三井住友トラスト・資産のミライ研究所は10月3日、2024年1月に実施したアンケート調査を基に「住宅ローンの繰上返済」について分析した結果をレポートとして公表した。調査は2024年1月、関連業種(金融、調査、マスコミ、広告)従事者を除く全国の18~69歳10,948名を対象にインターネットで行われた。

直近10年で、住宅ローンの繰上返済の取り組み姿勢に変化

住宅ローンを借り入れた時期別に「繰上返済をしたことがあるか否か」について尋ねた結果が図表1。住宅ローンを借り入れた時期が1993年以前では64.4%、1994年~2003年では65.2%が繰上返済をしたことがあるという結果となった。一方で、2004年~2013年→2014年~2023年と借入時期が令和に近づくにつれて、「繰上返済をしたことがある」の割合が徐々に減少していることが分かった。

  • 【図表1】住宅ローンの繰上返済経験有無(住宅ローン借入時期別)

ただし図表1だけでは、借入期間が長くなるほど、結果的に繰上返済をしたことがある人も増える、とも読める。そこでさらに、住宅ローンの繰上返済をどのタイミングで行ったかについても複数回答可にて尋ねたところ、図表2の結果となった。住宅ローンを借り入れてから10年前後に目を向けると、1993年以前の借入れでは29.1%、1994年~2003年では34.5%、2004年~2013年では27.8%と、繰上返済をするピークがあり、その後は徐々に減少する"クジラ型"である一方で、2014年~2023年の借入れをみると、10年前後には大きなピークのない"ヒラメ型"であり、繰上返済に対する取り組み姿勢の明確な変化が伺える。

  • 【図表2】住宅ローンの繰上返済時期(住宅ローン借入時期別)

住宅ローンの繰上返済をする理由、「早く返したい」から「資産形成のため」へ

次に、住宅ローンの繰上返済をした理由について聞いた。理由として、(1)"利息を減らしたい"や"返済期間を短縮したい"、"当初の返済スケジュールよりも効率的に減らしたい"といった「早期返済起点」の理由、(2)"「住宅ローン」の心理的負担から早めに解放されたい"、"できるだけ早めに完済し、自身の完全所有物にしたい"といった「心理的起点」の理由は、足元10年(住宅ローンの借入時期:2014年~2023年)で大きく減少していることが分かった。

一方で、「できるだけ早めに完済し、資産運用に充てる資金を増やしたかったから」の選択割合が増加しており、住宅ローンの返済と資産形成の両立を意識している層が増加していることが結果から伺えた。

  • 【図表3】住宅ローンの繰上返済をした理由(住宅ローン借入時期別/複数回答可)

「計画的な」繰上返済は、ファイナンシャル・ウェルビーイング度向上に寄与

住宅ローンの繰上返済をすることで、毎月の返済額が減少する(もしくはなくなる)、借入期間が短縮される、将来支払う予定であった利息額が減少するなどの効用が生じることが考えられる。では、これらはファイナンシャル・ウェルビーイング度向上に寄与するのか。(ファイナンシャル・ウェルビーイングとは、自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態を指す)

繰上返済経験の有無別にファイナンシャル・ウェルビーイング度を確認したところ、「繰上返済経験あり」では「高い」が16.9%、「繰上返済経験なし」では「高い」が10.3%と、前者の方が「ファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い」人が多いことが分かった。

  • 【図表4】ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布(繰上返済経験の有無別)

では、繰上返済を行ってなるべく早めに返済してしまうことがファイナンシャル・ウェルビーイングの観点からは取るべき選択肢なのか。

先ほどの図表4に、「将来の生活設計・資金計画についての検討の有無」を組み合わせて確認したところ、図表5の結果となった。

  • 【図表5】ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布(「繰上返済経験の有無」×「将来の生活設計・資金計画の検討有無」別)

将来の生活設計・資金計画の検討有無、いわゆるライフプラン・マネープランの検討状況を勘案すると、ファイナンシャル・ウェルビーイング度が高い人の割合は、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」では13.2%となっており、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画あり(20.7%)」だけでなく「繰上返済経験なし×将来の生活設計・資金計画あり(16.1%)」よりも劣後する結果に。

実際に、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画あり」の人と「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」の人の繰上返済理由を確認したところ差があり、差が大きい項目としては、前者は「外部環境」「返済原資」「他目的」起点の客観的な理由、後者は「早期返済」「心理的」起点といった主観的な理由があげられた。

  • 【図表6】住宅ローンの繰上返済をした理由(複数回答可)

さらに、住宅ローン返済の負担感や資産形成との両立状況について確認をしたところ図表7・8の結果となった。

  • 【図表7】住宅ローン返済の負担感(「繰上返済経験の有無」×「将来の生活設計・資金計画の検討有無」別)

  • 【図表8】住宅ローン返済と資産形成の両立について(「繰上返済経験の有無」×「将来の生活設計・資金計画の検討有無」別)

ファイナンシャル・ウェルビーイング度の分布と同様、「繰上返済経験あり×将来の生活設計・資金計画なし」では、住宅ローン返済を負担に感じる方が多く、資産形成と両立のできている人は少ないことが分かった。

調査を受けて、同研究所では以下のようにコメントをしている。

「繰上返済を行うことで、返済の負担感や将来支払う利息額の減少が期待できる。一方で、手元資金は減ってしまうので、繰上返済後に、例えば子どもへ結婚費用を援助したい、などまとまった資金が必要となるイベントを想定している場合には慎重な検討が必要となる。

またそうでなくとも、趣味への支出、けがや病気といった万が一への備えや自宅の維持管理・修繕費といった費用など、支出として見込まれるものが想定されるはず。繰上返済に回したお金は、当然ながら取り戻すことはできないため、『ライフプラン・マネープランの確認』と『繰上返済をすべきか否かの判断』をする二刀流の姿勢が大切だといえる。