NTT東日本がキャンプ場の運営に乗り出す。テルウェル東日本と共同出資した新会社「NTT Landscape」を2024年11月1日に設立する見込みだ。関係者は「キャンプ・まちづくり分野の『フィールドDX』を通じた地域活性化を目指します。自治体の要望に応え、また市場環境を鑑みながら、今後5年間で15拠点ほどのキャンプ場を運営していければ」と意気込む。
■フィールドDX事業とは?
NTT Landscapeでは、フィールドDX事業(キャンプ場運営、DX推進、アウトドア研修、まちづくり)を推進する。代表取締役社長に就任する木下健二郎氏が詳細を説明した。
木下氏は、フィールドDX事業について「地域の自然やコミュニティとDXを融合し、新たな価値を創造する事業です」と説明する。たとえばキャンプ場運営事業では、NTT Landscapeが公営キャンプ場などの運営権を取得し、DXを活用した運営効率化×リノベーションによる魅力向上を通じた経営改善を実施。キャンプ初心者も熟練者も、従来と比べてより快適にキャンプを楽しめるような施設にしていく。また、そこで得た知見はDX推進事業により、全国5,000カ所のキャンプ場にも横展開していきたい考え。
「公営キャンプ場の多くは集客が進まず、コスト削減もできないため赤字経営に陥っています。そこで私たちはDXを導入します。チェックインの待ち時間は『スマートチェックイン』で大幅に短縮。またキャンプ場に『スマートストア』を設置することで、宿泊の利用者は24時間、薪やBBQ用の生鮮食品などを購入できます。子どもの見守りのためにセンサーを活用し、AIカメラやドローンで鳥獣対策も行います」(木下氏)
この日、メディアにはいくつかのデモが披露された。パートナー企業のカンバーランド・ジャパンは、ラグジュアリーなキャンプ体験を創出するトレーラーハウスを提供。天候による機会損失を低減するほか、宿泊単価の向上にも貢献する。なお、災害地域では応急住居としても利用できるという。
スマートチェックインを提供するのは、パートナー企業のR.project。同社の運営するキャンプ場予約サイト『なっぷ』は、すでに公共・民間の約2,000施設以上に使われている。利用に際しては、事前にアプリでデジタル記入を行い、チェックイン時に施設のカメラで本人確認、するとアプリに暗証番号が通知される流れとなっている。
スマートストアを提供するのはテルウェル東日本。同社の『ピックスルー』アプリを活用することで、宿泊者は無人のストアでいつでも自由に商品を購入できるようになる。また場所によっては、NTTアグリテクノロジーの提供する農産物の自動販売機の設置なども考えている。
このほか、アウトドア研修事業ではキャンプ場を有効活用し、身体を動かしながらミッションに取り組むアウトドア研修の提供を予定。JTBとも協業して販売する。まちづくり事業では、キャンプ場の魅力向上による域外からの人流促進、および周辺施設への送客を通じて地域経済の活性化に貢献していく。
木下氏は「私たちは普段、スマートフォンやコンピュータに囲まれた生活を送っています。けれど人間も生き物です。アウトドア好きな人にはもちろん、なじみのない人にとっても、湖のほとり、森の中など自然豊かな場所で過ごす気持ちの良さは、何事にも代えられないものがあるのではないでしょうか。私たちはDXの力で地方自治体の財政改善にも貢献しながら、皆さまに素晴らしいアウトドア体験を提供する事業を目指していきます」と話し、今後の展開に期待を寄せた。
■キャンプブームは去った?
なおメディア発表会の冒頭には、NTT東日本 ビジネス開発本部 営業戦略推進部長の佐藤文武氏が登壇。「NTTは地域通信事業者として、また身近なICT企業として地域の課題解決に取り組んでいます」と挨拶する。地域の未来を支える価値創造事業を中心とした事業構造に転換を図っているNTT東日本グループ。これまで農業、eスポーツ、文化芸術などの専門領域に6社7事業を展開してきたが、そこへNTT Landscapeが加わるということで佐藤氏は「地域循環型社会の実現、これをより一層力強く進めていけるのではないかと考えています」と力を込めた。
またゲストとして招かれたR.projectの丹埜倫氏は「一部のメディアからは、もうキャンプブームは去ったのでは、という見方をされています。でも『なっぷ』の予約数は高止まりを続けています。キャンプ用品は、新規ユーザーの増加にあわせて売上が伸びます。したがって一段落すれば『メーカーの業績が苦しくなっている』というニュースも出てきますが、キャンプ人口は減っていません。ただキャンプ場の運営者側も今後、リピーターを増やす、運営効率を上げる、という努力が求められていきます。業界の次の1歩が試される、正にこのタイミングでNTT Landscapeが設立となりました。私たちも協業パートナーとして、二人三脚で業界の活性化にチャレンジしていきたいと考えています」と話した。