「フリーランス」と「個人事業主」は、つい同じ意味の言葉として使ってしまいがちですが、異なるものです。では、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。この記事では、フリーランスと個人事業主の違いや、自営業、業務委託とは何かについて解説します。
また、フリーランス・個人事業主として働くメリットやデメリット、個人事業主として事業を始める際の手続きについてもご紹介。独立してビジネスをしてみようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
■フリーランスと個人事業主の違いは、「働き方」か「税務上の区分」か
フリーランスと個人事業主は何が違うのか、よくわからない人は多いでしょう。自営業、業務委託ともあわせてその違いを確認してみましょう。
<個人事業主>
個人事業主とは、法人を設立せず、税務署に「開業届」を提出して、個人として事業を運営する人を指します。事業主が一人で事業を行う場合だけでなく、家族や雇っている従業員と複数で事業をしている場合でも、法人でなければ個人事業主となります。
<フリーランス>
フリーランスも個人事業主と同様、特定の企業や団体などとの雇用関係がなく、独立して仕事を請け負う人のことを指します。では、個人事業主との違いはどこにあるのでしょうか。フリーランスは、単発の仕事ごとに契約を結び、案件ごとに業務を行う「働き方」のことです。
一方、先述の通り、個人事業主とは法人を設立することなく、税務署に開業届を出して個人で事業を行う人を意味します。
つまり、フリーランスとは「働き方」を指し、個人事業主とは法人と比較した時の「税務上の区分」を指しているのです。フリーランスとして働いている人が税務署に開業届を提出すれば、税務上は「個人事業主」に分類されることになります。
<自営業>
自営業とは、会社に所属せず独立して事業を営む人を指します。「個人事業主と同じ意味では? 」と思いますが、自営業には個人事業主だけでなく、法人を設立して事業を行う会社経営者なども含まれます。
<業務委託>
業務委託は、特にフリーランスとの違いがわかりにくいのではないでしょうか。業務委託とは、雇用関係のない会社や個人に業務を委託する際に交わす「契約方法」のことです。
業務委託契約には、「請負契約」や「委任契約」、「準委任契約」などがあります。請負契約は、成果物を納品することで報酬が発生する契約です。委任契約は、法律行為を伴う業務を行うことに対して報酬が発生する契約、準委任契約は、法律行為を伴わない業務を行うことに対して報酬が発生する契約です。
■個人事業主として働くために必要な手続きとは
個人事業主とは、法人と比べた時の「税務上の区分」であることがわかりましたが、では、個人事業主として働くには具体的にどのような手続きが必要なのでしょうか。開業届の提出、そして、健康保険や年金の変更手続きについて確認しましょう。
<開業届の提出>
個人として事業を行う場合、保健所や消防署などの営業許可が必要なケースを除き、好きな時に仕事が始められます。しかし、所轄の税務署への開業届の提出だけは必要です。
開業届は、最寄りの税務署の窓口、もしくは国税庁のホームページからPDFで取得できます。提出は、税務署の窓口のほか、郵送やe-Taxでも行えます。提出期限は、原則として開業した日から1ヶ月以内ですので注意しましょう。
また、開業してから初めての確定申告を行うまでの間は、開業届が事業を始めたことの証明になります。補助金や給付金、融資を受ける際にも開業届の提出を求められることがあるため、忘れずに税務署に提出しておきましょう。
<健康保険、年金の変更手続き>
会社員の場合、一般的には会社の健康保険組合と厚生年金に加入しますが、個人事業主になると、国民健康保険と国民年金に切り替えるのが一般的です。
ただし、個人事業主になる前に企業で働いていた人は、会社員時代の健康保険を「任意継続」できることもあります。その場合、会社と折半していた保険料を全額自分で支払います。
国民健康保険に加入する場合は退職した日から14日以内に、会社員時代の健康保険を任意継続する場合は退職日の翌日から20日以内に、それぞれ手続きを行う必要があります。
国民年金への切り替えについては、退職後14日以内に手続きが必要です。市区町村役場・各事務所の保険年金係に、退職日がわかる書類と年金手帳を持参して手続きを行いましょう。
個人事業主は、会社員時代のように厚生年金の保険料を会社が折半してくれることはなく、また、退職金もありませんので、老後資金は自分で計画的に準備しておく必要があります。国民健康保険料を支払うのはもちろん、国民年金基金や小規模企業共済、個人型確定拠出年金(iDeCo)などを活用して積み立てていくのがおすすめです。
■個人事業主として働くメリット、デメリット
会社員として働く、または法人を設立する場合と比べ、個人事業主にはどのようなメリットがあるのでしょうか。また、デメリットについても確認してみましょう。
<メリット>
1.事業を始めるまでの手続きが簡単
法人を設立する場合、登記のために10種類程度の書類を準備したり、法定費用がかかったりします。しかし、個人事業主として開業する場合、法人のような煩雑な手続きや費用は発生せず、税務署への開業届の提出だけで済みます。
また、事業の追加や変更、廃止も原則としていつでもできるという手軽さがあります。
2.より節税効果の高い青色申告を選択できる
開業届を出す際、「所得税の青色申告承認申請書」も一緒に提出すれば、確定申告において青色申告することができます(所得税の青色申告承認申請書の提出は、原則として開業日から2ヶ月以内)。青色申告なら、要件をクリアすることで最大65万円の所得控除が受けられたり、赤字を3年間繰り越せたりします。
節税効果の高い青色申告を利用できることは、個人事業主として最大のメリットと言えるでしょう。
3.一定の所得額を超えなければ法人よりも節税できる
個人事業主は所得税、法人は法人税を支払いますが、一定の所得額を超えるまでは法人税よりも低い税率がかかるため、個人事業主のほうが節税につながります。
<デメリット>
1.自分で確定申告しなければならない
会社員であれば、会社が税金や社会保険料を天引きして代わりに納めてくれ、年末調整で過不足を調整してくれます。
しかし、個人事業主は自分で計算して、所得税の確定申告を行わなければなりません。また、所得税や住民税、健康保険料に加え、業種や条件によっては「個人事業税」や「消費税」も支払う必要があります。
また、個人事業主になると、確定申告だけでなく日々の経理作業や資金管理も欠かせないことを理解しておきましょう。
2.社会保険料を全額支払う必要がある
会社員なら会社が社会保険料の半額を負担してくれますが、個人事業主の場合は全額を自分で支払うので負担が大きくなります。また、病気などで働けなくなった時の保障や将来の年金が手薄になるなどのデメリットもあります。
3.法人に比べると経費にできる範囲が狭い
個人事業主は、法人に比べると経費にできる範囲が狭くなります。たとえば、自宅を事業で利用している個人事業主の場合、住居費を経費として計上できる割合は2割〜3割、多くても5割程度です。しかし、これが法人になると、事業で利用していなくても5割〜8割を経費にすることができます。
その他、法人なら役員や従業員への出張手当、社長自身や親族従業員への退職金、生命保険なども経費にできる場合があります。
■フリーランスとして働くメリット、デメリット
単発の仕事ごとに契約を結んで働く、フリーランス。どのような点がメリット、デメリットになるのでしょうか。
<メリット>
1.少ない元手で仕事を始められる
フリーランスは、少ない元手で始められるのがメリットです。商品を販売するお店を営む場合、商品を仕入れるための元手が必要ですが、プログラマーやライターなど自分のスキルを提供する働き方の場合、少ない元手でも仕事を始められます。
2.実力次第で高収入が得られる
スキルを磨いて実力をつければ、単価を上げて高収入を得ることも可能です。また、多くの企業と契約を結べば、その分たくさん仕事を受けることができます。
会社員時代より労働時間が減り、そのうえ収入も上がったというフリーランスの声を聞くこともあります。
3.自分の好きなように働ける
フリーランスになれば、自分の好きな仕事だけ受けることができますし、働く時間や場所も自由に決められます。業務の幅を広げる、自分の裁量で優先順位を決めるなども自由です。
好きに働けることで、ストレスから解放されたという人も多いようです。
<デメリット>
1.収入が安定しない
フリーランスの一番のデメリットは、収入が安定しないことです。大きな案件が続いた時は収入が高くなりますが、逆に、仕事が少ないという状況もあり得ます。
また、成果を出さないと継続して依頼されないため、常にスキルアップが必要な働き方でもあります。
2.組織に属さないことで信用力が低い
フリーランスは、会社員のように特定の組織に属しませんが、それが一因で信用力が低くなりがちです。
また、規模も個人や家族単位であるため、新規顧客の獲得は既存の顧客からの紹介にとどまる、大手企業は法人しか相手にしない場合もあるなど、事業拡大が難しいこともあります。
3.全て自分で管理しなければならない
フリーランスは、自分で業務スケジュールや納期、資金などの管理を行う必要があります。また、良くも悪くも全てを自分で判断して決めなければなりません。会社員以上に責任感が求められるため、シビアな働き方とも言えます。
■「個人事業主」と「フリーランス」は似て非なるもの
個人事業主とフリーランスは同じ意味で使われたり、混同されたりしがちですが、似て非なるものです。これから独立して働こうと考えている人は、「税務上の区分」や「働き方」を表すものであることをよく理解しておきましょう。また、個人事業主になる際の手続きについては事前によく把握しておき、不備や漏れがないよう気を付けましょう。