そう遠くない将来、寿司が食べられなくなるかもしれない。日本人にとっては死活問題である。

気候変動や乱獲の影響もあり、日本の漁業生産量はもう何十年も右肩下がり。この調子で減り続ければ、日本の漁獲量は2050年頃にはほぼ“ゼロ”になるペースだとの試算もあるようだ。寿司専門店からすれば、存亡の危機が迫っているともいえる。

回転寿司チェーン最大手「スシロー」を傘下にもつFOOD & LIFE COMPANIES(F&LC)はこの課題解決に取り組むべく、日本旅行とともに「未来の回転寿司共創プロジェクト ~高校生と考える、未来の回転寿司について~」を開始。高校生らの水産資源にまつわる「探究活動」を支援することで、寿司文化の継承を図る。

▼「SDGsってすごく大切なんだな、って改めて思った」

  • 「未来の回転寿司共創プロジェクト」で代表校として選ばれた立命館高校の生徒たち。左から順に山田真緒さん、糸瀬こころさん、中村愛梨さん

“未来を担う高校生に探究学習の場を提供する”ことを目的にスタートした「未来の回転寿司共創プロジェクト」。関西圏にある7つの高校の生徒有志が参加し、2024年6月から8月にかけてオンライン授業やフィールドワークを通して水産資源の現状を学んだ。フィールドワークでは2日間をかけ、スシローの実店舗で職場体験を実施したり、スシローで販売しているはまちや鯛、しまあじを扱う水産会社「尾鷲物産」(三重県尾鷲市)などを視察したという。

その成果は各校ごとに、F&LC経営陣へ向けて発表。代表校に選ばれた立命館高校の生徒らが10月10日、F&LC全社会議の場でプレゼンを行った。

立命館高校の生徒らは「FunFan Sushi」をテーマに未来の回転寿司について考察した。サイズが規格外であったり、「食べられない」という偏見を持たれたりしている“未利用魚”を地域限定の地産地消メニューとして販売することで、食材の安定調達を確保しつつ、海の生物多様性の保全にも貢献できるなどと提案。会場からは大きな拍手が送られた。

プレゼン終了後に控室を訪ねてみると、そこには緊張から解放され、リラックスした様子で談笑を楽しむ生徒たちの姿があった。プロジェクトに参加した感想をそれぞれにうかがってみる。

「将来、お寿司が食べれなくなるかもしれないっていう話は聞いたことがあったんですけど、あまり実感はなかったんです。だけど実際に三重まで行って、いろんな方のお話を聞いたり、いろんな現場を見たりして、すごく興味を持ちました。SDGsってすごく大切なんだなって改めて思いました」(中村愛梨さん)

「このプロジェクトに参加するまで、水産問題にはあんまり関心がありませんでした。でも今回の研修を通して、今まで経験していなかったことも経験できて、すごくプラスになりました。未利用魚などの情報をリサーチして、未来の回転寿司をどのように続けていけばいいかというアイデアも出しましたが、そういう一連の流れも含め、とてもいい経験になったと思います」(糸瀬こころさん)

「学校でSDGsや社会課題について考える機会はたくさんあったんですけど、 学校の外で、企業の方たちと関わるような大きなプロジェクトに参加するのは初めてでした。すごく楽しかったし、もっと多くのことを知りたいなと思いました。これからも学び続けていきたいし、人との繋がりも大事にしたいと思います」 (山田真緒さん)

▼このプロジェクトこそが“社会に開かれた教育課程”だ

今回のプロジェクトで企画主催を担ったのは、日本で最も長い歴史を持つ旅行会社「日本旅行」だ。プロジェクト立ち上げの背景には、高校側が修学旅行に求めるニーズの変化などもあったという。

SDGs推進チームでチーフマネージャーを務める椎葉隆介さんは言う。

「ここ数年で修学旅行も少しずつ変化してきています。これまでは主に、“観光地を見て回って、楽しい思い出を作ろう”という内容だったのですが、今は探究学習に力を入れる時代ということもあって、“より深く地域のことを学んでいこう”といった付加価値の高い修学旅行を求める学校が増えているんです。

F&LCさんから「水産資源をテーマにした教育旅行、探究活動ができないか」と相談をいただいたのも、ちょうどそんなタイミングでした。三重県尾鷲市まで行って、水産資源の現状をしっかり学んで、新しい寿司のかたちを探っていく。このプログラムはおそらく学校側も喜んでくれるだろう、ということでゼロから企画させていただきました」(椎葉さん)

実際、学校からの評判も上々だったようだ。

「文科省は“社会に開かれた教育課程”を掲げていますが、今回参加した先生たちも『それってこういうことだよね』と言ってくれました。学校の外で生徒たちが専門性の高い人たちと直接触れ合うからこそ、今日のようなプレゼンができたわけです。これからもこのプロジェクトは続けていきたいし、続けなければいけないと思っています。学校側からそういった声が届いていますし、『もっと近隣でもできませんか』といった問い合わせもありますから、いろんな方法で続けていきたいと思います」(椎葉さん)

もともと椎葉さんら日本旅行側は、水産資源などに関する専門知識を持っていたわけではなく、今回のプロジェクトを進行するうえで徹底的なインプットが必要だったという。「本当に勉強しました。今では『水産博士か』『なんでそんなに養殖に詳しいんだ』と周りに言われます」と椎葉さんは笑う。

未来を担う高校生はもちろん、関わった全ての大人たちにとっても「未来の回転寿司共創プロジェクト」は貴重な学びの場となったようだ。