通信機を搭載した最新のコネクテッドカーは、インターネットを介してサーバーに接続することで、さまざまなサービスを受けることができる。その機能をいかした日産自動車の新サービス「Nissan Biz Connect API」の提供が始まった。一体どのようなサービスで、どんなメリットを生むのだろうか。メディア向けオンライン説明会で聞いた。

  • 日産の「Nissan Biz Connect API」

    日産が新たに始めた法人向けサービス「Nissan Biz Connect API」とは?

追加設備なしでクルマのデータを提供?

日産は2024年10月7日、ビジネスの効率化に貢献する法人向けサービス「Nissan Biz Connect API」の提供を開始した。同サービスは、専用の「アプリケーション・プログラミング・インターフェース」(API)を用いて、法人が所有する日産車両の位置情報をはじめ、電気自動車(EV)の電力消費量や電池残量などのデータをリアルタイムで提供するものだ。

具体的には駆動用バッテリー残量、累積走行距離、走行速度、前後方向の加速度、トリップ毎の電力消費量、トリップ毎の走行距離、充電開始と終了時の電力残量、パワーオン/オフ動作の通知をデータとして提供できるとする。提供情報の内容はユーザーの希望で決まるそうだ。

最大のポイントは、標準搭載されたカーナビゲーションシステムと通信機を利用するため、専用機器の購入や取り付けコストが不要で、料金がシステムの使用料だけで済むこと。料金は提供情報により変化するため、コスト負担を最小限に抑えることができる。サービスの対応車種は軽ハイトワゴン「サクラ」、コンパクトハッチバック「リーフ」、ミッドサイズSUV「アリア」のEV3車種だ。

  • 日産「サクラ」

    日産の軽EV「サクラ」

これらのデータは、どのように活用されるのだろうか。主なニーズとしては、タクシーやカーシェアリングを想定しているという。それらの運行管理システムにリアルタイムの車両データを反映させることで、運行や管理をしやすくするのが狙いだ。

例えばタクシー会社の場合、より多くのユーザーを送迎できる運行を可能とし、利用客の迎車時間の短縮にもつなげられる。また、車両位置や電池残量を把握できるので、ドライバーに最適な充電タイミングを指示することもできる。カーシェアリングでは、車両位置やバッテリー残量から、利用者に最適な車両を案内することが可能に。さらに、車両の貸し出しや返却業務の効率化にも役立てることができるという。

これからの企業に求められる「環境対応」にも役に立つというのが日産の説明。日本では現在、カーボンニュートラル社会の実現のため、2030年までにCO2排出量を46%削減するという目標が掲げられている。そのためには必然的に、タクシーやシェアカーのEV比率も高まっていくと考えられるからだ。

一般ユーザーに恩恵あり?

日産が「Nissan Biz Connect API」を開発した背景には、ビジネスユーザーからのデータ提供の要望があったという。

日産では法人向け車両管理システム「Nissan Biz Connect」を提供しているが、こちらは車両管理機能も含めたシステムであり、さらに専用通信機と専用ドライブレーコーダーの搭載が必要となる。一方で「Nissan Biz Connect API」は、車載機能から得られる情報を提供するだけだ。このため、他の車両管理や車両運行システムとの組み合わせがマストとなる。裏を返せば、顧客が使いたいシステムが自由に選べて、その機能強化につながるのがメリットなのだ。

他社のシステムに用いる車載器と異なるのは、車両からの情報に限定すれば専用機器が不要なため、初期費用を含め導入費が抑えられること。さらに、電池残量や充電時間などのEV特有の車両情報が正確に得られるのは、メーカー純正システムの強みといえよう。

今後はe-POWER車(日産のハイブリッド車)への対応や提供情報の拡大も図っていきたいとしている。また、「Nissan Biz Connect API」は情報提供サービスであるため、他の車両管理システムをはじめとするさまざまな情報を扱う企業との提携なども考えられるのではないかとのことだ。

ビジネスユーザー向けの情報提供サービスなので、一見すると一般の消費者には関係ないシステムのようにも思えるが、EVタクシーのスムーズな運行はタクシー不足の抑制につながるし、カーシェアでは最も近くにある電池残量の多いEVが提供されるようになる。このように、クルマを利用するユーザーの利便性向上につながる可能性を秘めているのが「Nissan Biz Connect API」だ。「走るスマホ」とも呼べるコネクテッドカーの強みをユーザーが享受できるようになった一例とも言える同サービスだけに、新たなクルマ関連サービスの誕生を含め、これからの発展性に注目していきたい。