250万枚以上のチケットが販売され、熱狂に沸いたパリ2024パラリンピック。観客の盛り上がりに応えるかのように、パラアスリートも熱狂。そんな日本代表選手たちによる、試合後の言葉から見えた“パラリンピックの意義”とは――。
2016年以来の有観客大会となったパリパラリンピック。会場は大いに盛り上がり、日本代表選手たちも「地響きがしていて驚いた」(陸上競技・中西麻耶)と語るほどだった。
大歓声が響いた陸上競技会場photo by Hiroyuki Nakamura
多くの人がパラスポーツを目の当たりにしたことで、パラリンピックの可能性について言及する選手も多かった。
悲願の金メダルを獲得した車いすラグビーの池崎大輔は、「心身ともに強くなれる、また世界が1つになる、それがパラリンピック」と強調。男子個人ロードタイムトライアルで7位入賞を果たした自転車競技の藤田征樹は、「見てくださった方が、パラリンピアンの姿から何かを感じていただけたら」と大会の影響力について期待を寄せた。
小田凱人「試合をすれば全部丸く収まる」車いすテニスの小田凱人は、15歳でプロ宣言し、17歳で全仏オープン史上最年少優勝、同時に史上最年少で世界ランキング1位に到達した。さまざまな歴史を塗り替えてきた小田は、18歳でパラリンピックに初出場。男子シングルス最年少金メダリストになり、またしても新たな歴史を刻んだ。
小田は試合をShowと表現し、勝つだけでなく魅せる試合にこだわったphoto by Takamitsu Mifune
人々の琴線に触れる言動で、注目を集めることも多い。男子シングルス決勝前日のインスタグラムには「俺は金メダルを取りに来たんじゃない。世界を変えに来た」と印象深い言葉を放った。激闘を制し、金メダルを獲得した小田はこう言った。
「ダイバーシティとか共生社会とかっていうのは、僕はあんまりよくわかっていない。それは口に出すんじゃなくて、僕は試合をすれば全部丸く収まると思う」
攻めるスタイルで魅せるプレーにこだわった小田。ダイバーシティや共生社会の重要性をスピーチで訴えるのではなく、そのパフォーマンスで人々の心に潜む違いによる壁や偏見をぶち壊した。実際に、小田のインスタグラムには「障がい者ではないけど、車いすテニスをやってみたい」、「スポーツでここまですごく面白い試合を見たことがない」、「車いすテニスにしかできない技、かっこよかった」といった内容のコメントが寄せられた。
富田宇宙「可能性(に気づく気持ち)や意識の変化がソーシャルインクルージョンにつながる」パラスイマーの富田宇宙は、自身が感じた生きづらさから、障がい者理解に貢献したいと考え、パラリンピック出場を目指した経緯がある。普段から講演やメディアを通じて、パラスポーツの魅力や価値を発信しており、パラリンピックはパリで2度目の出場。2種目で銅メダルを獲得した。
水泳会場は連日多くの観客で埋まったphoto by Hiroyuki Nakamura
パラ水泳では、障がいの種類や程度が違う選手たちが、それぞれの泳ぎ方を見せる。「(それらを生観戦すれば)意識が変わるはず」と富田。今大会では、ヨーロッパの人たちがパラリンピックをスポーツエンタテインメントとして楽しむ姿から感じるものが多かったという。
「(障がいがある人の)可能性を、こういう人だから『全然できないだろう』じゃなくて、この人『いろいろできるんじゃないの』っていう、ちょっとした気持ちや意識の変化がソーシャルインクルージョンにつながるんだろうと思う」
大歓声のなかで泳いだ富田は「パラアスリートも白熱した試合を見せられる」と話したphoto by Hiroyuki Nakamura八木克勝「“もう一回チャンスってあるよね”というのがパラリンピック」
富田と同様に、普段からパラスポーツの魅力について語っているのが、卓球の八木克勝だ。
目標に掲げていたメダルには届かなかったが、メダル以上に「この空気感を東京パラリンピックでできなかったことのほうが悔しい」、「パリパラリンピックに出たら、余計に東京パラリンピックの無観客が悔しくてなりませんでした。本当にこの風景を日本で見たかった」と自身のXで嘆いた。
八木は、パラリンピックの可能性を強く感じているからこそ、自国で開催されたパラリンピックの無観客を惜しむ。
「病気の方や事故に遭った方に、もう1回チャンスってあるよね、というのがパラリンピックだと思います。そこに僕は出られてきて幸せ」
卓球会場でそう語った八木は、多くの人にパラスポーツを見てもらう機会を作る活動に力を入れるつもりだ。
パリパラリンピックは準々決勝敗退。成績よりも、東京パラリンピックの無観客開催を悔しがったphoto by Takamitsu Mifune
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パラリンピアンのエネルギーを感じたパリ大会だった。
text by TEAM A
key visual by Hiroyuki Nakamura