東京タワー フットタウンで10月12日から14日までの3日間、『完全没入ショールーム 100 人に1人が体験する統合失調症の世界!』が開催されます。これは統合失調症の疾患啓発を目的とした没入体験型イベント。自身の統合失調症体験をつづった作家のHimacoさんのコミックエッセイをもとに当事者の日常を再現し、“統合失調症患者さんに起きているかもしれない世界を追体験”させるとは、一体どんなイベントなのでしょう? 開催に先がけて行われた体験会に参加しました。

  • 「完全没入ショールーム 100人に1人が体験する統合失調症の世界!」が開催される

「統合失調症」。この病名を耳にしたことはあっても、きっと「自分には関係のない遠い世界の話」だと考える人が多いはず。でも実は約100人に1人の割合で発症するほどめずらしくない病気で、10代から30代で発症することが多いそう。学校なら2~3クラスに1人はいる確率と考えると、がぜん身近に感じてきませんか。

統合失調症の主な症状は、幻覚・幻聴・妄想といった「陽性症状」、意欲の低下や気分の落ち込みがみられる「陰性症状」、そして集中力や判断力、記憶力の低下などが起こる「認知機能障害」の3つ。会場ではこれら“統合失調症患者に起きているかもしれない世界”を、Himacoさんの著書『今日もテレビは私の噂話ばかりだし、空には不気味な赤い星が浮かんでる~統合失調症の私から世界はこう見えた~』(KADOKAWA)を題材に、リビング、寝室、ダイニングキッチンの3つの部屋で再現します。

幻覚、幻聴、妄想が表れる「陽性症状」

  • 「陽性症状の世界」幻覚や妄想・思考障害により、普段と異なる行動をして日常生活への影響がみられた様子を再現したリビング

1つめの「陽性症状」は、命令する声が聞こえると言ったり、悪口を言われた・いじめを受けたと訴えるが現実には何も起きていない、監視や盗聴を受けていると言うので調べたが何も見つからない、ぶつぶつと独り言を言っている、など。不眠から始まったHimacoさんの場合、次第に考える事に夢中になっていき、頭が速く回転。目や耳から入った小さな情報が連想ゲームのように、思考が広がったといいます。

「自分が考えていることと外の出来事が一致しているような感覚で、“他の人が何か事情を知っている”“思考が外に漏れている”と考えるようになりました。さらに幻覚があり、妄想がより強固になりました」

車から監視されている、盗聴器を仕込まれていると思い、部屋にある段ボールをひっくり返して盗聴器を探したこともあったというHimacoさん。当事者は自らこうした幻覚や妄想を“病気の症状”だと認識できないことも多いため、周囲の人が医療機関への受診を促すことが重要だそう

意欲が減退し興味が消失する「陰性症状」

2つめの「陰性症状」は、意欲減退や興味の消失、無関心などが見られ、それまで打ち込んできた趣味や楽しみにしていたことに興味を示さなくなったり、人付き合いを避け引きこもったり、身なりにかまわず入浴もしなくなる、他人の感情や表情を理解するのが苦手になる、感情の動きが少なくなるといった症状がみられます。

  • 「陰性症状の世界」思考・意欲の低下や無関心・無気力により、部屋が片づけられなくなり散らかったベッドルーム

「陽性症状が落ち着いてすぐ仕事に復帰しましたが、以前とは全く違う、体の疲れやすさに気づきました。やる気の火が燃えない、気力をふり絞れない。家でも疲れて寝ているばかりで、部屋を片付けることもできなかった。朝起きられないときは、頭では起きようと思っていても動けませんでした」

こうした症状は、事情を知らない周囲からは理解されづらく、怠慢と受け取られて誤解の原因になることも。

記憶力や判断力が低下する「認知機能障害」

3つめの「認知機能障害」の症状は、日常生活における理解力や記憶力の低下で社会生活における問題解決能力が低下する、話にまとまりがなく何が言いたいのかわからない、作業のミスが多い、などです。

  • 「認知機能障害の世界」注意力・計画能力・記憶力の低下などの認知機能障害による日常生活への影響を再現したダイニングキッチン

「頭の中に違和感があるようになり、病気を患う前ならできていた、考え事を広げることが苦手になりました。例えるなら“頭の中の作業台が小さくなった”ような感覚で、部屋の片付けが苦手になり、料理と洗い物を同時にこなすことも難しくなりました」

当事者も周囲も病気の症状として意識せず、適切な対応が十分できていないことも。本を読む、家事をする、仕事をするなど、認知機能を使い続けるリハビリが大切だそう。

Himacoさんはこうした体験によって“統合失調症は脳の病気なんだとあらためて感じた”といいます。

「以前の私は、統合失調症は遠い世界の話、世界のどこかに変わった人がいるんだろうという風に思っていました。病気ではなく性格みたいなものだと。でも自分が発症して、その認識はガラリと変わりました。統合失調症は決して遠い世界の話ではなく、自分の身に起きたことでした。統合失調症や当事者への理解が広まれば、当事者や周りの人がこの病気に絶望せずに済み、早期発見や早期治療、そして治療の継続に繋がっていくかもしれません。私も自分を責めず、うまく休みながら、できることからやっていこうと思っています」

  • 自身の統合失調症体験をコミックエッセイにつづった作家のHimacoさん

自分の体験が、統合失調症を“自分ごと”として考えるきっかけになればと語ったHimacoさん。多くの人には通常出ないような症状が出る病気のため、まだまだ誤解や偏見が多いのが現状ですが、大切なのは当事者も周囲もこの病気を正しく理解し、正しくサポートすること。“統合失調症患者さんに起きているかもしれない世界”への没入体験は、その一助になるかもしれません。入場は無料です。

  • 会場にはHimacoさんの作品のパネル展示も

■information
「完全没入ショールーム 100人に1人が体験する統合失調症の世界!」
会場:東京タワー フットタウン1F イベントスペース
期間:10月12日~14日(11:00~20:00※最終日は 18 時まで)
料金:入場無料