消防士から転職
マイナビ農業:以前は消防士としてお勤めだったそうですね。就農したきっかけは何だったのでしょう。
三枝:消防士として9年働いて、体力的なことや育児との両立などを考えた時に、これからも長く消防士としてキャリアを積んでいくべきか、外に出て何かにチャレンジするのかを考えました。そのときに地元・山梨の“ブドウ”が頭に浮かんで、このブドウ畑を継承していきたいと思い、地元の友達と2人で「ブドウを作ろう」ということになったんです。
マイナビ農業:農業にはどのようなイメージがありましたか?
三枝:まず朝が早くて、更に日が沈むまで作業をするというイメージがあったので、体力的にはきついだろうと思っていました。ただ前職が体を使う仕事だったこともあって、その点の不安は一切無かったですね。
マイナビ農業:さすが!
三枝:ただ就農しようと動き出してみると、一筋縄ではいかないなと。消防士として働きながら農地を探したんですが、地元で知り合いもいるはずなのに、結局農地が見つからなくて。未経験者が農地を借りるのは現実的ではないんだと実感しました。
マイナビ農業:そこからどのように雇用就農の道を選んだのですか?
三枝:独立就農を目指して農地を探しているなかで、農業関係者の方から「最初から独立するんじゃなくて、こういうところで一度、勉強しに行ったらどうかな?」と言われて。それが今勤めているアグベルでした。以前からメディアなどで目にしていて存在は知っていましたので、面接してみようと思いました。
マイナビ農業:入社時にも独立の気持ちはありましたか。
三枝:代表の丸山と話をしていくうちに、独立のことは考えなくなりましたね。もともと「地元の課題解消に貢献したい」という気持ちがあったのですが、法人として携われるなら、個人でやるよりも実現までのスピードが違うだろうと思い、視点が変わりました。
就農前後のギャップはあった?
マイナビ農業:未農業法人に入社して、まずどんなことから始めるのですか?
三枝:ブドウは5~9月末までが収穫で繁忙期です。入社したのが4月だったので、ちょうど繁忙期前でした。その時は、朝6時頃から農作業を始めて、途中で何度か休憩しながら18時で終わり。この時期はやることが毎日ほぼ違いました。最初は道具の使い方から教えてもらいました。
マイナビ農業:どのように教わるのですか。
三枝:まずは、を読み込んで、教科書を見ながら実践します。教科書通りにいかないことも出てくるので、そういう時は、長年ブドウを栽培している丸山代表のおじいさま、おばあさまに都度聞きにいきます。
農家の技術はだいたい明文化されていませんが、私たちでは会社が大きくなるに当たって明文化・マニュアル化が必要だと考え、今年はいろいろ作りました。来年以降は解説動画のようなものを作りたいと思っています。
私が入社した当時より、社員教育はパワーアップしていますよ!
マイナビ農業:実際に農業をされてみて、入社前のイメージとのギャップはありましたか。
三枝:天候に左右されることですね。分かっていたつもりでも「ここまで左右されるのか!」と。作業が間に合っていなければ雨でも作業しなければならず、長時間雨のなか作業するのはちょっと削られます。
また、思っていた以上に高齢化が進んでいることも衝撃的でした。“最近は、若い人も農業に興味を持っている”という情報を見聞きしていたのですが、 いざ農業界に入ってみるとそれほどではなくて。高齢化も後継者問題もかなり深刻だと思います。
雇用就農のキャリアアップのかたち
マイナビ農業:三枝さんは現在、マネージャーとして活躍されているそうですね。
三枝:今年からマネージャーになりました。アグベルの場合は個別にエリアを担当して、生産のKPI管理や従業員のマネジメントなどを任されます。また畑を増やす際の最終決済は代表が行いますが、提案や近隣の人とのやりとりはマネージャーの仕事でもあります。
マイナビ農業:担当エリアの農業経営を任されている感じですね!大変な部分はありますか。
三枝:スタッフのオペレーションには苦労していますね。前職でも「人をまとめて、動かす」ことがベースでしたらから、人を動かすことに関して苦手意識はありませんでした。ただ、今はアルバイトがたくさん居て(編集部注:同社の期間アルバイトは100人 )、畑も点在しています。そこが大変ですが、私自身は楽しんでやっています。
マイナビ農業:農業未経験から転職して、今はマネージャーとしてキャリアを積んでいる三枝さんですが、雇用就農でキャリアアップは出来ると実感されていますか?
三枝:はい。アグベルは栽培面積が大きいということもあって、ブドウに触れる機会が本当に多く、ワンシーズンで自分が大きく成長していることを感じられます。独立就農を選んでいたら、今のスピード感で栽培技術や管理を学べていなかったと思います。
あとは、個人事業だといろいろな経営リスクも背負っていかなければならないので、栽培や管理に集中しきれないと思います。やっぱり私はブドウを育てるのが好きなので、とにかくたくさんブドウに触れて、楽しく農業を学べる今の環境があっていると思います。
マイナビ農業:では最後に、三枝さんの今後の目標を教えてください。
三枝:高齢者が少しでも長く農業を続けられるような仕組みを作れないかと思っています。農業法人として若いメンバーを抱えていますし、何か地元の力になれないかと常々考えています。自分たちだけじゃなくて地域の人が幸せになるような農業が、この山梨県で続けていけたらなと思います。
(編集協力:三坂輝プロダクション)