福岡市交通局は、地下鉄空港線・箱崎線に導入する新型車両4000系の報道機関向け見学会を10月23日に実施。車体前面が切妻形となった外観に加え、車内設備等の概要説明も行われた。新型車両4000系は11月以降の運用開始をめざし、準備が進められている。

  • 福岡市地下鉄空港線・箱崎線の新型車両4000系。既存車両とは異なる切妻形の前面形状が特徴

地下鉄空港線・箱崎線で現在活躍している1000N系・2000N系のうち、1000N系(1981年から導入された1000系を改造)の老朽化に伴う置換えとして、新型車両4000系が順次導入される。1000N系と同数の計108両(6両編成×18編成)を製造し、2027年度までに全18編成を更新する。

乗務員らの声を踏まえ、機能性・実用性を重視した前面形状に

昨年11月、新型車両のデザインと機能が公開された際、既存車両とは大きく異なる切妻形の前面形状が注目を集めた。このような前面形状の車両について、鉄道ファンらを中心に「食パン電車」と呼ぶことがある。国鉄時代末期に登場した419系・715系(特急形寝台電車581・583系を普通列車用に改造。中間車を先頭車化改造した車両が切妻形の前面形状だった)でこのあだ名が付いたといわれ、現在も一部の改造車両等で「食パン電車」と呼ばれている。

新型車両4000系も、ナイフでまっすぐ切った後の断面を思わせる平らな前面形状に加え、屋根部分の曲線がパンの耳を連想させ、つい「食パン顔」と呼びたくなってしまう。一般紙等でも、「令和の食パン」または車体前面のブルーにちなんだ「青い食パン」などと報道されていた。

  • 車体前面から側面上部にかけてのブルーは1000N系・2000N系のカラーを継承。窓周りは福岡空港と希望の未来をイメージしたというスカイブルーを新たに配色した

切妻形の前面形状を採用した理由について、報道機関向け見学会で質問したところ、「デザインというより機能性を重視した」と答えが返ってきた。「運転台の機器配置や視認性など、どのような形だと乗務員にとって運転しやすいかヒアリングしました。その結果、平面の形状が最も前方を見やすい、運転しやすいとのことでした。乗務員が運転しやすいということは、お客さまをより安全にお運びできることにもつながります。どちらかといえば実用重視です」

既存の1000N系・2000N系と同様、4000系も編成同士を連結しての営業運転は行わないため、非常用の貫通扉を車体前面の端(向かって左側)に設置している。その分、運転台前方の窓を広く取り、切妻の平面ガラスとしたことで、乗務員にとって視野が広がり、運転時の視認性向上に役立っているという。思いのほかインパクトの強い「食パン顔」だが、実際に車両を動かす乗務員らの声を踏まえ、機能性・実用性を重視しつつ、地下鉄車両らしさもあるデザインに仕上がっていると感じた。

余談だが、11月2~4日にキャナルシティ博多で開催される「パン! パン! マルシェ 2024」にて、初の地下鉄コラボ企画として「ちか旅ブース」(12時~)を出展。新型車両4000系と人気ベーカリー「マツパン」のコラボ食パンを限定販売(各日30本、価格700円)するという。4000系をモチーフとした特別仕様のボックスに入れて渡す予定だが、「注意 : 青い食パンではございません」とのこと。

一般的な通勤車両より低い荷棚、背景に福岡都市圏ならではの事情

新型車両4000系の運転台はグラスコックピットを採用しており、「液晶画面を3画面準備し、そこに機能を集約しています」と説明。機器の集約で「運転台としてはわりとすっきりした印象の配置」になったことに加え、「運転台の機器を液晶式にすることで、機器の視認性が高くなりますし、各種表示が可能になり、仮に機器トラブルがあったとしても運転支援のような機能を盛り込めるため、乗務員がより安全に乗務できるようになります」「車内で非常通報ボタンが押された場合も、付近の映像が自動的にモニターへ表示できるようにしました。多くの画面を使うことにより、車内のさまざまな情報がひと目でわかるような機器配置にできています」とのことだった。

  • 運転台はグラスコックピットを採用

  • 液晶画面を3画面配置し、機能を集約している

座席はロングシート主体の配置で、1人あたりの座席幅を480mmに広げている。一般的な通勤車両より低い位置に荷棚を設置したことも特徴のひとつに挙げられ、「福岡都市圏は荷棚の使用率が低く、これが車内の奥へ詰めての乗車がしづらい要因にもなっています。荷棚をできるだけ下げ、荷物を置きやすくすることで、車内の奥へ詰めやすくなるよう工夫しています」と説明があった。ガラス板の採用等により、荷棚を下げても着席している乗客が窮屈さを感じないようにしたという。

車内設備で最大の特徴といえる6号車(福岡空港方先頭車)のフリースペースは、海側(北側)・山側(南側)で異なる配置に。海側は「車いす利用者や子育て世代がより快適に乗車してほしい」という思いの下、大型の窓と「2方向から座れる座席」を設けた。

  • 車内の袖仕切りなどにガラスを使用し、明るく広がりを感じられる空間に

  • 荷棚もガラス板を使用。一般的な通勤車両より低い位置に設置されている

大型の窓は、「お子さまが外の景色を楽しみながらご乗車いただけるように」とのコンセプトで設計され、窓の天地は1,236mmに。床からの高さは580mm程度とし、「2歳くらいのお子さまが、保護者に抱っこされなくても自分の目線で外を楽しめる高さ」にしている。

4000系はJR筑肥線への直通運転も予定しており、「この窓から海に近いところの景色を眺められます。お子さまと一緒に楽しんでいただけたら」「小さなお子さまの場合、公共交通機関を使ってのお出かけはハードルが高い。乗っている間、少しでも保護者の負担が減るように、お子さまが楽しめるようなしかけを作っています」と説明も。この窓のみ紫外線(UV)・赤外線(IR)のカット率を下げ、よりクリアな景色を眺められるようにしている。フリースペースに設けた「2方向から座れる座席」も、こどもと保護者が一緒に楽しめるように、自由度の高い座席とした。

  • 6号車フリースペースの海側(北側)は大型の窓と「2方向から座れる座席」を設置

  • フリースペースの山側(南側)に大型の手荷物スペースを設けた

フリースペースの山側には、大型の手荷物スペースを設置している。地下鉄空港線が福岡空港へのアクセス路線でもあるため、「通勤のお客さまと大きな手荷物を持ったお客さまが一緒に乗車するという難しい課題を抱えています。そこで、手荷物を持ったお客さまが、座っている席の横で小脇に抱えながら乗車できるようにというコンセプトで作りました。仕切りを通常より小型化し、仕切り越しに手荷物を支えられるようにしています」とのことだった。