日産自動車の栃木工場(栃木県河内郡)といえば、「GT-R」や「フェアレディZ」、電気自動車(EV)「アリア」など数々の車種を製造する同社の重要な施設だ。その栃木工場で工場見学者を迎える「ゲストホール」をリニューアルしたということなので、見に行ってきた。
栃木工場ってどんな場所?
数千点の部品を組み上げて新車を製造する自動車メーカーの工場見学は、子供から大人まで高い人気を誇る。日産の栃木工場では1974年から工場見学ツアーを実施しており、これまでに小学生を中心に243万人を超える見学者が訪れている。ゲストホールは2005年から見学ツアー参加者を迎えてきた施設だ。
栃木工場の所在地は、県庁所在地である宇都宮市に隣接する栃木県河内郡上三川町。日産の工場としては国内最大規模を誇る。生産している車種は日産が世界に誇る「GT-R」や「フェアレディZ」などの上級スポーツカー、海外向けのインフィニティを含む「スカイラインセダン」、SUVタイプの最新EV「アリア」など。生産工程は車体関連に限らず、鋳造やプレスによる部品製造や主要パーツの組み立てなど多岐にわたる。さらに施設内には、新車開発拠点の研究所やテストコースまである。日産車にとって重要な拠点のひとつだ。
見学ツアーは、2021年に導入した「ニッサンインテリジェントファクトリー」のアリア製造ラインで行っており、車両の組み立てラインや完成検査ラインなどを見ることができる。その玄関口となるのがゲストホールだ。
新たなゲストホールは中央ホールをブラック基調とし、ブルーの照明をアクセントに使っている。未来的で、よりミュージアム的な空間となった。中央には同工場で製造するアリアとGT-Rが鎮座している。展示車は自由に触れることができて、運転席に座ることも可能。フォトスポットとしても活用できそうだ。
生産現場に最新技術を導入
今回、約20年振りにゲストホールのリニューアルを実施した背景には、生産技術の大きな進歩がある。
「ニッサンインテリジェントファクトリー」では環境対応に加え、作業員の負荷低減や将来的な人手不足改善を図るべく、新たな生産ロボット技術を導入している。ゲストホールには今回、最新鋭の自動車製造ラインの特徴を「プレス」「車体溶接」「塗装」「組立」「検査」の5工程に分けた展示を新たに設置した。映像や実際の部品を用いた展示で、クルマをどのように作っているのかが分かりやすい。
メインイベントとなる工場見学では、アリアの「組立」と「検査」の工程を見て学ぶことができた。そこで目にした最新の製造システムが「SUMO」(スモー)だ。「Simultaneous Underfloor Mounting Operation」の頭文字を取ったものだが、なんとロボットの活躍により、モーター、バッテリー、リヤサスペンションの取り付け作業を一括して行うことができるそうだ。従来の仕組みでは6工程に分かれていたものが1工程になるというのだから、すごい。
具体的にはフロント、センター、リヤの3つに分かれたパレット上にパワートレインの部品を組み立てておくと、その取り付け作業をロボットが実施してくれる。車体とパレットの位置関係はいつも全く同じとは限らないので、ロボットは画像認識技術を用いて計測し、位置を補正して取り付け作業を行っている。
これにより作業員は、吊るされた車体の下で腰をかがめ、重たい工具を持って作業する必要がなくなる。生産効率が上がるだけでなく、作業員にも優しいシステムなのだ。現状はEVの生産のみに使用していているが、この仕組みはエンジン車やe-POWER車(ハイブリッド車)にも活用できるというから、将来的には他の日産工場にも導入が広がっていくことだろう。
このような最新技術を実際に見られるのが工場見学の魅力だ。
GT-Rの生産現場も見たい?
工場見学を実施しているのは現状、第2工場となるインテリジェントファクトリーのみ。GT-RやフェアレディZを生産する第1工場を見ることはできない。日産では今後、要望が多ければ新たなツアーの検討も行うとのことだから、栃木工場の見学の際、関心のある車種や施設について見学の要望を伝えてみるのもいいかもしれない。
日産自動車栃木工場の工場見学は小学生を中心に募集を行っているが、不定期開催とはなるものの一般向けもあり、日産自動車の公式サイトから申し込みが可能だ。ゲストホールだけであれば月曜日から金曜日の9時から17時まで、ゴールデンウィークや夏季休暇などの長期休暇期間をのぞき自由に見学できるという。近くに出向いた際に立ち寄ってみるのもいいだろう。ただし、工場見学は予約制なので、お間違いなく。