米フロリダ州アメリカ・マイアミビーチで10月14日(現地時間)、Adobeのクリエイター向け年次イベント「Adobe MAX 2024」が開幕した。今年同社は、Creative Cloudの100以上の新機能、動画生成AIモデル「Firefly Video Model」のパブリックベータ提供、既存の生成AIモデルのアップデート、Frame.ioの新版など、数多くの発表を行っている。ベータ版を含め、大小さまざま、多岐にわたる発表だが、これらは全て1つの”大きな変化”に向けたものだ。
初日のキーノートで、デジタルメディア事業部門社長のデイビッド・ワドワーニ氏が、1年前に表明した「我々は生成AIを人々のクリエイティビティの代替ではなく、そのためのツールとして捉えています」というAdobeの生成AI戦略の基本姿勢を再確認した。
ある調査では、回答者の80%が「クリエイティビティの解放が経済成長にとって重要だ」と考えており、 60%のCEOが「職場でのクリエイティビティは重要なリーダーシップの資質である」としている。世界経済フォーラムによると、これからの労働者に求められる最も重要なスキルは「分析的思考」と「クリエイティブ思考」である。このトレンドは学生や若手社会人の間にも浸透しており、71.3%が社会で活躍するために創造的であることが重要だと回答している。一方で、75%の回答者がクリエイティビティを発揮する時間が不足しているとも感じている。
クリエイティビティは、デザイナーやマーケターだけでなく、ビジネスパーソンや学生にとっても必要不可欠なスキルとなりつつある。しかし、従来のデザインツールの習得には高いハードルがあり、多くの人が自らの創造力を十分に発揮できない状況が課題となっている。
この課題解決に向け、Adobeは大きな取り組みを進めている。クリエイティビティは常に変化を続けており、同社は機械学習と生成AIの進化を新たな転換点と見なしているのだ。
1年前のMAX 2023では、シャンタヌ・ナラヤンCEOが「Adobeはクリエイティビティを民主化し、手段を提供することでより多くの人々が参加できる環境をつくっています」と述べ、生成AI「Firefly」の大幅アップデートを発表した。FireflyはPhotoshopやIllustratorなどの製品と深く統合され、その結果、これまでに130億枚以上の画像が生成されている。
しかし、これはまだ始まりに過ぎない。AIを活用したクリエイティブツールのメリットは以下のように多岐にわたる。
- AIによりパターン認識や繰り返し作業を自動化し、デザイナーが手動で行う煩雑な作業を短縮できる。これにより、創造的な作業により多くの時間を割ける。
- 画像認識や自動補正、高度な編集作業をAIがサポートすることで、手動では困難な編集を容易に行える。
- 初心者やスキルが不足している人でも、複雑なデザイン作業をこなせるようになり、広範なユーザー層がデザインに参加しやすくなる。
- AIとクラウドを組み合わせたコラボレーションを効率化できる。
下の画像は、Adobeがクリエイターに生成AIをもたらすための技術スタックである。
安全な商用利用を可能にするAdobeのデータ学習は、すでに高い信頼を得ている。その上で高品質でコントロール性に優れた「モデル」が整いつつあり、残された課題は「アプリ&インターフェイス」である。「AIの本当の価値とマジックは、ワークフローにシームレスに統合されることで初めて発揮されます」とナラヤン氏は述べた。今年のMAXでの発表は、Adobeが目指すクリエイティビティの変化をより広くさらに深めていくものである。以下は、主な発表やデモ内容である。
MAX 2024で最も注目を集めたのは、Fireflyファミリーの新モデル「Adobe Firefly Video Model」である。春にスニークプレビューされた動画生成AIモデルのベータ版が公開され、一般ユーザーも利用できるようになった。
「Premiere Pro」で、Firefly Video Modelによる「生成拡張」機能が利用可能になった。BGMに合わせた尺合わせや、編集時に微妙に足りないクリップの長さをスロー処理なしで最大2秒まで生成拡張することができる。音声については、10秒まで伸ばすことが可能だ。
また、Firefly Web版では「テキストから動画生成」や「画像から動画生成」が行える。ただし、これらは限定されたパブリックベータであり、ウェイティングリストへの登録が必要である。
動画生成においては、テキスト記述が長くなることが多いが、Firefly Video Modelでは、カメラコントロール機能を使って、アングルやモーション、ズームなどをプルダウンメニューから簡単に指定できる。
「画像から動画生成」は、ユーザーがアップロードした画像をもとに動画を生成する機能で、ユーザーの意図通りの動画が作りやすい。
「Premiere Pro」にはプロパティパネルが導入され、よく使用するツールに迅速にアクセスできる。また、新しいAIベースのスマートマスキングとトラッキングツールにより、時間の経過とともに移動するオブジェクトをこれまで以上に簡単に選択できるようになった。
「Photoshop」では、不要な要素を削除するツールが強化され、人物や電線などを自動的に検出して簡単に削除できるようになった。 Firefly Image 3 Modelの一般提供が始まり、「生成塗りつぶし」「生成拡張」「類似を生成」「背景を生成」などの機能に対応する。この最新モデルは、複雑なプロンプトをより正確に理解し、高品質な結果を多様に生成できる。
「Illustrator」では、画像トレースが強化され、手書きの画像やピクセル画像を、よりなめらかで、少ないアンカーポイントで編集がしやすいベクターに変換できるようになる。また、新機能の「パス上オブジェクト」で、あらゆる種類のパスに沿ってオブジェクトを配置したり、並べ替えたり、移動させることができる。さらに、約20年間使われてきた文字組みエンジンが更新された。
そして「Project Neo」(ベータ)がWebアプリとして公開された。これは2Dデザイナー向けの3Dコンテンツ制作ツールである。2Dデザインの感覚で3Dデザインに取り組めるため、 3Dモデル作りの経験の浅いデザイナーでも扱いやすい。 Illustratorと連動し、2Dデザインで時間のかかる奥行きや立体感のある表現を3Dで容易に行えるようになった。
アセット管理ツール「Frame.io」のバージョン4も正式リリースされた。サイドバイサイドのパネル、タグ付けなど、複雑なコラボレーションを効率化する様々な改良が加えられている。また、カメラから直接Frame.ioに撮影ファイルを送信するCamera to Cloud(C2C)のパートナーに、新たにキヤノン、ニコン、ライカが加わわった。