かつての牛乳の街・横浜で紡がれる新たな物語
かつて横浜が「牛乳」の一大産地だった、と聞けば、多くの人は驚くだろう。
幕末の頃、横浜の外国人居留地に牧場がつくられたことをきっかけに、多くの日本人が牧場経営を始めた。そして明治時代以降、一般庶民にもミルクやアイスクリーム、チーズ、バター、ヨーグルトなどの乳製品を食べる文化が広がっていった。
そんな乳文化発祥の地で、NTTグループとともにイノベーションを起こしている牧場がある。横浜市瀬谷区の相澤良牧場だ。
生乳の生産だけでなく、アイスクリームやヨーグルトなどへの加工、販売など、農業を多角的に展開することを「6次産業化」と呼ぶ。
相澤良牧場では、2009年に「ハマッ子牛乳」を商品化、2013年にはアイスクリーム・ジェラートの自社製造と販売を開始するなど、積極的に6次産業化を進めてきた。
そんな相澤良牧場に、NTTグループによるICTの力が加わったのは4年前のこと。牛舎に牛を見守るためのIoTカメラを設置し、スマホで、いつでもライブ映像を確認できるようになった。
酪農でもっとも大変なことの一つは、牛の出産だ。夜に産まれることが多いが、分娩には手助けが必要だ。いつ産まれるのか。たとえ深夜でも頻繁に見回らなければならなかった。
スマホでのリモート監視は、そんな酪農の仕事を大きく手助けできる仕組みだ。NTT東日本 神奈川事業部とNTTビズリンクの、「映像を通じて牛の疾病等をAIで検知する」実証実験の一つとしてスタートした。
この事業を皮切りに、NTTグループは、相澤良牧場に対する多角的な支援を実施していく。
牛の乳量がアップする牛舎専用照明、インダクションライトの導入。そして、相澤良牧場の店舗ブランド「オーガスタミルクファーム」のカップアイスや飲むヨーグルトのセットを「テルウェルeすと」で販売。
テルウェルeすとは、テルウェル東日本が運営する、全国各地の名産品や特産品を取り扱うECサイトだ。相澤良牧場の代表、相澤広司氏は、NTTグループの販売支援は非常に助かっていると言う。
「もともと通販に興味はありましたが、デスクワークの専任がいるわけではないため、運営が難しいと思っていました。しかし、テルウェルeすとは顧客情報の管理から集荷の手配まで、すべて代行してくれるんです。うちは商品を箱詰めするだけで済みます。昨今は『顧客情報管理』が厳しくなっていますが、その部分をNTTグループに任せられるのも、安全・安心につながると思っています」(相澤氏)
「大きな電話の会社」から信頼のパートナーへ
パートナーシップを続けていく中で、「NTTに抱いていたイメージが変わった」と、相澤氏は続ける。
「NTTといえば『大きな電話の会社』というイメージ。なんとなく壁があるようにも感じていました。ところが、話しているうちに、真剣さが違うな、と思うようになったのです。何でも聞けて、教えてくれて、逆に、こちらの話も熱心に聞いてくれる。単なるクライアントと業者を超えた、深い付き合いができるようになりました」(相澤氏)
相澤良牧場での実践が、神奈川県全体の酪農支援につながっていると、NTT東日本 神奈川西支店 ビジネスイノベーション部 ビジネス企画担当 シニアアドバイザー 畠山昌英氏は言う。
「相澤様が当初抱いていたように、NTTには『壁』を感じてしまう方が多いようです。我々としては、なんとかそれを払拭して、地域で価値創造をしていくパートナーとして思っていただきたい。相澤良牧場で実際に成果を挙げられたことによって、神奈川県内の他の牧場にもICTの導入支援が進み、酪農の効率化に幅広く貢献することができるようになりました」(畠山氏)
地産地消のバームクーヘンで地域活性化
そして2024年、NTT東日本グループは、相澤良牧場の新規事業「神奈川素材で作ったバームクーヘンの製造・販売」の立ち上げを伴走支援することを決定した。
神奈川素材とはすなわち、平塚の米粉と、横浜の産みたて卵、そして牧場の牛乳。地域循環型社会の共創を目指したバームクーヘンだ。
横浜市泉区に開業した大規模集客施設「ゆめが丘ソラトス」内に店舗を出店し、そこで販売する新商品である。
「アイスは秋冬が弱いので、さらなる商品を開発したいと考えていました。そこで、農業・畜産業の友人と連携し、『神奈川素材』のバームクーヘンを開発することにしたんです。出店に当たって、それをどうPRするか。NTTさんに相談したところ、サイネージ映像とWebサイトの作成をしていただくことができました」(相澤氏)
NTT東日本 神奈川事業部 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ シニアコンサルタント 後藤義行氏は、伴走支援にかける思いを次のように語る。
「NTT東日本グループは『地域循環型社会の共創』をパーパスに掲げています。地産地消に繋がるバームクーヘンの製造・販売は、まさにこのパーパスに合致すると考え、伴走支援を決定しました。PRに関しても、ドローンを飛ばした迫力のある映像や、品質の高さが伝わるWebサイトデザインなどを通じて、貢献できたかと思います」(後藤氏)
ゆめが丘ソラトスの開業当初からバームクーヘンは売り切れ続出で、嬉しい悲鳴が上がっているそうだ。
相澤良牧場とNTT東日本グループが共に築く新たな地域社会の姿
来年度以降、相澤良牧場は、新たな大規模商業施設への出店も検討中だ。「横浜で酪農を続ける意義」を相澤氏は語る。
「飼料の高騰や後継者不足など、酪農の状況は甘くはありません。それでも酪農業発祥の地としてなんとか残していきたいと思い、六次産業化の創意工夫を続けてきました。
最近も、横浜で『売れ残った野菜を乾燥させ、粉にして活用し、食品ロスを削減する』という取り組みがあると聞き、この野菜パウダーをバームクーヘンに練り込むのはどうか? などと考えています。
新しい挑戦は、わからないことだらけです。これからも、NTT東日本グループの持つICTの力を借りて、作業を効率化し、情報を集め、発信することで、地域での横展開を拡げていきたいと思います」(相澤氏)
相澤良牧場とNTT東日本グループの取り組みは、これからも神奈川に豊かな地域社会をもたらしていくことだろう。