2024年10月8日にPlayStation 5(PS5)とSteamで発売された『SILENT HILL 2』は、2001年にPlayStation 2(PS2)で発売された『SILENT HILL 2』のフルリメイク作品。進化したグラフィックやサウンドはもちろん、俯瞰視点から肩越し視点への変更、再構成されたマップと謎解き、回避やTPS方式のエイムが加わったバトルシステムなどの新要素により、原作のストーリーを忠実に再現しながら、より現代的なゲーム体験として生まれ変わった。

開発はポーランドの制作会社Bloober Teamが担当。オリジナル版を手掛けたクリエイターであるコンセプトアーティストの伊藤暢達氏、コンポーザーの山岡晃氏も参加している。

国内外で根強い人気がありシリーズ最高傑作との呼び声も高い『SILENT HILL 2』は、リメイクによってどのように生まれ変わったのか。本編クリアレビューを送る。

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    進化したグラフィックでリメイクされた『SILENT HILL 2』をプレイ

追加エンディングが本当に良かった。少しでも気になるならプレイすべき!

まず伝えたいのは、本作が少しでも気になるなら迷わずプレイしてみてほしいということ。いきなりエンディングの話で恐縮だが、本作はマルチエンディングが採用されており、リメイクにあたって新しく追加されたエンディングがある。この追加エンディングが本当に良かった。

本作は、演者の微細な表情まで捉えるフェイシャルモーションキャプチャに加え、演者の顔を再現するフォトスキャンなどさまざまな技術が使われているが、とにかく現代の技術で生まれ変わったキャラクターの感情表現が素晴らしい。なかでも、追加エンディングにおいては、多くをセリフで語らずに表現する本作らしいストーリーテリングの真骨頂が発揮される。だから、できれば、追加エンディングを見るまでプレイしてほしい。

なお、筆者が1周目クリアにかかった時間は、約16時間。本作は戦闘と謎解きにそれぞれ「EASY」「NORMAL」「HARD」の難易度を設定できるが、ともに「NORMAL」に設定した場合のクリア時間だ。エンディングの回収は、セーブデータをうまく活用すればそれほど時間をかけずに行える。もしも時間を理由にプレイを躊躇しているのであれば、もったいない。

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    原作の魅力を引き継ぎつつ、生まれ変わったビジュアル

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    ストーリーの大筋は変わらないが、イベントは増えている

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    原作再現のロケーションのほか、新たに追加されたロケーションも

プレイするかどうか迷う理由は、原作をプレイ済みか未プレイかでも異なるだろう。

原作の良さが損なわれていないか懸念を抱くファンには、オリジナル版を名作たらしめていたストーリーテリングやデザイン、サウンドスケープの魅力をしっかり引き継いでいると伝えたい。

なかには、新しいアクション要素の情報を見て、本作が「バトル偏重のサバイバルホラーに変わってしまったのではないか」と思う人もいるかもしれないが、その心配は杞憂だ。確かに、回避アクションは攻略するうえで欠かせない要素ではある。銃と鉄パイプの切り替えはスムーズで、クリーチャーの脚を撃って動きを止めながら殴りかかるといったアクションも可能だ。

とはいえ、クリーチャーをなぎ倒して走り回る軽快アクションにはなっていない。クリーチャーはタフで、ジェイムスはヒーローのようには動けない。弾薬や回復アイテムを得る機会は多くないし、判断を誤ればすぐに瀕死になる。要は、手触りは変わっていても、本作がうたうサイコロジカルホラーを逸脱するようなゲーム性にはなっていない。

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    アクションゲームではないが、殴るだけでは攻略は難しく回避も重要

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    強い銃があっても安心できない

原作未プレイのホラー好きには、迷わずおすすめしたい。『SILENT HILL 2』といっても、本作単体で成立するストーリーなので、シリーズ初プレイでも全く問題なし。ホラーのなかでも、気味の悪い怖さが好きなら、よりおすすめだ。ジャンプスケアが少ないのが本作の特徴。ほとんどのクリーチャーは、叫びながら襲ってくるのではなく、静かに不意打ちのごとく登場する。全編を通して、クリーチャーが出そうで出ない、いややっぱり出てくる、そういった嫌な雰囲気が横溢している。一方で、ゴア表現が売りのゲームではないので、そういったジャンルが好みなら期待に応えられないかもしれない。

ホラーが苦手で、かつ本作が気になっている場合は……、諦めるしかないかもしれない。なぜなら間違いなく怖いから。怖い思いをしたくないというゲーマーに勧めるのは難しい。

トレーラーなどを見れば本作に登場するクリーチャーを確認できる。顔も腕もない「ライングフィギュア」、マネキンの下半身をつなげたような見た目の「マネキン」、凶器を振り回す「バブルヘッドナース」……。こんな奴らが暗闇に潜むゲームが怖くないわけがない。

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    かなりの距離を追跡してくるバブルヘッドナースも

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    プレイヤーが近づくまでじっとしているマネキン

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    本作の準ヒロイン「ピラミッドヘッド(三角頭)」

しかし、1つ言えるのは、エンディングを迎えれば、怖い思いをしたことなどどうでもよくなるということ。クリーチャーについても、もっと別の何かを考えることになる。そういうストーリーだからだ。

だから、本当はホラーが苦手でも一度はプレイしてみてほしい。プレイ中にどうしても怖くなったらさっさと死ぬつもりで駆け抜ければいい。一度死んでしまえば、案外吹っ切れるものだ。

霧の街の恐怖はどのように生まれ変わった?

原作からの変更点は多岐にわたるが、リメイクで最も影響の大きな変更は、俯瞰から肩越し視点への変更だと感じた。マップは原作のロケーションを再現しているが、肩越し視点になったことで全く新しいものに生まれ変わっている。

これに伴い、クリーチャーの配置も、プレイヤーの視野を踏まえたものになった。つまり、プレイヤーは物陰や死角に怯えながら進むことになる。

原作にあった携帯ライトは本作でも活躍するが、周囲を照らす心強い味方にはなってくれない。見たくないものを照らさなければならないし、かといって進むためには消すわけにもいかない。絶妙な光量でプレイヤーを導く。

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    頼みの綱となるライトだが、明るさは心もとない

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    だが、ライトを他人の目に向けるのは危ない

一方で、肩越し視点への変更は恐怖を煽るばかりでもない。クリーチャーの姿をよりよく観察できるようになったことで、改めてそのデザインの魅力に気付かされる。

たとえばライングフィギュアは、非生物的な質感が伝わってくる。ライングフィギュアによく似たクリーチャーに、映画版『サイレントヒル』に出てくる「アームレスマン」がいる。こちらは腕も顔もない点が共通しているが、全身に血管や骨格が浮き出て、かなり生き物っぽい。

対して、本作のライングフィギュアはゴムに近い質感だ。原作と比べても、ツルッとしているゴムっぽさが目立つ。クリーチャーの表現として、アームレスマンのような血管や骨格を強調する方向性も考えられる一方で、本作では無機物と生々しさの両立が、唯一無二の個性を光らせている。

この異質な造形が、『SILENT HILL 2』の魅力だと、改めて気付かせてくれるのだ。とはいえ、プレイ中は感動する間もなく滅多打ちにするわけだが。

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    見ていて不安になる造形

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    原作よりもディテールが見える

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    マネキン(地に伏せている)は非生物に見えるが血が出る

新たなサウンド・デザインもまた、肩越し視点の没入感に貢献している。原作ではクリーチャーの登場時にラジオノイズが鳴り、プレイヤーの焦燥感を掻き立てると同時に、クリーチャーの存在を知らせるヒントにもなっていた。

本作はラジオノイズ以外に、3D音声によって表現された物音が恐怖を煽る。実際はクリーチャーとは無関係の音も多い。それでも怖い。なんでもない音でも、「今の何の音!?」と過剰に意味を求めてしまう。限られた視野とあいまって、不吉な想像が膨らんでいくのだ。

人は確かにこういう表情をする。深みの増したキャラクターたち

クリーチャーと等しく、『SILENT HILL 2』において心に残るのは、霧の街に迷い込んだ人々の描かれ方だ。キャラクターたちは、リアリスティックな造形になるとともに、より細やかな表情の変化が読み取れるようになり、心情の奥行きが感じられるようになった。

印象が最も変わったのはジェイムスだ。優しさと頼りなさが同居する顔、下がり気味の眉尻、ときおり見せる放心しきった表情。本作のジェイムスは疲れ切った1人のリアルな人間であるように感じられる。原作よりもやや年を取ったように見え、場面によってはさらに老けて見えた。苦境に追い込まれると人間は急激に老け込むもので、そういう表情がまた、説得力がある。

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    オリジナル版よりも少し年を取ったように見える

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    大丈夫か、ジェイムス……?

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    ジェイムス……

俯瞰で操る旧作ジェイムスは表情を伺える機会が少なかったが、リメイク版では表情が読み取れるシーンも多い。たとえばトイレに手を突っ込む場面。本当に嫌そうな顔をする。

初見プレイでは、なぜここまで嫌な思いをしながらも淡々と前に進めるのか、ジェイムスに対して疑問を抱く人もいるだろう。ジェイムスはヒロイックな主人公ではない。にもかかわらず、危険なクリーチャーに対処するし、銃や刃物を持った生身の人間を諭すこともできるし、大穴にも飛び込む。

これほど表情が雄弁に語るリメイクにおいて、危険な目に遭いながらジェイムスは恐怖に怯える表情をほとんど見せない。その理由はストーリー全体を踏まえれば色々考えられる。本作のキャラ描写は解像度が高くなる一方で、さまざまな解釈が可能な余白も残されている。このバランスが素晴らしい。

ジェイムス以外のキャラクターもまた、見せ場が増えている。特に準主役ともいえるマリアは、同行イベントが追加されているのもうれしいポイント。しかし、ジェイムスとマリアの掛け合いはなんともいえない微妙な距離感だ。マリアと対峙するジェイムスの態度は見どころの1つだろう。

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    妻に激似の謎の女、マリア

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    同行中、ちょっとした会話も

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    新たなロケーションのイベントもある

サイレントヒルには、物語冒頭で出会うアンジェラや、街中で出会う内気な青年エディーなど、情緒不安定な人物たちがいる。だが、キャラの背景事情について、多くは語られない。どのキャラも、ジェイムスとのコミュニケーションのために言葉を発するというより、一方的に内心を吐露しているように見える。プレイヤーはジェイムスと同様、困惑しながら、各々が抱える問題と半ば強制的に向き合うことになるだろう。

リメイク版では、追い詰められている人間の危うさを、より迫真に迫った形で描いている。たとえば、オリジナル版にも存在するアンジェラの印象的なセリフ「ドントタッチミー!」は、原作にない追加イベントで発せられる。

場面が異なるので当然ニュアンスも異なるが、原作で「触るな!」という感じだとすると、本作では「殺すぞ!」ぐらいまでニュアンスとして伝わってきた。どちらも素晴らしい演技だが、リメイクではアンジェラの辛さがより感じられた。

散文的な説明の代わりに、表情や行動でプレイヤーにドラマを伝える。そんな本作の魅力が、どのキャラクターにおいても表現されている。

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    あ、ごめんなさい……

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    何て顔してんだよ

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    落書きのアイデアが尽きない少女、ローラ

ボス戦はアツい。そして、謎解きはムズい

改めてバトルシステムにも触れておこう。原作はガードによって敵の行動を防げたが、今作はガードがなく、代わりに回避を行う。全体的には、機敏な操作よりも、敵を観察し、冷静に行動するプレイイングに重点が置かれている印象だ。

危険な行動には予備動作があり、相手を観察していれば対処は難しくない。ただし、これは一対一の場合。集団戦は厳しい。そして避けがたい集団戦も、ときには切り抜ける必要がある。

リソースは常にカツカツだが、銃と近接攻撃を組み合わせてちょうどいいくらいの設計なのだろう。銃はすべてを解決するほどの性能ではないが、回避の無敵時間はそこそこ信頼できるため、時間をかければ近接攻撃メインで攻略することも可能。ただし本当に時間がかかる。

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    ライフルは強武器だが万能ではない

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    高所に潜む新クリーチャー、スパイダーマネキン。卑怯者だ

なお、クリーチャーについては原作のデザインをベースに、亜種のような形で若干数のバリエーションが増えている。特に視界外から襲ってくるスパイダーマネキンはかなり手強かった。また、原作ではやや影が薄かったあるクリーチャーも思わぬ活躍をみせる。というか、かなり強い。ふざけるな。

ボス戦では、原作と比べてアクション的な面白みやギミックが追加された。原作では通常クリーチャーと大差なかったボスも、しっかりボスらしくなっている。ネタバレになるので詳細の言及は差し控えるが、とあるボス戦は演出面でドラマティックな改変があり、その点もかなりアツかった。

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    原作の記憶でなめてかかると痛い目を見る

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    バトル中の演出がアツいボスも

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    原作の強敵は今作もしっかり強い

謎解きについては、原作のモチーフが使われつつも、基本的には一新されている。ノーマルでも歯ごたえがあり、筆者はいくつかの謎解きは総当たりで突破した。詰まりそうなら周囲を観察することが大切だ。

なお、本作は原作にない収集要素が追加されている。道中で拾う「奇妙な写真」がそれにあたる。筆者はこれを謎解きの道具と勘違いして、結構な時間を消耗してしまった。同じように勘違いするプレイヤーはいないかもしれないが、一応、伝えておきたい。

奇妙な写真は結構な数がある。1周目ですべてを拾うのはなかなか骨が折れるだろうから、2周目以降にチャレンジするのがいいかもしれない。ただし引き継ぎはないので、2周目で集めるなら再び一から集め直す必要がある点は要注意だ。

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    ちょっと怖いバンドのCDジャケットっぽさがある

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    近づきたくない……

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    収集要素「奇妙な写真」

充実のオプション、味変のグラフィックモードもうれしい

最後にUI周りの仕様について。本作はUI設定も充実しており、プレイアビリティの向上から没入感アップの設定まで細かく調節できる。たとえばインタラクト可能なオブジェクトを示す白丸は大きさを変えられるし、ラジオノイズは視覚的に表示することもできる。

ところでこの白丸、非表示にもできる。ただでさえ視界がままならないサイレントヒルを探索するにあたって、弾薬もキーアイテムもどこにあるかわからないプレイは、当然、飛躍的に難易度が跳ね上がる。我こそはジェイムスその人であるという猛者は、UI非表示でプレイすれば究極の没入型プレイができるだろう。

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    アイコンを小さめに設定

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    最も大きい設定。5段階で調整できる

また、本作にはいくつかのグラフィックモードがあり、画面全体の絵作りをガラッと変えることができる。ゲーム開始時に選べるオプションは「デフォルト」「90年代モード」のみだが、2周目以降に解放されるモードもある。周回する際の気分転換にありがたい。

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    デフォルトのグラフィックモード

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    90年代モード。2周目以降は様々なモードが解放される

なお、本作はとにかく暗いロケーションが続くが、モニターとの相性もあって、プレイ中にいくつかのエリアで演出意図を超えて暗すぎると感じられた場面があった。こういう問題に当たった場合は、オプション内でHDR設定を調節してみることをおすすめする。

シリーズの今後が楽しみになる1作

リメイク版『SILENT HILL 2』は、プレイアビリティの向上により、新旧プレイヤーどちらにもおすすめしたいクオリティに仕上がっている。「サイレントヒル」シリーズに初めて触れるなら、本作は初めての1作としてベストではないだろうか。

完全初見であれば、周回しないと物語の全貌をつかめないかもしれない。クリア後には追加武器や追加設定など、新たに解放される要素があるので、周回はサクサク進めることも可能だ。最初に触れた追加エンディングを見るためにも周回は必要なので、ぜひチャレンジしてほしい。

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    周回では便利アイテムのほかに新たなキーアイテムも……?