再使用型の小型ロケット「マイア」と、「プロメテウス」エンジン
小型ロケットの分野では、前述のように2022年にヴェガの改良型であるヴェガCがデビューした。ただ、同年には2号機の打ち上げが失敗し、その後、失敗を踏まえて改良したロケットモーターの試験にも失敗したことで、現在まで飛行停止の状況が続いている。
また、先代のヴェガも、2019年と2020年に打ち上げに失敗しており、信頼性の回復が課題となっている。
ヴェガCについて、イズラエル氏は「ヴェガCは失敗から立ち直ろうとしているところで、ESA、ヴェガCの製造を担当するイタリアのアヴィオ、そして運用を担当するアリアンスペースとの間でチームを組んで取り組んでいる。失敗した原因は完全に理解できており、ノズルのインサート部に変更が必要なことが判明した」と語る。
そして、「2024年の年末までに飛行再開を予定している」と明らかにした。
一方、小型ロケットをめぐっては新たな動きもある。2022年、アリアンスペースの親会社であるアリアングループの子会社として、「マイアスペース(MaiaSpace)」というベンチャー企業が立ち上がった。
同社が開発している「マイア」ロケットは、太陽同期軌道に1500kgの打ち上げ能力をもつ。初打ち上げは2026年を予定する。また、第1段を洋上の船に着陸させて回収し、再使用する構想もあり、その場合の打ち上げ能力は500kgになる。
この使い捨ての場合の、太陽同期軌道に1500kgという打ち上げ能力は、ヴェガCとほぼ同じである。実は、ヴェガCは2025年に予定されているVV29ミッションの打ち上げまではアリアンスペースが運用するものの、その後の打ち上げからは、ヴェガのプライム・コントラクターであるアヴィオが、運用や販売も含めてすべてを手がけることが決まっている。
つまり、アリアンスペースのラインアップからヴェガCがなくなるため、マイアはその後継機、代替機という位置付けになる。
このマイアの実現を左右する鍵となるのが、「プロメテウス」ロケットエンジンである。
プロメテウスは、ESAとアリアングループが開発中の再使用型エンジンで、天然ガスを主成分とするバイオメタンと液体酸素を推進剤に使う。推力は100tf級で、また再使用のためスロットリングも可能で、何回も着火できる能力ももつ。
製造には、積層造形(いわゆる3Dプリント)技術を広範囲に採用し、部品数や製造時に出る廃棄物の削減、生産の高速化などを狙っている。また、最初にコスト目標を決め、製品の開発設計段階のすべてを通じて、コストがその目標内に収まるようコントロールしていく製品開発管理法「デザイン・トゥ・コスト(Design To Cost)」アプローチを採用する。こうした取り組みにより、「アリアン5」に使われていた第1段メインエンジン「ヴァルカン2」より、コストを10分の1に削減することを目指している。
2022年11月には試作エンジンが初めて始動し、2023年6月には再使用ロケット実証機「テミス」の機体(タンク)と組み合わせた状態での、初のエンジン点火、燃焼試験が行われた。エンジンは計画どおり12秒間燃焼し、試験は無事成功したという。現在も、燃焼試験などが続いている。
プロメテウスについて、イズラエル氏は「まずはマイアで使用するが、アリアン6の次のロケットで採用される可能性もある」とし、いわゆる「アリアン・ネクスト」で使用する可能性を示唆した。
加えて、「さまざまな用途にでき、活用されていくことになる。引き合いがあれば、外部にも販売したい」とし、エンジン単体での販売にも意欲を見せた。また、髙松氏は、「日本のベンチャー企業が買ってくれることに期待したい」と語った。
ついにアリアン6がデビューし、ヴェガCの打ち上げ再開も近づき、そして新たな再使用ロケットの開発も始まるなど、欧州のロケットの新たな章が幕を開けた。その動きは日本にとっても無関係ではない。これからの動きに注目したい。