フランス・ジュラ地方で、ワインの仕込みの真っ最中のワイナリーを巡る

ジュラ地方のワインの中心地であるアルボワ市。ジュラワインは、ボルドーやブルゴーニュのようにワインの名産地だ。場所はブルゴーニュのすぐ隣で、アルプスとスイスの国境の間に位置している。隣接しているにもかかわらず、ジュラ地方はテロワールの違いから独自のワインを生み出している。

【画像】アルボワ市のワイナリーでワインの仕込みを見せてもらった(写真24点)

先日紹介した収穫祭「Fête du Biou」が行われたアルボワ市を再び訪れた。この時期、ほとんどのワイナリーでは収穫が終わり、ワインの仕込みの真っ最中だった。今回はいくつかのワイナリーを訪れてみた。

Domaine Ligier(ドメーヌ・リジエ)

この日、ドメーヌに到着したときには、ちょうど赤ワインの仕込み中だった。発酵が進んだ果汁をタンクに移し終え、タンクに残った果肉や皮を回収し、さらに別のタンクに移して圧搾の準備をしているところだった。タンクが大きいため、回収される果肉の量も相当なものだ。これを絞ってさらに発酵させたり、リキュールに加工したりする。この作業が終わるまで見学し、作業終了後は洗浄作業が続く。作業をしていたのは当主のエルヴェ氏だ。

作業が終わると、エルヴェさんはヴァン・ジョーヌ(Vins Jaunes/黄色いワイン)となる白ブドウの発酵具合を見せてくれた。発酵が進み、ジュワジュワと炭酸のような音を立てている。「顔をそっと近づけてごらん」と言われ、タンクに顔を近づけると、発酵によるガスが鼻をつき、「おっ!」と驚いた。これが発酵の進んでいる状態という。

その後、エルヴェさんはワインセラーに案内してくれた。エルヴェさんは、なるべく早く樽で熟成を始めることに力を入れている。特にヴァン・ジョーヌへのこだわりが強く、このセラーはヴァン・ジョーヌのために作られたようなものだ。通常の木製樽の間に、金色に輝くガラス製の樽が目を引いた。これは、ガラス樽でワインを熟成させる実験をしているものだ。ヴァン・ジョーヌは厳格な規定により木の樽でなければならないが、ガラスでも同じ6年3カ月の熟成を行い、その過程を見極めている。ガラスにすることで日光を取り入れたり、エルヴェ氏が「靴下」と呼ぶカバーで遮光するなどの新しい試みをしている。伝統を受け継ぎながら、革新を追求するリジエのワインだ。評価の高いヴァン・ジョーヌだけでなく、サヴァニャンとシャルドネをブレンドした3年熟成のワインも、独特で深い味わいが魅力の一つである。

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Domaine les 5 Wy

アルボワ市で最も若く、小さなワイナリー。オーナーのヨハン氏は、収穫祭で葡萄を担いだ担ぎ手の一人でもある。「うちは小さいから」と言いながらも、セラーには小ぶりのタンクが並んでいた。ヨハン氏は元々医学生だったが、アルバイトを探すのが遅れてしまい、地元のワイン造りに関わる仕事に就くことになった。それが彼にとって運命的な出会いとなり、ワイン造りへの道を歩むことになったのだ。

いくつかのドメーヌで修行を重ねながら、少しずつ畑を買い足し、農薬を一切使わずにブドウを育て、基本に忠実な醸造を行う。2018年、初めてワインが完成し、高い評価を得ることができた。ヨハン氏の情熱と、小規模だからこそ可能な細やかなワイン造りが特徴だ。

今年、彼のワイナリーで初めて6年3カ月熟成させたヴァン・ジョーヌを瓶詰めする予定だ。一樽分のヴァン・ジョーヌは、すでに予約でいっぱいだそうだ。樽の内側に自然にできる酵母菌の膜がヴァン・ジョーヌの熟成を進めるが、ある時、その膜の一部から蜜のようなものが染み出してきた。それをなめてみると、非常に美味しかったという。ヨハン氏は「アレが何だったのか解明できたら面白いね」と語り、ワインに対する熱意を感じさせた。

ワインは五感で感じるものだという彼にとって、ラッキーナンバーは5。そのため、彼はドメーヌの名前を「Les 5 Wy」と名付けた。

Domaine les 5 wy - Vins d'Arbois - Domaine Les 5wy - vins du Jura 39

Domaine ROLET

1942年創業のドメーヌ・ロレ。アルボワ、レトワール、コート・デュ・ジュラの3つのアペラシオンに65haの畑を所有し、数々の賞を受賞しているジュラを代表する名家だ。最初にアルボワを訪れた時に購入したレトワールのワインは非常に美味しかった。それが、このロレのワインだった。

アルボワ市内のブティックはシックで広々としており、訪れる人が途切れることがない。しかし、見るべきはセラーだという。ブティックから少し奥に進むと、14世紀に建てられたカーブが現れ、樽が静かに眠っていた。長い年月をかけて熟成されるヴァン・ジョーヌの樽には、年月を示すかのように蜘蛛の巣が張っていた。

その後、待ちに待った試飲(デグスタシオン)。スパークリングワインのクレマンから始まる。シャルドネで作られたクレマンは、ゴージャスな味わいで、ボトルのエチケットもガラスに彫られていて、見た目でも楽しめる。自宅で飲んだレトワールは2019年ヴィンテージだったが、この日のものは2022年ヴィンテージだった。ヴィンテージによってこれほど違うものかと、ワイン初心者でも分かる体験ができた。

次に出されたヴァン・ジョーヌ。サヴァニャンならではのスパイシーな香りが印象的だ。一緒に提供されたコンテチーズと絶妙に合う。この組み合わせが大好きだ。デザートワインのヴァン・ド・パイユは、濃厚な甘みがたまらない。最後に試飲したのは、47%の蒸留酒であるマール・デュ・ジュラ。ジュラ地方のワインを十分に堪能した。

ジュラ地方は、ブルゴーニュの隣に位置しながら、テロワールの違いから独自の品種のブドウが栽培される。また、山に囲まれて厳しい冬を迎えるため、昔から保存食や限られた食材を工夫して楽しむ文化が根付いており、それがワイン造りにも反映されている。ボルドーやブルゴーニュ、解禁が近いボジョレーも良いが、一度ジュラのワインも楽しんでみてはいかがだろうか。

Domaine Rolet - Arbois - Jura

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI