唐辛子ってどんな野菜?
辛いイメージがある唐辛子は、中南米原産のナス科唐辛子属の野菜です。大航海時代にコロンブスがアメリカ大陸からスペインに持ち込んだことにより世界中に広まりました。日本のような温帯の地域だけではなく、熱帯地域でも栽培されており、かなりの品種があることが特徴です。
唐辛子は香辛料として使われていることがほとんどですが、実際には、種類によって辛みがあるものとないものがあります。日本で主流となっている唐辛子は、「鷹の爪」と呼ばれる赤い唐辛子です。
唐辛子の辛みはカプサイシンという成分に由来しています。カプサイシンはただ辛いだけではなく、胃液の分泌を促進することにより、消化・吸収をサポートしてくれたり、血行を良くして体を温める、食欲アップに貢献するという健康にうれい効果があります。それだけではなく、エネルギー代謝もアップするため、体脂肪の蓄積を抑える効果もあり、ダイエット効果も期待できるのです。
半面、刺激が強いため小さな子供や辛いものが苦手な人は特に注意が必要です。高濃度のカプサイシンを含む食品を摂取した後、味覚障害になったり死亡したりした例もあるので、辛いものが好きな人もほどほどにしましょう。
唐辛子にはカプサイシンの他にも、カロテン・ビタミンE・ビタミンCも含まれています。ビタミンCは熱に弱いため加熱するとなくなるので、生の唐辛子から摂取できます。
唐辛子の種類
唐辛子を大きく分けると、以下の3種類に分類できます。
唐辛子の種類
赤唐辛子
唐辛子の代表とも言える赤唐辛子は、唐辛子が熟して赤くなったものを指します。日本の赤唐辛子の代表は鷹の爪で、小さな実の中に辛さが詰まっています。香辛料として使われることがほとんどです。
赤唐辛子は世界中で育てられていますが、地域によって大きさや辛さが異なります。地域や品種によって風味が違うのも赤唐辛子の面白いポイントです。
青唐辛子
青唐辛子は見た目が緑色の唐辛子で、熟して赤くなる前に収穫されます。花が咲いてから約20日という早さで収穫できる唐辛子です。
辛い品種と辛くない品種があり、辛いものが苦手な人でも食べやすい唐辛子です。辛い品種には、辛み成分であるカプサイシンが多く含まれていますが、辛くない品種にはあまり含まれていません。辛くない分、カプサイシンの効果が少なくなります。
日本では「しし唐辛子」が有名で、辛くない品種に当たります。タイでは辛い青唐辛子を料理でよく使うので、欠かせない食材です。
黄唐辛子
黄唐辛子は華やかな見た目とは裏腹に、非常に強い辛さがあるため、日本一辛い唐辛子ともいわれています。黄唐辛子の辛みを数値化すると、約12万スコヴィルという数字が出ますが、具体的には、鷹の爪の2倍以上もの辛さを持っているのです。
黄唐辛子は、江戸時代半ばから作られ始めた日本生まれの唐辛子です。その輝くような見た目から、食材としてだけではなく、観賞用としても需要があります。もともと唐辛子には魔除けの効果があるとされているため、魔除けのリースの材料としても重宝されています。
唐辛子の品種
唐辛子の品種
本鷹
赤唐辛子の代表である鷹の爪の種類の1つです。鷹の爪の中では大きめの唐辛子で、強い辛味と同時に香る、上品な香りが特徴です。
主に香川県で生産されていますが、年々生産量が減っており、一時期は幻の唐辛子とも呼ばれていました。ですが、地域で生産力アップの取り組みが行われており、少しずつ生産量が復活してきています。
三鷹
栃木県で主に生産されているのが三鷹です。本鷹と八房を交配させてできた品種で、鮮やかな赤い色が特徴です。
赤い実には強い辛味が詰まっており、料理や香辛料としてよく使われる一味唐辛子や七味唐辛子の原料としてもよく使われています。辛いものが苦手な人でも、身近に感じやすい唐辛子です。
熊鷹
主に福岡県で生産されている唐辛子が熊鷹です。数ある日本で生まれた唐辛子の品種の中でも特に辛さがあることで知られています。
福岡県以外ではあまり生産されていないため、全国どこのスーパーでも手に入るわけではありません。激辛が好きで、いつも食べている唐辛子では物足りないという人は、お取り寄せなどで熊鷹を食べてみてはいかがでしょうか。
八房
房にたくさん実がなることから名付けられたのが八房です。葉の上に実が顔を出すようにして一斉に実るため、収穫がとても簡単です。古くから関東地方で生産されており、江戸時代にも七味唐辛子用にたくさん栽培されていました。
実だけではなく、葉の部分を摘み取って葉唐辛子として利用することもできます。
日光とうがらし
栃木県日光市あたりで古くから生産されているのが日光唐辛子です。日光市の名産としても知られており、実は10~15センチのシワシワした細長い見た目をしています。比較的栽培が簡単な唐辛子です。
青唐辛子のうちは辛みが少なく、赤くなっていくにつれて辛さがどんどん増していきます。様々なタイミングで収穫して、自分好みの辛さを見つけることもできます。
香川本鷹
香川本鷹は、名前の通り香川県で生産されている唐辛子です。一般的な鷹の爪と比較すると、2倍以上もの大きさがあり、豊かな香りと辛み・旨味が特徴です。数ある日本の唐辛子の中でも最高品種とされているだけではなく、香川県で生産されている農産物の中でも最古のものとして知られています。
近年は輸入された唐辛子を安く手に入れることができるようになったため、生産されることが少なくなってきました。平成18年に「香川本鷹復活プロジェクト」が始まり、香川本鷹の生産農家を増やす活動が行われています。
あじめコショウ
岐阜県中津川市の伝統野菜の1つが「あじめコショウ」です。飛騨・美濃の伝統野菜に認定されており、一味唐辛子や七味唐辛子の材料としても活用されています。
付知川(つけちかわ)に生息するアジメドジョウに似ていることから、「あじめコショウ」という名前が付けられました。鷹の爪などの一般的な唐辛子の3〜5倍もある辛さが特徴で、この辛さに魅了された愛好会があるほどです。青唐辛子のうちに収穫すると辛みが少ないので、生でも食べられます。赤唐辛子になってからはもちろん、青唐辛子の状態でもおいしいことから、多くの人気を集めています。
しし唐辛子
「ししとう」としておなじみ、青唐辛子の代表とも言えるしし唐辛子は、高知県での生産量がトップを誇ります。しし唐辛子は料理に彩りを添えるだけではなく、炒めたり焼いたり揚げたりと料理のレパートリーが多いのも特徴の1つです。
程よい苦味と甘みがあり、辛味はほとんどありませんが、まれに辛いものもあります。食感は柔らかく、天ぷらや焼き物、炒め物として調理されることが多いです。
万願寺とうがらし
万願寺とうがらしは、辛くないことで知られる青唐辛子です。15〜20cmと実は大きめで、ほんのりと甘みがあります。柔らかい実なので食べやすいです。
煮物や炒め物にしても良いですし、そのまま焼いて食べるのもおすすめです。
杉谷とうがらし
滋賀県甲賀市で江戸時代から栽培されているのが杉谷とうがらしです。甲賀市では伝統野菜としても知られています。
しし唐辛子に似た形をしていますが、先が曲がっているというとても個性的な形です。苦味がなく、甘いので、小さな子供でも食べられる唐辛子です。皮が薄いため、生でも食べられます。実際に甲賀市ではサラダの中に杉谷とうがらしを入れている家庭が多くあります。実だけではなく、若い葉も煮物にすることが可能です。
三宝甘長とうがらし
鳥取県の因幡地方で栽培されているのが三宝甘長とうがらしです。この地域のみでしか作られておらず、なかなかお目に掛かれない唐辛子です。昭和初期に東南アジアから持ち帰ってきた唐辛子を選抜して育成したことが始まりとされています。
長さ17〜20cmと大きめの実をしており、肉厚で柔らかい食感です。苦味もなく甘いのでピーマンが苦手な子どもでも食べやすい唐辛子です。丸ごと焼いて食べる焼き唐辛子が一般的な食べ方とされています。しょうゆを付けて食べると、実の甘味とよく合います。
ひもとうがらし
ひもとうがらしは、果肉が細長くて薄いため火の通りがよく、短時間で調理できる唐辛子です。また、種が小さく柔らかいのでわざわざ取り除く必要がなく、そのまま食べられるのも便利なポイントです。これにより、手軽に調理ができるため、忙しい時でもさっと使いやすいと人気です。奈良県の大和地方で主に生産されており、伝統野菜の1つとしても認定されています。
大きさは10~12センチほど、太さは5ミリほどという、まるでひものような特徴的な形をしています。炒めたり、天ぷらにしたり、煮浸しにしたりと高い汎用(はんよう)性も人気の理由の1つです。
清水森ナンバ
約400年前から青森県津軽地方で栽培されてきた唐辛子が清水森ナンバです。「ナンバ」とは津軽地方での唐辛子の呼び名で、南蛮に由来しています。
実は大きくて長く、青唐辛子のときは辛みが少なく、濃赤色の赤唐辛子になると辛さが増していきます。ですが、鷹の爪の辛さと比較すると、辛さの値は低いため甘みがあるまろやかな辛さが味わえます。
研究では、日本国内の他の品種の唐辛子よりも、ビタミンC・Eが多く含まれているという結果が出ており、栄養価の高い唐辛子であるとされています。
剣崎なんば
明治9年に石川県白山市で栽培されていた記録が残されているのが剣崎なんばです。
実は、艶のある赤い色をしており、普通の唐辛子と同じような太さですが、鷹の爪の2倍以上もの長さがあります。長いものでは15cm以上の実もあるほどです。
辛さは強いですが、ほんのり甘い後味と独特のコクがクセになります。
ぼたんこしょう
ピーマンそっくりな見た目の唐辛子がぼたんこしょうです。形が牡丹の花に見えることから「ぼたんこしょう」と名付けられました。
長野県中野市の旧豊田村の地域で、古くから栽培されています。昭和初期には栽培されていたことが確認できています。
ピーマンに似ているのは形だけではありません。果肉も肉厚で、食べたときにはしっかりとした歯応えがあります。部位によっては辛みがありますが、甘みが強い部分もあるため、どの部分が辛いのか見極めるのが重要です。
オウゴン唐辛子
オウゴン唐辛子は、日本で生産される非常に辛い唐辛子で、鷹の爪の約2倍の辛味成分を持つことで知られています。江戸時代中期から書物に登場しており、長い歴史を持つ国産品です。
鮮やかな黄金色の見た目が美しく、キレのある辛さと香り高い独特の風味が特徴です。料理に使うと、辛さだけでなく風味も楽しめるため、さまざまな料理のアクセントとして人気があります。
世界の唐辛子
唐辛子の品種
キャロライナ・リーパー
キャロライナ・リーパーは、2024年現在も世界一辛い唐辛子として知られています。アメリカのサウスカロライナ州で栽培され、2013年にギネス世界記録に登録されました。見た目は赤く、しわのある表面と先端に特徴的なしっぽがあるのが特徴です。
辛さだけでなく、フルーティーな甘みも感じられるため、ソースや調味料の材料として使用されることがあります。料理に使用する際は、少量であっても慎重に扱う必要があります。食べると口の中だけでなく、喉や胃にも強い刺激を与えるため、特に辛さに慣れていない人には注意が必要です。
ハバネロ
名前がよく知られているハバネロは、2~6cmの丸みのある実を持つ唐辛子です。以前まで世界一辛い唐辛子として知られていました。
アメリカ・ブラジル・メキシコなどで栽培されており、花が咲いてから2週間以上経った、うまみが詰まっている時期に収穫するのが良いとされています。辛さはもちろんですが、フルーティーな香りもあり、香辛料として欠かすことのできない唐辛子です。
ハラペーニョ
ハラペーニョは、メキシコ・ハラパ原産の唐辛子の1つです。ほとんどがメキシコで生産されたものですが、日本でも生産が可能です。日本産のハラペーニョの場合、種まきをしてから3カ月ほどで収穫が可能です。5〜9cmほどの実が収穫できます。
欧米での人気が高い品種で、日本では、タバスコの原料として使われたり、サルサソースの具材になっています。辛さが強いイメージがありますが、実際には鷹の爪よりもマイルドな辛さです。
ブート・ジョロキア
北インドやバングラデシュで栽培されている唐辛子の一つがブート・ジョロキアです。「ブート」はアッサム語でチベットやブータンといった地名、「ジョロキア」は唐辛子を意味しているので、「チベットの唐辛子」という意味になります。
ブート・ジョロキアはとても辛い唐辛子で、ハバネロの約2倍もの辛さがあります。原産地では香辛料として使用する他に、生で食べて胃の調子を整えたり、発汗したりして夏の暑さを乗り越えるために使われています。また、畑の柵にブート・ジョロキアの成分を塗り込むことにより、畑を荒らすゾウの忌避剤としても使われています。
プリッキーヌ
プリッキーヌの大きさは2~3センチととても小さく、緑からオレンジを経て、赤色へと変化していきます。主にタイ料理で活用されており、トムヤムクンの材料となっています。
日本の鷹の爪よりもスコヴィル値が高いのが特徴。小さいながらも、鷹の爪よりも辛い実なのです。実を乾燥させることで、鷹の爪と同じような使い方ができるようになります。
韓国とうがらし
その名の通り、韓国で生産されているのが韓国とうがらしです。鷹の爪よりも実が肉厚で、辛さの中に旨味や甘味があります。韓国料理としてなじみがあるキムチやコチュジャンの材料にも使われているほど、メジャーな唐辛子です。
家庭菜園でも育てやすいという特徴があるため、家庭菜園でできた韓国とうがらしを使った自家製キムチもおすすめです。
まとめ
辛い味が苦手な人には遠い存在である唐辛子ですが、中には辛みが少なく甘い実を持つ唐辛子もあるため、好みに合わせて食べやすい野菜であることが分かります。
さまざまな料理でも使うことができるので、好きな味の唐辛子を、好きな調理方法で味わってみてはいかがでしょうか。