現在の卸売市場の課題

現在、日本の農業は生産者の減少や市場規模の縮小といった課題を抱えており、農産業の持続や食の安定供給という点が社会課題となっています。本研究は、卸売市場取引における出荷情報のデジタル化を推進し、価格形成のプロセス改善や農家と市場、青果流通事業者全ての業務効率化、収益性向上を目指しています。

日本事務器株式会社 事業戦略本部の高松 克彦(たかまつ・かつひこ)さんは、現在の青果生産・物流の課題の背景として、紙管理や電話による伝達といったアナログな仕組みと、需要と供給による価格形成がなされにくい競売システムにあると話します。

fudoloopは、生産者の出荷予定情報をデータとして蓄積することができるため、青果流通事業者が事前に出荷量を確認し、販売店への提案に生かしたり、また生産者へマーケットニーズをフィードバックし、出荷計画に役立ててもらうことが出来ます。
実際にfudoloopを導入し、青果物流通のデジタル化と農作物の価格安定や業務効率化を実現した沼津中央青果の実績を基に、東京大学大学院食料・資源経済学研究室による客観的な検証・分析をもって、fudoloopの成果や改良点の洗い出し、卸売市場取引のDXを推進していきます。

日本事務器が目指す卸売市場取引のDX推進

デジタル技術を活用し、新たな価値創造へ

東京大学大学院 農学生命科学研究科の中谷 明昭(なかたに・ともあき)准教授は、本研究について、「生産者と小売業者をつなぐ重要なハブである卸売市場において、fudoloop導入による様態を把握し、デジタルトランスフォーメーションへの可能性を調査研究し、新たな価値創造に向けた提案につなげられれば」と期待感を示しました。

同研究室の松本 百永(まつもと・もえ)さんは、実際に沼津中央青果への聞き取り調査を行なったり、fudoloop利用前後の販売仕切りデータから効果測定を実施。来年の学会発表に向けて結果をまとめていくと言います。「農業分野では、ドローンやAI搭載機器にフォーカスが当てられることが多く、農産物流通の事例や研究はまだ少ないと感じます。本研究には社会的意義を感じます」と研究への意気込みを話しました。

研究目的について話す中谷准教授(写真左)と松本さん(写真右)

卸売市場、生産者もDXに期待

沼津中央青果の福嶋 充胤(ふくしま・みつたね)さんは、fudoloop導入の背景について次のように振り返りました。
「地方の卸売市場は、多品目をいかに安定供給出来るか。そのために生産者としっかり取り引き出来るかという点が大事。それを継続出来なければ生き残れないという危機感を持っています。以前から生産者とつながる仕組みを模索しており、自社で受発注システムも開発しました。次のステップとして、農作物の栽培情報も把握し、販売店に提案できるような仕組みづくりを考えていた時にfudoloopの存在を知り、うちに合っていると感じました」
ただ、最初はなかなか導入が進まなかったと言います。品目を絞って導入を始め、提案の武器になると全社的に知ってもらうことで導入を進めてきたそう。
「日本事務器さんがうちの要望を取り入れて改良してくれ、fudoloopが進化していると実感しています。今回の研究で、東京大学という第三者の目が加わり、良い研究成果を得られることを期待しています」と話します。

また、遠藤 和典(えんどう・かずのり)さんは静岡県富士市の学校給食への納入が決まった実績を挙げました。「学校給食は安定供給が大事です。富士市から農作物の納品予定数を聞かれた際に、fudoloopの情報から正確に回答できました。今回の納入で、また一歩前に進んだと感じます。この成功例を近隣の市の学校給食にも横展開していきたいですね」

現在fudoloopを利用している生産者も、デジタル化による業務変化を実感しているようです。
「以前は市場と電話で情報交換をしていたので、担当者につながらない時は情報を得られませんでした。また、今日何ケース出すかを忘れてしまうこともありました。fudoloop導入後は出荷報告を正しく出来ているし、以前の出荷履歴が確認できる点も便利ですね」
「その日の売り立てをfudoloopで確認し、市場価格が安ければ出荷量を調整することが出来るようになった」

また、今後の改善についても、「最初使っていた頃より色々なことができるようになった。今後は機能を絞ることも検討できるのでは」「もっと先々の出荷予定も入れられると、市場が産地全体の出荷調整もできるようになり、周辺農家が同じ作物を一斉に作るということも避けられるのでは」など、積極的な意見が挙がりました。