二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)
電化、自動化、デジタル化を網羅するテクノロジーは、エネルギー転換の実現にとても重要であり、従来の燃料と新しい燃料の共生が必要です。
“CCS”は従来のエネルギー分野の脱炭素化に大きく貢献が期待される技術であり、特に化石燃料に大きく依存している日本にとって、 CCSはネットゼロ達成のために必要不可欠です。日本では、2021年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の中で、2050年カーボンニュートラル実現のための具体的な方策のひとつにCCSが挙げられています。 また、2023年5月に公表した長期ロードマップのもと、CCSの事業化に向けて「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」が2024年5月に成立しました。
さらに北海道苫小牧市では、2012年から日本初となるCCSの大規模実証試験が国家プロジェクトとして実施されていて、このプロジェクトを通して、2019年までに30万トンのCO2圧入が達成されました。
水素とアンモニア
水素やアンモニアは現在、次世代のカーボンフリーのエネルギー源として注目されています。 さまざまな資源から製造可能な水素は、エネルギー資源に乏しい日本にとって、エネルギー調達の多様化と安定化やエネルギー自給率の向上が期待できます。日本では90%以上の一次エネルギーを海外から輸入しているため、エネルギー安全保障の観点においても重要です。また経済成長という点においても、水素・アンモニア関連産業は、2050年には世界で約160兆円、日本国内でも8兆円を超える市場規模になると予測されています。
エネルギー安全保障の強化のため、日本はオーストラリアからの水素供給を目指す褐炭水素プロジェクト「HESC」(Hydrogen Energy Supply Chain、水素エネルギーサプライチェーン)を通じて大規模な水素供給体制を構築することで、2050年カーボンニュートラル目標達成に寄与しています。
一方で先述したように、2023年11月には日本と韓国の両国間で、水素とアンモニアを含むカーボンニュートラル燃料の共同供給ネットワークを構築中であることが報じられました。 また、日本のAZECとAETIが、アジア4カ国の業界関係者の間で、アンモニア混焼に関する覚書を締結したのも重要な出来事です。
デジタルソリューション
エネルギー転換を含むクリーンテック産業において、データとデジタルツールの活用は不可欠です。 今までは散発的に利用されてきましたが、今後3~5年でより強化して活用されることが求められています。デジタルソリューションは新たなエネルギーを生み出す代わりにエネルギー転換を可能にし、送配電網への自然エネルギーの統合を安定させ、新エネルギー市場のリスクを軽減します。効率的なデータ管理は、透明性と可視性を確保しつつ、より良い意思決定を促し、生産性の向上や環境への影響の低減につながります。
例えば、発電所や電力網のデジタルツインを作成し、さまざまなシナリオをシミュレーションすることで、事故や災害時の対応策を事前に検討し最適化することができます。また、デジタル技術を活用したスマートグリッドを構築することで、電力需給のバランスを最適化し、再生可能エネルギーの統合を促進できます。これにより、エネルギーシステムの柔軟性と耐障害性が向上します。
グリーン人材の育成
アジアは化石燃料分野において膨大な労働力を誇りますが、グリーンジョブへの移行は急務であるとされています。適切なスキルがなければ成長は妨げられてしまうため、 ネットゼロの未来の労働力を育成・トレーニングすることが最も重要です。また産業界のリーダーや政府、教育機関と協力し、これらのスキルを知識開発に組み込んでいくこともとても重要です。
CCS、水素、アンモニアなどの新興分野におけるグリーンジョブの需要拡大に伴い、新しい教育パートナーシップが急増すると予想しています。しかし、これらの分野には、石油・ガス産業などで確立されているような知見はまだありません。
この分野の教育・育成の一例として、イギリスのインペリアルカレッジ ロンドンが、科学・技術・工学・数学(STEM)不足への取り組みを支援することを目的に、専用の炭素回収パイロット設備を通じて、ネットゼロのための労働力・人材育成に注力しています。2012年の開校以来、4500人以上の学生がこの設備で最先端の制御・計装技術を利用しています。
2050年のネットゼロ目標達成に向け、日本はその歩みをさらに加速させなければなりません。同時に、安全を大前提として、安定的かつ安価なエネルギー供給を確保することも引き続き重要です。こうした観点から、日本には、アンモニアや水素などの新エネルギー、再生可能エネルギー、CCSなどの技術の推進など、さまざまな選択肢を取り入れた戦略が必要です。エネルギー資源をバランスよく活用することが、日本が持続可能な未来の目標を達成するための鍵となるでしょう。