「Apple M4」プロセッサーの登場により、Apple製品が搭載する「M」系プロセッサーは若干混乱を伴うラインナップとなっている。一体どのプロセッサーが一番速いのか。

M系プロセッサの各モデルは、高性能コアとGPUコアの数が上にいくに従ってどんどん増えていく形で強化されている。ちなみに図にはないが、「Ultra」は単純にMaxを2つ繋げただけの脳筋SoCで、サイズもやたら大きい。

  • M系の比較

この4つのモデルの違いは、基本的にCPUおよびGPUのコア数と、最大メモリ搭載量(および帯域幅)だけだ。前回、A/M/Sの比較で世代が同じならコアの性能はほぼ同じだと言ったが、同じ世代間でも、コア1つあたりの性能は、どのモデルでもほぼ同等なのだ。つまり、ウェブを見る、音楽を再生するといった、高効率コアでも済みそうな比較的軽い処理しかしないなら、M1とM1 Maxの間での性能差はほとんどない(さすがにUltraは高効率コアも多いので、多少違うかもしれない)。

一方、これが3D CGのレンダリングなど、並列処理が効果的な処理になると、コア数によるブーストやメモリ帯域幅の強化が大きく効いてくる。Pro以上のモデルは、文字通りプロ向けのプロセッサというわけだ。

実際、搭載されている製品群を見ても、iMacやMac mini、MacBook Airといったコンシューマ向けプロダクトにはM1が、プロ向けであるMacBook ProやMac StudioにはM1 ProやM1 Max、M1 Ultraが搭載されている(MacBook Pro 13インチモデルのみ「Pro」の名が付いているのにM1止まりだったが、あれは、実質無印MacBookの「名ばかりPro」だったので…)。M系のプロセッサは「コア数が全て」だと覚えておこう。

現在のプロ向けデスクトップMacを支える「M2」

M1世代の次に登場するのが、2022年6月に発表された「M2」プロセッサだ。M2はコアのアーキテクチャが刷新され、iPhone 13シリーズに搭載される「Apple A15 Bionic」と同世代になっている。製造プロセスはM1と同じ5nmだが、プロセス自体が第2世代のものになっている。また、M2世代でも「Pro」「Max」「Ultra」の各モデルは存在しており、それぞれM1世代と比較してコア数が増強されている。

基本となるコアのアーキテクチャが刷新され、クロック周波数も1割程度向上したこともあり、M1と比較するとCPUで十数%、GPUで30%以上、Neural Engineで40%近く性能が向上しているという。

  高性能コア 高効率コア GPUコア Neural Engine メモリ(GB) メモリ帯域 トランジスタ数
M2(モバイル) 4 4 8〜10 16 8〜24 100 200億
M2 Pro(ミドル) 6〜8 4 16〜19 16 16〜32 200 400億
M2 Max(プロフェッショナル) 8 4 30〜38 16 32〜96 400 670億
M2 Ultra(ハイエンド) 16 8 60〜76 32 64〜192 800 1,340億

M2系ではM1系と違って高効率コアが4つになり、GPUコア数も少しずつ増えている。特にProとMaxの間では、GPUコア数がほぼ2倍になっている。GPUによるブーストが効くソフトでは、かなりの差が出るだろう。

バリエーションとしては、2023年1月にM2 ProとM2 Maxが、6月にはM2 Ultraがそれぞれ登場した。それぞれM1世代と比較してコア数が増強されている。なお、M1からM2への変更点とは異なり、メモリ帯域は同じだ。

さてこのM2系だが、現時点(2024年10月)でのMacのラインナップで最上位モデルであるMac ProやMac Studioに採用されている。M4の登場後、世代としては2世代前のプロセッサが今も最強を張っているというのも面白いところだ。また、無印のM2は、先代までのiPad ProやiPad Air(M2)、Apple Vision Proにも搭載されており、省電力とパフォーマンスのバランスが優れたプロセッサであることが伺える。

モバイル系Macを支える「M3」

第3世代となる「M3」は、2023年10月に発表され、MacBook Pro、iMac、MacBook Airなどに搭載された。本校執筆時点(2024年10月)では、Macに搭載されるプロセッサとしては最新のものになる。

この世代では製造プロセスが3nmになり、CPUのクロックがM2から、さらに2割弱向上。GPUも新世代になり、ハードウェアレイトレーシング、ハードウェアメッシュシェーダーが搭載されている。コア設計は「Apple A17 Pro」と同世代になると予測される(後述)。ちなみに「A16 Bionic」世代が飛ばされた形だが、A16は「S9」や「S10」と共通のコア設計なようだ。

M3は高性能コア4・高効率コア4という構成自体はM2と同じだが、M2世代と比べて高性能コアで最大約15%、高効率コアで最大約30%の高速化と謳われている。またGPUが新世代になっているため、レイトレーシングやメッシュシェーダーを使用するアプリ(特にAAAゲームタイトル)では、さらなる性能向上が見込まれる。M3からは搭載メモリも最大16GBまで増えているので、データ量の多い処理でもM2より快適に動作するだろう。

ただし、Neural Engineの世代はどうもA16と同じではないかと思われる。というのも、AppleはM3のNeural Engineについて18TOPSであると公言しているが、同じ世代のプロセスを使用しているA17 Proは35TOPSと、ほぼ2倍近い。要するにM3は「CPUとGPUはA17 Pro世代、Neural EngineはA16世代」という、中間世代的なSoCのようなのだ。

そんなM3世代のバリエーションは「M3 Pro」と「M3 Max」が登場しているが、まだ「Ultra」は登場していない。そしてこのM3 ProとM3 Maxがまた、M3と同様に、少々クセ者という印象がある。

  高性能コア 高効率コア GPUコア Neural Engine メモリ(GB) メモリ帯域 トランジスタ数
M3(モバイル) 4 4 10 16 8〜24 100 250億
M3 Pro(ミドル) 5〜6 6 14〜18 16 18〜36 150 370億
M3 Max(プロフェッショナル) 10〜12 4 30〜40 16 18〜128 300〜400 920億

M3 Proを見てみると、高性能コア5〜6+高効率コア6という構成になっており、M2 Pro(高性能コア6〜8+高効率コア4)と比べると高効率コア重視の構成になっている。メモリ帯域は150GB/Sとなっている(資料により、18コア版は200GB/Sという情報もあるが、Appleは公式には150GB/Sとしている)。M2 Pro(200GB/S)よりも帯域幅が狭いのだ。

M3 Maxのほうは、高性能コア10〜12+高効率コア4という、M3の正常強化版とでもいうべき構成で、M2 Max(高性能コア8+高効率コア4)よりも高性能コアのコア数が増加している。メモリ帯域は30コアGPU搭載版こそ300GB/Sだが、40コア搭載版ではM2 Maxと同じ400GB/Sになる。

このように、M3 ProとM3 Maxは、モデルによってメモリ帯域幅がM2に劣るケースがある。メモリ帯域幅は、例えば大規模言語モデル(LLM)のようにメモリ食いで大量のデータを扱うタスクにおいて、直接パフォーマンスに直結する。もちろん、コアの性能向上やコア数の違いもあるので一概には言えないのだが、ケースによってはM2系を選んだ方がいい場合があるかもしれない。

ところで余談になるが、発売したばかりのiPad mini(第7世代)は、M系ではなくM3系と同じコア設計のA17 Proを搭載している。最新のiPadなのにMシリーズが搭載されなかったことに少々残念な感はあるが、A17 Proであれば新型GPUによりゲームタイトルも快適に動作するし、Apple Intelligenceが要求するNeural Engineの性能もM3の2倍近い。A系を搭載することでコストも抑えられており、Apple Intelligence対応ハードとしては現在最安のデバイスとなっており、考えようによってはM2やM3を載せるよりよかったのかもしれない。

最新最強のM4

2024年5月、M3の登場から約7カ月という異例の短期間で登場したのが「M4」だ。M4はM3と同じ3nmプロセスながら、第2世代プロセスを採用している。これまでのM系プロセッサと違い、高効率コアの数(6)が高性能コア(3〜4)を上回っているのがかなり特徴的だ。プロセス的にはiPhone 16 Proに搭載された「Apple A18 Pro」と同世代だが、これまでとは違って「A」系より先に登場した「M」系プロセッサということになる。

  高性能コア 高効率コア GPUコア Neural Engine メモリ(GB) メモリ帯域 トランジスタ数
M4(モバイル) 3〜4 6 10 16 8〜24 120 280億

AppleはM1比でCPUが最大50%、GPUが最大65%性能向上しているとアピールしているが、これを信じればM3比で15〜20%程度の性能向上が見込まれることになる。また、Neural Engineが強化され、M3時代の2倍以上の処理性能を発揮するという。実際、38TOPS(1秒間に38兆回演算)という高い性能を発揮しており、M3より20%高まったメモリ帯域幅(120GB/S)も合わせて、Apple Intelligenceでは圧倒的な性能を発揮してくれることだろう。

iPad Proシリーズは「M3」をスキップして「M4」を搭載することになったが、M4が全体的に省電力寄りの設計になっていることや、iPad Pro(M4)では放熱用にグラファイトシートを搭載し、ロゴを放熱効率の高い銅に変えたりしていることから、M3はiPadで採用するには「熱すぎた」ことが窺える。

今のところ、M4世代には「Pro」「Max」「Ultra」という上位モデルが存在しないが、登場するのはおそらく時間の問題だろう(正直、本稿が掲出される頃には登場していると思っていたのだが)。Macに搭載されるときはこれまで通り、Mac miniやMacBook Air、iMacに「M4」が、MacBook Proに「Pro」「Max」が搭載されると予想される。

M4にも「Ultra」が登場するか、そしてMac ProやMac Studioに搭載されるかは不透明だが、大絶賛売り出し中のApple Intelligenceで最高性能を叩き出すためには、最上位モデルが最新のNeural Engineを搭載しないのは考えにくいため、M4 Ultraが登場するだろう、というのが筆者の予想だ。

ところで、ことあるたびにAppleは「〇〇は××のために設計された」という表現をする(例えばM4はiPad Proのため、A17 ProはiPhone 15 Proのため)が、当然のように他機種にも流用している。宣伝文句として強い言葉を使いたい気持ちはわかるのだが、あまり盛った言い方をするのも品がよろしくないと思うのは、筆者だけではあるまい。

今後はどうなる?

ざっくりとM系プロセッサの歴史と立ち位置を振り返ってみたが、ほぼ1年おきに世代が更新されてはいるものの、性能の向上は1〜2割程度ずつ上がっていくという、比較的緩やかな向上だ。こういうことを技術革新最高!新しいもの最高!というIT系ライターが言っていいものかどうか悩ましいが、まあ3年に1回くらい買い替えていけば、概ね満足できるんじゃないかな、という感じだ。

Macに関して言えば、筆者としては前述のとおり、今後はM4系が主流になっていくと予想している。少なくともM2系からの乗り換えであれば、満足いく性能向上になるのではないだろうか。特にプロ向けの2モデルについては、かなり期待していいように思う(M4 Ultraが出れば、だが)。

おまけ:A18について

ところで余談。iPhone 16に搭載された「A18」と、iPhone 16 Proに搭載された「A18 Pro」だが、「A18」は3nm、「A18 Pro」は第2世代の3nmということで、ナンバーは似ているが、製造プロセスの世代は異なる。A18はA17 Proの改良版という位置付けに近そうなのだ。

そしてAppleはA18の性能を「A16よりCPUで30%、GPUが40%高速」と謳っている。一方A18 Proに関しては「A17 ProよりCPUで15%、GPUで20%高速」としており、比較対象が違っている。ではA17 Proはどうだったかというと、「A16よりCPUで10%、GPUが20%高速」という。とすると、A18 ProはA16より「CPUで1.11.15=126.5%、GPUで1.21.2=144.4%」高速ということになり、CPUパワーではA18がA18 Proをわずかに上回ることになる。M4に関しては前述の通り、M3よりCPUパワーで15〜20%程度向上しているはずなのだが、A系についてはまた少し事情が異なるのかもしれない。