『Octane』ではそのタイトルが示す通り、電気自動車をあまり多く取り上げることはない。しかし、だからといってクラシックカーにおける新技術を否定しているわけではない。例えば、3Dプリント技術がこの業界に革命をもたらしているのは事実だ。
【画像】未来の象徴たるデロリアンのEVコンバージョンは、理にかなった選択だ(写真6点)
ただし、EVコンバージョンについて考えるときは、自分に問いかけなければならないことがある。それは、単に運転のダイナミクスだけではなく、車が与える体験全体――その車がどのように感じさせるのか――が向上するかどうか、という点だ。
多くのクラシックカー愛好家にとって、エンジンはその車の魅力の中核にある。しかし、中には例外もある。デロリアンDMC-12はその一例だ。 デロリアンは登場当初から、ジョン・デロリアン自身の言葉を借りれば「遊び好きな独身男性向け」の車として知られていたが、そのイメージを損ねていたのはPRV(プジョー・ルノー・ボルボ)製のV6エンジンだった。アメリカ仕様ではわずか130馬力しかなく、『Road & Track』誌も「0-60mphの加速は10.5秒で、決して速い車とは言えない」と辛辣に評していた。ボルボ262Cやプジョー604にとってはそこそこのエンジンだったかもしれないが、フェラーリのV8のようなカリスマ性には遠く及ばない。
今日のデロリアンが抱える最大の問題は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場する核燃料で動くタイムマシンというイメージと切り離せないことだ。まさに未来の車の象徴である。だからこそ、他のどのクラシックカーよりもデロリアンのEVコンバージョンは理にかなっていると言えよう。
オックスフォードシャーを拠点とするElectrogenic社(electrogenic.co.uk)は、車のレストアを手掛けているわけではないと、創設者のスティーブ・ドラモンドは語る。同社は、世界中どこでも代理店が取り付け可能な「プラグ・アンド・プレイ」式のEVパワートレインにフォーカスしている。この走行距離47,000マイルのデロリアンも、車体構造には手を加えられておらず、サスペンションのアップグレードも施されていない。電動化後のデロリアンの重量は、標準モデルからわずか40kgしか増加していない。
このわずかな重量差によって、この車が本来いかに快適な走行性能を持っていたかが証明された。しかも、速さはオリジナルのV6モデルの倍。0-60mphの加速は約5秒と、半分に短縮されており、最高速度は120mphと堂々たるものだ。航続距離は150マイル以上が見込まれている。ダイナミクス面でも、ウェットのテストトラックでタイトなコーナーを攻めた際には、最初のアンダーステアをアクセル操作でオーバーステアに変えることができ、ノンアシストのステアリングも快適だった。
電動デロリアンには3つの走行モードがあり、エコ、ノーマル、スポーツを選べるが、実際のところ、エコモードでも十分なパワーを感じることができる。しかし、ノーマルモードが最もバランスが取れていると感じた。エコモードよりも強い回生ブレーキのおかげで、より高いパフォーマンスを発揮し、ブレーキを踏まずに減速できるという満足感も得られるからだ。スポーツモードでは、30mph以上のスピードになると回生ブレーキがカットされ、高速走行時に車の挙動が乱れないように配慮されている。賢い設計だ。
車内の変更点は最小限に抑えられている。新たに追加されたのは、バッテリーの充電状態を示すインジケーターと、センターコンソールに設置されたドライブモードを選択する2つのツイスト式コントロールのみだ。エアコンはアップグレードされているが、それ以外は1980年代の内装がそのまま保たれ、時折聞こえるきしみ音まで当時のままだ。
唯一ネックとなるのは、このコンバージョンには約10万ポンド(約1,800万円)かかるということだろう。しかし、Electrogenic社はクラシック・ミニ用のEVパワートレインを2万ポンド(約360万円)でリリースする予定だというから、今後の動向に注目だ。