9月の半ばになると、フランス各地でブドウの収穫が始まる。今年は冷夏で、雹や雨が多く、ブドウの出来はあまり良くない。収穫の時期になっても天候は安定せず、日程を何度も変更しなければならない厳しい年だ。そんな中、ジュラ地方のシャトーシャロンへ向かった。
【画像】知る人ぞ知るワイン、シャトーシャロンの収穫を見学(写真20点)
シャトーシャロンと聞けば、ワイン好きなら黄色いワイン「ヴァン・ジョーヌ(Vin Jaune)」を思い浮かべる人もいるだろう。シャンパンと同様、この村で作られるヴァン・ジョーヌは「シャトーシャロン」の名を冠する。ジュラ地方は、太古の昔、海だった土地だ。その証拠に、畑を耕すとアンモナイトの化石がたくさん見つかる。この特有の土壌のおかげで、サヴァニャン種のブドウが育つ。このサヴァニャンの果汁を発酵させ、タルに移す際、通常は酸化を防ぐために隙間なく注ぐが、ここではあえて10cmほど空気を残す。これにより表面に酵母の膜ができ、その酵母が独特の風味を生み出す。この膜は「ヴェール(voile)」と呼ばれる。そう、日本でも使う「ヴェールに包まれる」の「ヴェール」だ。これがヴァン・ジョーヌ。ただし、熟成には最低6年3カ月が必要で、それ以下では「シャトーシャロン」や「ヴァン・ジョーヌ」とは呼べない。
今回訪れたのは、シャトーシャロンにある「ベルテ・ボンデ(Belthet Bondet)」というドメーヌだ。ブドウの収穫は手作業で行われるが、今年は収穫量が非常に少なく、早々に刈り入れが終わってしまった。収穫されたブドウはすぐにドメーヌへ運ばれ、絞り器にかけられる。サヴァニャン種やシャルドネ種などの白ブドウは、絞り器で果梗(かこう)と皮が取り除かれ、果汁だけが発酵用のタンクに移される。その果汁を飲んでみると、甘みが少なく酸味が強い。今年のブドウだ。この糖分がアルコールになるため、甘すぎるとアルコール度数が高くなってしまう。酸味が強い方が、結果的に美味しいワインになる。エレンさんの話では、今年の白ブドウからは質の良いワインが期待できるとのことだ。ただし、収穫量が少なかったため、収穫後にブドウを乾燥させて甘みを凝縮させる「ヴァン・ド・パイユ(Vin de Paille)」は今年は作られないことが決まった。ヴァンはワイン、パイユは藁を意味し、このワインはかつて藁の上でブドウを乾燥させたことから名付けられたジュラ地方特有の甘口ワインだ。アペリティフやデザートワインとして楽しめるが、今年は作られないのが残念だ。
発酵タンクでは、約1週間ほど発酵が続く。発酵5日目の果汁を試飲させてもらった。発酵が進んでタンクの中はシュワシュワと微炭酸のような状態で、わずかにアルコールも感じられる。発酵具合を見極めて、熟成へ移る。果梗と皮は分離され、皮だけが集められる。これを2、3カ月発酵させると、「マール・デュ・ジュラ(Marc du Jura)」というアルコール度の高いリキュールになる。このマールはそのままリキュールとして飲むこともでき、熟成中のワインと混ぜて「マックヴァン(Macvin)」というワインにすることもある。
サヴァニャン種の果汁は、発酵や熟成具合を見ながらヴァン・ジョーヌにするか、白ワインとして仕上げるかが決まる。赤ワインも同様に作られているが、白ワインと違い、赤ワインはブドウを破砕して果梗を取り除いた状態で発酵させる。発酵中に皮と種が浮き上がるため、毎日攪拌する必要がある。タンクの下から果汁をホースで引き上げ、上からかける作業を行う。こうして温度を管理し、毎日手を加えた後、発酵が終わったワインはタンクで熟成され、その後樽に移して静かに熟成させる。樽の素材によってワインの風味が変わるため、ベルテ・ボンデではオーク樽に加え、アカシアの樽も使っている。16世紀に建てられた貯蔵庫には、約500本の樽が並んでいる。
今年の収穫が終わると、シャトーシャロンでは47種類のブドウが少量ずつ栽培されている村の畑でも収穫が行われる。ジュラ地方では、かつて50種類以上あったワイン用のブドウは現在5種類しか栽培されなくなってしまった。その昔からの品種をここでは少しずつ栽培しているのだ。ワインメーカーやボランティアが収穫を行う。ここでも、他の畑と同様に収穫量は極端に少ない。収穫したブドウは手作業で一緒に絞り、ワインへと仕込んでいく。少ない量でのワイン作りは難しいが、少量のおかげで伝統的な手作業を間近で見ることができた。これが今年の収穫の終わりを締めくくるちょっとしたイベントとなっているのだ。
実を言うと、私はあまりアルコールが得意ではない。体が受け付けないが、味は好きだ。ワインは料理をより美味しくしてくれるからだ。フランスに住んでいながら、「ワインはブドウから作られる」程度の知識しかなかったが、エレンさんはワイン作りについて丁寧に教えてくれた。ワイン作りは長い年月をかけて培われた製法で、その土地の風土から生まれた地域特有のワインが出来上がる。そして、地元の料理と合わせることで、ワインと料理がさらに美味しくなる。ジュラ地方では、雪に囲まれる長い冬を過ごすため、コンテチーズやワインが発展した。冬場は保存食が中心となり代わり映えしない食事が続く中、ワインが食卓を潤してくれたという歴史がある。ボルドーやブルゴーニュなど有名な産地だけでなく、ジュラ地方で生まれた独自のワインにも、ぜひ注目してほしい。
Domaine Berthet-Bondet | Vins du Jura | Château-Chalon
写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI