メルセデス・ベンツ日本はGクラスのBEV、G 580 with EQ Technologyを発表、発売した。価格は2635万円(専用装備をあしらったEdition1)。BEVだからこそ出来る様々なエンジニアリングが搭載されているが、それ以外にもトピックがあるのでそれを交えながら解説したい。
【画像】発表会で見たG 580 with EQ Technologyのインテリアとオフロード性能(写真23点)
数字が足りなくなったので
実は昨年に商品改良され、既に日本に導入されているG 450dとAMG G63から型式が”463”から”465”に変更され、これはGクラスファンならずとも驚きの声が上がった。というのも2018年のフルモデルチェンジ級の改良が施されたにもかかわらず、463を死守していたからだ。当時、本国の開発者にそのことを尋ねると、「ユーザーに”Gクラスは変わってしまった”というネガティブなイメージを持ってもらいたくなかったから」とコメントしていた。しかし、昨年の改良は2018年と比較し、そこまでの大きな変更はない。そこで来日したメルセデス・ベンツグループ社Gクラスプロダクトマネージャーのトニ・メンテルさんにその理由を問うてみた。すると、「理由は非常にシンプルです。463を長年にわたって使ってきましたので、製造の過程に必要なさまざまなコードを使い果たしてしまったんです」とその理由を明かす。型式は463のあとにエンジンの種別、ボディ形状などをコード化し、既定の桁数に収めるように決められている。Gクラスの場合は様々なバリエーションがあることから、ついに使い果たしてしまったのだ。そこで今回の型式変更につながったわけである。
ただし、トニさんは、「Gクラス特有の様々なパーツだけでなく、アイコニックな部分、そして走行性能などはこの型式が変わっても、きちんと継承しています」とコメントしていた。
EQという名前の関係性
もうひとつ、G 580 with EQ Technologyという名称も気になるところ。昨年のジャパンモビリティショーでは”コンセプトEQG”と呼ばれており、EQブランドを前面に出して電動車を強調していた。例えばEQSやEQE、コンパクトSUVのEQAなどと同じく、EQブランドであることのあかしだった。しかし、今回は内燃機関と同じ名称、G 580とされ、その後ろにwith EQ Technologyという少々長いサブネームがつけられた。
これもトニさんに尋ねてみると、その歴史から説明する。「メルセデス・ベンツが電動車両を全部EQで名前をつけていたのは、世界中の人たちにメルセデス・ベンツは真剣に電気自動車を開発していることを知らしめたかったからなんです。しかし、メルセデスの全てのモデルが電動化することになりました。さらにGクラスはすごく特徴的で、BEVでもICEみたいに見えるんですね。それであればG 450とかG 580という名前にしたらいいのではないか。ただEQテクノロジーは搭載されているのでwith EQ Technologyとなっています。この新しい名前の付け方はGクラスからです」とコメント。現行でEQSなどと付けられている車は継続するが、今後に関してはGクラスと同じようにこれまでの内燃機関と同じ記号性を持たせながら、with EQ Technologyというサブネームがつけられていくことになりそうだ。
ラダーフレームとバッテリーパック
G 580 with EQ Technologyは再三述べたようにGクラス初のBEVである。その開発で最も苦労したのはやはりバッテリーの搭載だった。トニさんは、「まずはラダーフレームやオフロード性能など全てICEで備えているものはBEVでも取り入れたいと思っていました」と開発スタート時点での考えを語る。その上で、「700キロ以上あるバッテリーを搭載しなければなりません。そこでまずラダーフレーム自体をリエンジニアリングする必要がありました」という。「最初はラダーフレームにバッテリーを下から乗せることを考えていました。しかしバッテリーがはみ出てしまうのでグランドクリアランスが確保できずダメでした。やはりフレームの中に入れなくてはいけない。さらに、捩じれ剛性やオフロードでの下からの衝撃もクリアしなければいけないわけです。そのうえ、四輪それぞれのモーターも組み込む必要がありましたので、フロントとリアのアクスルが上下に動く際にそれらと干渉しないようにもしなければいけません」とその苦労を語る。
そこで、アンダーボディプロテクションを採用。これは、バッテリーを強固に守る専用の装備だ。カーボンファイバーを含む様々な素材を組み合わせた厚さ26mmの頑丈なアンダーボディパネルで、50を越えるスチールボルトによってラダーフレームに固定されている。このテストは4つの支点でG 580を持ち上げ、その上にもう2台Gクラスを乗せる。そうするとアンダーボディプロテクションには10トン以上の負荷がかかりゆがみが生じてしまう。しかしバッテリーパッケージとアンダーボディプロテクションが接触しないくらいの余裕は持たせているため、その干渉を防ぐことができるのだ。そのほかにも渡河時のバッテリーショックや、岩などからの衝撃も十分にテストされクリアできているという。
BEVだからできたこと
このようにGクラスの堅牢性や悪路走破性はこれまで通りかそれ以上を確保したうえで、BEV化することで、電動化されたからこそ可能になったオフロード性能が多く備えられた。大きく2つ例を挙げるとGターンとGステアリングだ。
Gターンはオフロードの未舗装路等で最大2回転まで旋回可能な機能だ。例えば前方に障害物が現れ、それ以上先に進めなくなった場合、左右の車輪を逆回転させることで左右いずれかの方向に車を中心にして自在に方向転換できるもの。4輪それぞれのモーターを個別に制御することで可能になったものだ。もちろん路面状況や傾斜角度などによって作動できるかどうかは車側が判断する。また、公道上での使用は勧められない。
そしてGステアリングは、オフロードの未舗装路等走行時に大幅に回転半径を縮小できる機能で、各輪のモーターの駆動トルクを個別に制御することで、後輪軸を中心に旋回することができるもの。これにより、タイトなコーナーでもステアリングを切り返すことなく曲がることができる。
こういった機能を盛り込んだG 580 with EQ Technologyのスペックを最後に紹介しておこう。前述のGターンなども可能にした新機構の4輪独立式モーターを搭載し、最高出力 108kW の各モーターは、専用に強化されたラダーフレームの前後アクスルに2つずつ組み込まれ、システムトータルで 587PS(432kW)/1,164Nm を発生。最大渡河水深はG 450dの700mmを上回る850mmを実現。航続距離は、530kmとされた。
このG 580 with EQ Technologyを購入するユーザーはいまGクラスに乗っている人、あるいはこれから購入しようかと考え、オフロード面でこれまでのGクラス以上の性能に価値を感じる人たち。つまりBEVのGクラスだからというよりも、オフロード性能がより高いGクラスだからほしいという人たちだとのこと。Gクラスファンがどのくらい注目するか、とても楽しみだ。
文:内田俊一 Words: Shunichi UCHIDA
写真:内田俊一、メルセデス・ベンツ日本 Photography: Shunichi UCHIDA, Mercedes-Benz Japan