関西の大手4交通事業者が10月29日から、乗車にクレジットカードのタッチ決済を利用する「stera transit」に対応する。すでに南海電鉄などでも導入されていたが、近鉄、阪急、阪神、Osaka Metroの4事業者が対応することで、関西での対応エリアが一気に広がることになる。
「タッチ決済の時代、交通乗車の新しいステージが始まる」
stera transitは、公共交通機関向けのクレジットカード決済プラットフォームで、改札機に搭載したリーダーにクレジットカードをタッチすることで入退場が可能になる。事前の申し込みや事前チャージは不要で、普段買い物などに使うクレジットカードをタッチすればそのまま電車やバスなどの交通機関を利用することができる。
すでに31都道府県133事業者が導入しており、大手私鉄からバス、フェリーなど、様々な交通機関が利用可能になっている。
2025年度末にはこれがさらに拡大し、42都道府県の公共交通機関で利用可能になる見込み。2024年度末までに大手私鉄などで16社、公営地下鉄で8社の52%の駅がタッチ決済に対応予定。25年度末には70%まで拡大する計画だ。
世界ではすでに公共交通機関830事業者がタッチ決済に対応しており、特に英国・ロンドンでは乗車の9割近くがタッチ決済になっているそうだ。
三井住友カードの代表取締役社長兼最高執行役員の大西幸彦氏は、「2023年頃には国内のVisaのクレジットカード利用の10%程度がタッチ決済だったが、直近では40%を超えるところまで来ている」と指摘。「タッチ決済の時代に突入している」と強調する。
大阪・関西万博をはじめとしてインバウンドの拡大がさらに期待される中、日本に訪れる観光客の利便性拡大と利用拡大につながるとして普及を進めたいというのが三井住友カードの考えだが、それだけでなく、タッチ決済は「地域の人にも日常的に便利に利用してもらえる」と大西社長はアピール。
すでにstera transitを提供している事業者の中でも、タッチ決済利用の9割が国内ユーザーで日本人の利用も増えている。1枚のクレジットカードで交通機関の乗車から買い物までをカバーできるうえに、「ポイントも貯まる」と大西社長。
さらに、stera transitでは今後MaaSサービスも提供していく計画。これによって複数の交通機関を接続したり、交通以外の消費を喚起したり、様々なサービスの提供が可能になる。大西社長は、「stera transitはMaaSと最も相性のいい決済手段」だと話し、2025年3月以降に、まずは企画乗車券サービスを提供して、順次サービスを拡大していく考え。
そうした今後のstera transit拡大に向けて、今回の関西圏4社の一斉導入は大きな取り組みで、「交通乗車の新しいステージが明日から始まる」と大西社長は強調する。
名古屋から神戸までの一大ネットワークに対応
関西圏では、すでに南海電鉄や大阪モノレールに加え、神戸市の交通事業者などがstera transitを導入済み。これに加えて近鉄、阪急、阪神、Osaka Metroが対応することで、関西エリアの対応事業者は12社に拡大する。
これによって「東は近鉄名古屋駅、西は神戸高速線の長田駅」(大西社長)までをカバーする一大交通網がクレジットカードのタッチ決済に対応することになる。日本特有の相互直通にも対応するため、複数事業者にまたがった移動でもそのまま改札から出場できる。
Osaka Metroは、磁気カード、交通系IC、QRデジタル乗車券、顔認証といったさまざまな技術を導入しており、タッチ決済の導入によって「便利でスムーズな乗車をしてもらえるようにしたい」と大阪市高速電気軌道の堀元治氏は話す。
ほかの新規導入各社も、タッチ決済の利便性向上、ストレスフリーな乗車が可能になる点をメリットとして挙げ、stera transitへの期待感を見せる。各社とも、インバウンドの増加によって訪日観光客が現金で切符を購入するなど、券売機付近での混雑などを問題視。特に観光客の多いエリアの駅での混雑緩和を期待する。
これには、先行する南海電鉄が一定の効果を見せていたことも影響。ただ、南海電鉄でのタッチ決済の利用は1日1,000件、1カ月で3万件程度とのことでそれほど多くはない。これは、関西国際空港駅からタッチ決済での乗車が可能だったものの、当初は16駅しか対応しておらず、現時点でも泉北高速鉄道を含めて47駅にとどまるため、PRが不足していたと南海電鉄の鉄道事業本部長梶谷知志氏は認める。
これは、相互直通先の鉄道事業者が利用できなかった点も影響していた。そのため、新規対応する鉄道4社は全駅での一斉導入を目指して準備を進め、10月29日の一斉対応にこぎつけた。南海電鉄も「今年度中にはほぼ全駅に導入する」(梶谷氏)予定で、南海側のアピールも本格化させる考え。
関西圏の多くの駅でクレジットカードのタッチ決済に対応することで、各社もPRを本格化。三井住友カードの大西社長もVisaやMastercardの国際ブランドの協力を仰いで海外ユーザーへタッチ決済対応をアピールしていく考えを示している。
さらに各社は、2025年の大阪・関西万博には350万人のインバウンドによる来場者が訪れると予測されており、こうした利用者が迷うことなく乗車して公共交通機関を利用できる環境を構築したい考えだ。
stera transitは、クレジットカードを利用することで交通乗車のデータだけでなく、購買データも活用したマーケティングにも繋げることができる。先行する南海電鉄のデータでは、利用者のほとんどは日本発行のクレジットカードを使っているが、海外発行のカードユーザーの中では、導入当初は欧米が中心だったものの、最近は韓国利用者が増えているという。
年間利用件数も、コロナ禍で利用者が少なかった2021年度に5万件だったものが、2023年度には35万件ほどにまで拡大。南海電鉄の梶谷氏も、こうしたデータに加えて沿線の商業施設などとも連携し、クレジットカードの利用動向を組み合わせて分析をすることで、様々なニーズに沿ったサービスを検討していきたいとしている。
また、交通系ICを含めたほかの決済手段とのすみ分けについては、各社とも特に現金と磁気カードの置き換えをまずは狙う方向性のようで、交通系ICやQRチケットとは共存していくとの考えだ。
なお、関西エリアではJR西日本や京阪もあるが、大西社長は「各社の判断で、引き続き導入に向けて取り組む」として、継続的に導入を促す意向。対応が決まったMastercardは減じてではまだ「準備中」との扱いで、大西社長は「大阪・関西万博までには対応するようにしていきたい」と述べるにとどまった。