日産自動車のERG(Employee Resource Group)が社内向けイベント「生理痛体験会」を開催した。そもそもERGとは何で、どんな目的を持ち、どんな活動をする組織なのか。今回の体験会を開催した理由とは? イベントに潜入して確認してきた。

  • 日産の「生理痛体験会」

    日産グローバル本社(神奈川県横浜市)で開催された「生理痛体験会」に潜入!

そもそもERGって何だ?

ERGは「従業員リソースグループ」と訳される。同じ課題意識を持つ従業員が集まり、ボトムアップで職場環境の改善を目指す従業員グループを指す言葉だ。日本ではまだERGがある会社が少ないためあまり聞きなれないが、アメリカではすでに一般用語として存在が認識されているそうだ。

日産では2023年にオフィシャルERGが立ち上がり、今年から「Gender」「育児両立」「LGBTQ+」「マルチカルチャー」の4つのグループが活動をスタートした。

従業員ネットワーク活動など既存の業務外活動とERGの違いとして、ERGには「スポンサーとして役員がサポートにつく」「会社から活動予算が与えられる」「活動が勤務時間に認定される」といった特徴がある。

なぜ生理痛を取り上げた?

25名が参加した「生理痛体験会」はGenderグループによる取り組みだ。

生理痛は女性特有の現象であり、そのことについての理解や共感を促進するための企画なのかと思いきや、実はそうではないという。Genderグループのリーダーはこう語る。

「上司や同僚が相手のことを理解していると思っていても、あくまで自分のものさし、想像の範囲内であって、実際には理解できていないことがあると思います。例えば、同じ強さの痛みでも、感じ方は人それぞれです。どのくらい痛いかを想像しても、それはあくまでも自分の思い込みでしかありません。これは、いろんな場面で同じことが言えると思います。自分の想像は思い込みかもしれないと気づいてもらう、知ってもらうことはできないかと考えたのが、今回のイベントです」

  • 日産の「生理痛体験会」

    生理痛の痛みを再現する生理痛体験デバイス「ピリオノイド」。本体、コントローラー、電極パッドからなり、強さは弱・中・強の3段階で調整できる。ちなみに、女性の8割以上が自身の生理痛の痛みは「強と同等、もしくはそれ以上」と証言しているらしい

生理痛の痛みについては、同じ女性であっても痛みの感じ方は人それぞれのため、「辛いよね」と相手を慮っても完全に共感することは難しいという。だからこそ、男性女性を問わず、自分の想像が思い込みかもしれないということに気づいてもらう題材として生理痛はぴったりというわけだ。

生理痛を実際に体験していく参加者たち

「生理痛体験会」ではまず、生理の基礎知識に関する座学を行った後、参加者たちは2グループに分かれ、生理痛体験デバイス「ピリオノイド」による生理痛の痛み体験とワークショップを交互に行っていった。

  • 日産の「生理痛体験会」

    参加者が下腹部に装着した電極パッドと本体を有線で接続している様子

  • 日産の「生理痛体験会」

    順に生理痛を体験していく参加者たち

「ピリオノイド」を体験する参加者のリアクションは、あまり痛そうに見えない人からあまりの痛みに緊急停止ボタンを押す人まで、十人十色といった様子。体験直後の参加者たちからは、「痛すぎる」(男性社員)、「生理痛ってこんなに痛い?」 (女性社員)といった声が上がっていた。

ワークショップではそれぞれが体験した痛みについての感想や、職場での困りごとを共有して改善していくことの大切さなどについて話し合い、多様性への理解を深めていった。

ERGの活動を今後どうやって普及させる?

イベント終了後、実際にピリオノイドを体験した日産 人事本部理事の小阪享司さんに話を聞いてみると、「(生理痛は)想像していた以上に痛かったです。痛いというか鈍痛に近い感覚でしたが、これが2~3日続くのはちょっと無理だなと感じます」とのことだった。

  • 日産の「生理痛体験会」

    ピリオノイドを体験する小阪さん(写真右)

「あの痛みを抱えながら会社に来ていたんだと驚きました。これからは、生理に対する感覚を改めないといけませんね」と小阪さん。自分の想像は思い込みかもしれないと気づいてもらう、知ってもらうというGenderグループの狙いは達成されたようだ。

こうした活動の重要性については理解できたのだが、日産のように全国に支社や工場を持つ大企業の場合、イベントを開催するからといって各地から社員(関係者)が集まることは難しそうだ。今後はどのようにERGの取り組みを普及させていくのだろうか。Genderグループリーダーの回答は以下の通り。

「ERGは運営メンバーが何かをする場ではなく、何かをやりたいと思っている人が実現する場だと思っています。実際に、他の拠点で『生理痛体験会』を開催してほしいという声もありますが、それであれば開催すればいいんです。今回のイベントで、私たちも1度開催した経験を得たので、どうやって進めていけばいいのかということは共有できます。サポートは小阪や私たちがするので、みんながやろうと思える仕組みを作っていけるかどうかが次の課題だと思っています」