アドビが提供する「Adobe Express」は、豊富なテンプレートを活用してさまざまなコンテンツを作成できる、ブラウザベースのツールです。同社の生成AI「Adobe Firefly」を用いた機能も含めて、誰もが無料で使える初心者向けのツールですが、実はプロのクリエイターや企業ユーザーにも多く活用されているといいます。米国で開催されたクリエイター向けイベント「Adobe MAX 2024」で、Adobe Express製品グループおよびデジタルメディアサービス担当シニアバイスプレジデントのゴビンド・バラクリシュナン氏に話を聞きました。

  • Adobe Express

    ワンクリックでテキストや画像などをアニメーション化できる機能など、多数のアップデートがあった「Adobe Express」

CC製品のいいところどり。そして「簡単、誰でも」にこだわり

「Adobe Express」は、「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」といったプロクリエイター向けのアプリケーションから、コンテンツ制作のための機能を、いわば「いいとこどり」したツールです。これは筆者がそう感じているというだけでなく、担当のバラクリシュナン氏も、実際に「いいとこどり」を目指して開発されたツールだと認めています。

「Adobeの本当に良いところだけを凝縮しようと、Adobe Creative Cloudのアプリケーションの全部を見直して、最も重要な機能は何なのかということを洗い出しました。そしてそれを簡単に、すぐに使い始められるようにするにはどうすればいいかということ考えました。どんな人にもクリエイティビティを提供することは私たちのミッションであり、そのためにはバリアを下げる必要がありました」

2021年12月に提供が開始されたAdobe Express(当時の名前はAdobe Creative Cloud Express)は、生成AI「Adobe Firefly」も機能に取り込みながら、できることをどんどん増やしています。無料版のほか、より多くのテンプレートを活用できる有料版や、少人数のチームや企業の大規模なチーム向けの法人プランも用意されています。

  • ゴビンド・バラクリシュナン氏

    Adobe Express製品グループおよびデジタルメディアサービス担当シニアバイスプレジデントのゴビンド・バラクリシュナン氏

バラクリシュナン氏によれば、Adobe Expressのユーザーは主に4通りに分けられるといいます。1つ目は自営業者や中小企業の経営者。自社ブランドのためのロゴを作ったり、ブランドカラーを決めるといったところから始まって、名刺や広告プロモーション、SNSのキャンペーンなどにも活用されているとのこと。

2つ目はプロクリエイターで、PhotoshopやIllustratorといったツールを利用しつつ、Adobe Expressも「プロツールの補完的に活用されている」とバラクリシュナン氏。Adobe Expressではこれらのツールと連携してコンテンツを取り込めるため、たとえば最近新たにアップデートされた、テキストや画像をワンクリックでアニメーション化できる機能を使い、自分の作品にモーショングラフィックスを追加するといったといったことができると言います。

3つ目は企業ユーザーで、ここでは今年新たに追加された、チーム内でブランドコントロールができる機能が役立つとバラクリシュナン氏は説明します。これはフォント/カラー/ロゴなどのブランドを構成する要素を設定し、デザインにこれらのアセットを簡単に適用できるというもの。ブランドのクリエイターが承認したテンプレートだけを利用できるようにする機能なども提供されています。

「ブランドコントロールされたテンプレートがあれば、クリエイター以外の人たちも、それを使ってコンテンツを作ることができます。マーケティングだけでなく、人事や営業などさまざまなポジションの人たちが、これまでよりも遥かに大きなスケールでブランドに特化コンテンツを作れるようになっています」

4つ目は教育分野の人々で、「教師が生徒に合わせたカリキュラムを作ったり、生徒がプレゼン用のコンテンツを作ったりといった使われ方をしています」とバラクリシュナン氏。教育は、同じくブラウザベースのデザインツールを提供するオーストラリアのスタートアップ「Canva」が急成長している分野でもあり、アドビでも小中高校向けの無料プランで機能を強化するなど注力しています。

社内外のツール、プラットフォームとエコシステムを構築

バラクリシュナン氏は、ライバルに対するAdobe Expressの優位点として、「クリエイティビティに関する造詣の深さと経験」「生成AIのAdobe Fireflyが利用できてかつ、それをコントロールでき、かつ安全に利用できること」「サードパーティも含むさまざまなサービス、アプリケーションとつながるエコシステム」という3つを挙げました。

3点目については最近、特に注力されているところでもあります。PhotoshopやIllustrator、Premiere Pro、Acrobatのほか、「Adobe InDesign」「Adobe Lightroom」ともデータの受け渡しができるようになったほか、サードパーティーとの連携も強化されています。「サードパーティーのソリューションとの統合は、これから頻繁に行っていく予定です」と、バラクリシュナン氏は言います。

  • Adobe Expressのエコシステム

    Adobe Expressのエコシステム。「LINE Creative Lab」とも連携しています

「ストレージのプロバイダーではMicrosoft OneDrive/Googleドライブ、ソリューションプロバイダーではTikTokや日本で利用されているLINE/ChatGPT/Slackなど、Adobe Expressの中からさまざまなアセットにアクセスでき、またAdobe Expressの機能をサードパーティのサービスから利用できるようにします。エコシステムの幅広さを活用して、今開いているサービスから離れることなく仕事を終わらせることができる。私たちが構築したエコシステムは、ユーザーの仕事の遂行を支援するという点で、非常に強力であると信じています」

Adobe Expressは、Adobe MAX 2024にあわせて提供が開始されたマーケティングツール「Adobe GenStudio for Performance Marketing」によって、さらに企業での活用が促進されることになりそうです。このツールは、AIを使って広告・マーケティングキャンペーンをサポートするもので、ブランドアセットを使用してAdobe Expressで作成したコンテンツを、分析・評価を参照しつつ素早く効率的にターゲットに配信できます。バラクリシュナン氏は「Adobe ExpressはGenStudioの一部。GenStudioのオプションが増えれば、Adobe Expressにも大きな影響があるでしょう。パフォーマンスマーケティングのユースケースは、今後大きく増えると思います」と期待を寄せていました。