東京・目黒のホテル雅叙園東京で、「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」が始まりました。幕末から明治にかけて活躍した“最後の浮世絵師”、月岡芳年の晩年の大作の世界に迷いこんだような空間展示や、月をモチーフにした現代アート作品が、日本美のミュージアムホテルの名レトロ建築を舞台に広がっています。

  • ホテル雅叙園東京で「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」が始まった

東京都指定有形文化財「百段階段」は、1935年(昭和10年)に建てられた、同ホテルで現存する唯一の木造建築です。99段の長い階段廊下が7つの部屋をつなぎ、当代屈指の画家たちによって趣向を凝らした絵や彫刻で装飾された部屋には、江戸時代から伝わる美意識と昭和初期のモダニズムが息づき、その絢爛豪華さで“昭和の竜宮城”とも称されていたとか。

  • 東京都指定有形文化財「百段階段」

今回、そんな文化財建築を彩っているのが、“月”。浮世絵師の月岡芳年が月にちなんださまざまな物語を描いたシリーズ『月百姿(つきのひゃくし)』から、前後期に10点ずつの浮世絵が登場します。

  • 「十畝の間」

浮世絵に使われている紙や絵具は、強い光が当たると色が褪せてしまうほど繊細なため、展示に大切なのが“暗さ”。そこで、照明を落とした薄暗い空間にほんのり明かりで照らすといった正統的な展示方法を採用。また、和紙に転写し下から明かりを照らすなどの工夫を凝らした演出も取り入れて、約130年前に芳年が紡ぎ出した月の世界を鮮やかに浮かび上がらせています。

  • 「草丘の間」

そんな『月百姿』のシーンからインスピレーションを受けた空間展示も登場します。浮世絵に描かれたススキと月がそのまま出現したかのように、2,000本以上のススキと満月が浮かび上がる――足を踏み入れた瞬間、そんな幻想的な情景が広がるのは「草丘の間」。モノクロームから黄色へと変化し、最後にうさぎが横切るプロジェクションマッピングの月。どこからか聴こえる虫の音、ゆったり風にたなびく無数のススキ……ひんやりするような秋の静けさを感じながらの“ミステリアスなお月見”といったところでしょうか。

  • 「漁樵の間」

紫式部が琵琶湖のほとりの石山寺で、湖に映る満月を眺めていた時に構想がひらめいたと伝わる『源氏物語』をテーマに、浮世絵に描かれた満月が出現するのは、絢爛豪華な「漁樵の間」です。月百姿の「石山月」に描かれた、文机でぼんやりと頬杖をつく紫式部に着想を得た空間展示のテーマは、“水と月”。ガラスの中に綴られた源氏物語や水をテーマにした繊細なガラス作品など、現代作家の作品も登場します。

  • ガラスの中に綴られた源氏物語(玉田恭子 作)

さらに階段を上がっていくと、独自の紙漉きの技法で和紙を操り、凹凸で“月と地球の呼応”を表現した作品や、自然の光をテーマに水面に映る満月とさざ波を表したガラス、そして現代の日本画家と文化財建築に描かれた日本画のコラボレーションなど、現代アーティストそれぞれの解釈で表現した“月アート”たちに出会えます。

  • 美しい月夜を表現した盃「津軽びいどろ 爽華 盃 月明」(右)と「津軽盃12ヶ月コレクション 9月 月見」(右)(共にアデリア株式会社)

  • 独自の技法で和紙を操り月の凹凸を表現(伊藤咲穂 作)

文化財建築の7つの部屋を巡るたびに、異なる月世界に誘われるような夢幻的なお月見を堪能できる同展は、12月1日まで開催です。

  • 文化財「百段階段」の階段、実は99段までなんです

■information
「月百姿×百段階段~五感で愉しむ月めぐり~」
会場:ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
期間:12月1日まで(11:00~18:00/月曜休、※11/5日は展示替えのため休館)
料金:当日券1,600円、大学・高校生1,000円 / 小・中学生800円