アストンマーティンのフラッグシップ「DB12」に試乗する機会を得た。DB12にはハードトップの「クーペ」(Coupe)とオープントップの「ヴォランテ」(Volante)がある。今回はヴォランテにじっくり乗って、乗り心地や使い勝手、運転するとどのくらい楽しいのかなどを検証してみた。
冷却能力強化で出力向上!
アストンマーティンは1913年に設立されたイギリスの高級スポーツカーメーカー。映画『007』シリーズの「ボンドカー」(主人公のジェームズ・ボンドが乗るクルマ)として使われていることはあまりにも有名だ。
DB12は「DB11」(2016年に登場)の後継モデル。DB11が5.2LのV12ツインターボエンジン、最高出力608PS、最大トルク700Nmだったのに対して、DB12は4L、V8ツインターボエンジン、最高出力680PS、最大トルク800Nmとなっている。排気量をダウンサイジングしつつ、最高出力と最大トルクをともに向上させた形だ。大径ターボチャージャーの採用や冷却性能の強化などにより、パワートレインの性能を引き上げた。
DB11よりも幅が広くなったフロントグリルは、まるで口を大きく開けているかのようで迫力満点。グリルの大型化は単にデザインを優先しただけではなく、冷却性能の強化という機能的な役割も担っている。
さっそく車内へと乗り込んでみる。DB12 ヴォランテのサイズは全長4,725mm、全幅1,989mm、全高1,295mm。乗るとかなり低い視界になるのではと思っていたが、思ったほど低くは感じず、視界もそれなりによかった。大きなサイドミラーのおかげで後方もよく見える。
車内の至る所が革張りで、高級感にあふれている。座り心地もよく、深く沈み込むようなシートはまさに極上。ハンドルもスポーツカーらしく頼り甲斐のある太さだ。
エンジンを始動してみると、想像していたよりは静かでありながら、迫力あるエンジン音が響きわたる。都市部の市街地から首都高を走り抜け、郊外のワインディングロードを目指した。
オープンカーとは思えない静粛性
事前の情報で「かなり硬い乗り心地だ」と聞いていたが、首都高や郊外の広い道路を60キロ以上の速さで走っていると、あまり硬さを感じなかった。しばらくして走り慣れたのかもしれないが、それにしても「ガチガチに硬い」ということはなく、むしろほどよい揺れや振動が心地よかった。
DB12 ヴォランテはアンダーボディの横方向の連結など、構造要素を強化している。横剛性の改善により、サスペンションのパフォーマンスと洗練度を高めたことで全体的なねじり剛性も向上させた。こうした改良の効果なのか、高速域からハンドルをキツめに切ってもブレやふらつきがなく、車体がしっかりと付いてくる感じがある。剛性感の高さはスポーツカーを乗る上で欠かせない要素だ。
DB12は「インディビジュアル」「GT」「スポーツ」「スポーツ+」(そのほかウェットモードなどもある)のドライブモードを備えている。さすがにスポーツ+を選ぶとエンジン音が変わり、乗り心地もグッと硬くなるが、アクセルを踏み込めば想像を超えるパワフルな加速体験が得られる。ただ、長時間の運転では疲弊してしまいそうだ。長距離運転のときはスポーツ+以外のモードの方がいいだろう。
オープンカーでありながら車内の静粛性が高かった点は強調しておきたい。幌を閉じていれば風切音はもちろん、車外の騒音、ロードノイズなどもなく、密閉度の高さが感じられた。
後席はあってないようなもの
DB12 ヴォランテがドライブして楽しいクルマだということは十分にわかった。では、日常使いでうまく扱えるのか。まず後席シートだが、作りは申し分ないものの、成人男性が乗車するにはかなり狭く、足元のスペースはないに等しい。バックパックなどを載せるスペースとして使うことになりそうだ。
次にラゲッジスペース。幌を閉じている状態であれば、それなりに荷物が積める。ただ注意したいのは、オープンカーにすると幌がラゲッジスペース内に収まることになり、容量が圧迫されること。実際に試せてはいないが、オープンカーの状態ではゴルフバッグが1つ積めるかどうかといったところだろう。
正直、イマイチな点もあった。走行中、ルームミラーの付け根から絶えずカタカタと音がしていて、手で抑えると音が止まるといった具合だったのだ。パワーウィンドウのスイッチもグラついていて、たてつけが悪い。そのほか、ナビ周りの使い勝手もいまひとつ。アップルカープレイは無線で接続できないし、ナビ画面のタッチの反応もあまり良くない。
執筆時点での車両本体価格は3,190万円。とても庶民が買えるような値段ではないが、これだけの作り込みで、ときに開放的に走れて、ときに異次元ともいえるパワフルな走りも体感できて、そして高級スポーツカーらしいスタイリングが手に入るのであれば、決して高すぎるということはない!(かもしれない……)。
走り慣れた道も見慣れた景色も、このクルマで走れば違って見えてくる。DB12 ヴォランテは、いつものドライブを刺激的にしてくれる存在だった。