10月16日に、ついに正式発表となったスズキの新型SUV、フロンクス。同車は、日本市場で2016年から20年まで販売されたバレーノ同様、インド生産のモデル。バレーノは5ドアハッチバックだったが、フロンクスはクーペスタイルの扱いやすいコンパクトSUV として登場しています。では、バレーノと同じくインドを拠点に開発された新型のデザインの特徴はどこにあるのか? 今回は、内外装デザインを担当した前田、遠藤両氏に話を聞きました。
■ニーズが高まるコンパクトクーペSUVの要素を強調する
ーーさっそくエクステリアから。新型はインドで発売されている2代目バレーノ同様、Bセグメントの位置づけとなりますが、スタイリングも同車をベースとしたのでしょうか?
「そうですね。2代目バレーノは初代の有機的なボディを踏襲しつつ、より引き締まったシャープな佇まいでしたが、そこへいまニーズが高まっているコンパクトSUVの要素を加えたいと考えました。高いロードクリアランスや大径タイヤはもちろん、ユーザーに求められている『らしさ』を強調したい。このあたり、開発初期にはプロポーションモデルを作ってシルエットの研究も行っています」
ーー今回、個性を与えることと同時に「ユニーク」であることが強く強調されていますね?
「たしかに(笑)。いままでとは違う、ひと目見て違いがわかるスタイルという意味ですが、そもそもスズキのクルマはユニークなデザインが多かったこともありますね。コンパクトSUVのライバルが出そろったなかで、ひとクセある存在感を狙ったワケです」
ーーなるほど。では各部分を見て行きますが、フロントではバレーノに比べてグリルがかなり拡大されたのが特徴です。
「そこは、インドで新型が販売される『NEXAチャンネル』内での統一性があると思います。具体的には、グランド・ビターラやXL6などの六角形グリルがモチーフですね。グリル内は遠くから見ても力強さが感じられ、見る角度で輝き方が変化するようザックリとしたブロックで構成しました。上下2段構造のランプや、骨太のメッキなどと併せて、いまのトレンドでもありますね」
■100m先からでも違いがわかる独自のダブルフェンダー
ーー注目の「ダブルフェンダー」ですが、これはどのような意図で造形されたのでしょうか?
「先ほどユニークという話がありましたが、100m先からでもわかるような、できるだけ明快な特徴を出したかった。スズキ車は以前から『アイコニック』なアプローチを掲げていますが、その一環でもあります。スケールモデルの段階では5案が提示されていたのですが、そのうちのひとつにこの案があったんですね」
ーーただ、リヤフェンダーには給油口もあるし、そこへ2段のフェンダーとなると、あまりにも多くの要素が集中してしまいます
「はい、実際そこはさまざまな意見が出ましたね。ただ、単にひと続きだと逆に鈍重に見えてしまい、じつは2段に分けたほうが軽快感が出るんです。また、新型のスタイリングはインドのマルチデザインが主導したのですが、現地のエネルギッシュな勢いが強い主張につながっている点もあります。特にリヤは街なかでじっくり見られる機会が多いので、チャレンジするくらいがちょうどいいだろうと」
ーーそのフェンダーにつながるキャラクターラインもかなり特徴的で、2本のラインが微妙に交差しています
¥「ここは初期スケッチから提案されていた表現ですね。2本のラインを微妙にズラすことで、見る角度により表情が変化するんです。新型は『陰影のコントラスト』がテーマですが、このラインによる面の動きも担当モデラーの高い技術によるところが大きかった。まさにユニークな表現と言えるんじゃないでしょうか」
ーー一方で、前後フェンダーに挟まれるドア面はかなりシンプルな曲面で構成されていますね
「それこそ、すべてをモリモリにしてはうるさくなってしまうので(笑)。フェンダーの力強さで足まわりに目を向けさせ、一方でドア面はキレイなラインを流した。新型は鼻先からリヤまで1本のボーン(骨)を通すテーマがあり、ドア面の強い張りもその一環なんですね」
■従来のスズキ車にはなかった質感のインテリア
ーー次にインテリアについて伺います。エクステリアは特段高級さを打ち出していませんが、インパネなど内装は高い質感をうたっていますね
「インテリアは2代目バレーノをベースにしているのですが、そのままではSUVとして物足りない。そこでどうSUVらしさを表現するかを考え、シルバーや黒ツヤに塗られた硬く力強い形状の大きな加飾を採用しました。いままでのスズキ車の内装にはない、SUVらしく高い質感で個性的なインテリアを創ったワケです」
ーーボルドーの内装色もスズキ車としては意外な提案ですね
「はい、従来はSUVというとブラウンを使う例が多かったのですが、高級SUVではワインレッドを採用する例も見られます。そこで、ブラウンでもワインレッドでもないボルドーを採用しました。高級感だけでなく、SUVとしての力強さ若さやアグレッシブさを併せ持つ点で一択でしたね」
ーーたしかに、従来のスズキ車とは違う質感が出ていると思います。ありがとうございました
〈文=すぎもと たかよし〉