことだ。ドラフトが生じれば自然と煙は排気され、それにともなって薪ストーブ内の気圧が下がり、給気口から空気が取り込まれて薪が燃えるというわけだ。

煙突は、なるべくまっすぐ立ち上げる。十分なドラフトを得るためには少なくても4メートルは欲しい

ドラフトの強さは煙と外気の温度差、煙突の高さ、および断面積(内径)に比例して大きくなり、逆に煙突の曲がる数に反比例する。つまり、断面積が大きな煙突をまっすぐ高く伸ばすことで、ドラフトは強くなる。ただし、煙突が高くなるということは、途中で煙が冷えやすいということでもある。それで外気との温度差が小さくなれば、結局ドラフトは弱くなる。そのため、いかに高い温度で排気させるかが、煙突の性能としてとても重要なのである。その点で、シングル煙突は排気が冷えやすい。
対して、1メートルで5万~10万円もする煙突は、一般に外径が200ミリ、内径が150ミリの二重構造で、間に断熱材が充填されている断熱二重煙突だ。薪が燃えて発生した熱い煙を、ほとんど温度を下げずに排気できるのだ。

ホームセンターで手に入る直径106ミリのシングル煙突(左)と内径150ミリの断熱二重煙突(右)。一見して排気性能の違いを感じられる

火室が大きな薪ストーブほど暖かい

肝心な暖かさについてはどうか。薪ストーブのスペックには目安となる暖房面積が示されているが、これは部屋の環境によってまったく異なる。同じ床面積でも天井が高ければ暖まりにくいし、壁や床からすき間風が入るような古民家では、どんなに薪ストーブをたいても暖かい空気は部屋にとどまることなく、出て行ってしまう。リノベーションする前のわが家の古民家がそうだった。薪ストーブをたいていてもちっとも暖かくならないのだ。ある程度の断熱性と気密性があってこそ、薪ストーブの恩恵を最大限に受けられるのである。
薪ストーブ自体の暖房能力は、単純に火室の広さに比例する。なぜなら、それは燃料である薪の持つ熱量にほかならないからである。安価な薪ストーブでも火室が広く大量の薪を燃やせれば、それだけで暖かいと言っていい。つまり、気密や断熱がしっかりしていれば5万円の薪ストーブでも十分なのである。さほど部屋が広くなければ大きな薪ストーブも必要ない。むしろ、暑すぎてたいていられなくなる。実際、私の仕事場は6坪(12畳)だが、ホームセンターで入手したホンマ製作所のMS-403TXで真冬でも30℃を超える室温になるし、以前使っていた同社の時計1型薪ストーブAF-60でも同じく暖かかった。

そこに2次燃焼システムや断熱二重煙突が備われば、より効率よく、よりクリーンに薪を燃やせるというわけだ。

わが家では、冬の間、24時間ほとんど消えることなく薪ストーブが燃えている

薪ストーブは安い買い物ではない。特に海外メーカーのものは為替レートや輸入のコストも関係して、いかんせん高すぎるとは思うが、それでもコストに見合うだけの価値はあると私は断言する。それを確かめたければ、自分で薪ストーブをたいてみるしかない。
一度、その暖かさを知ってしまったら、薪ストーブのない冬は考えられなくなる。