NTTデータ経営研究所は10月1日、「マイナス金利解除が与える消費者影響に関する意識調査」の結果を発表した。調査は2024年7月1日~7月2日、18歳以上の男女1,043人を対象にインターネットで行われた。

  • マイナス金利解除が与える消費者影響に関する意識調査

調査背景

日本では2016年2月に開始した「マイナス金利政策」により、8年以上にわたり政策金利がマイナスの状態だった。しかし、2024年3月19日に開催された金融政策決定会合で、同政策の解除および金利の引き上げが決定された。これに伴い、2024年度上半期には国内各金融機関が預金金利や住宅ローン金利の引き上げに踏み切る動きが活発化している。

  • 無担保コールレート推移

金利が上昇局面では、融資による金利収益、いわゆる利ザヤが拡大し、預金獲得の動きが一層活発化すると予想される。米国では、すでにゴールドマン・サックス社やApple社が高金利の貯蓄預金口座を提供し、顧客獲得を狙う動きが見られる。一方、日本では一部の地域金融機関がネット専業銀行を設立しているものの、大きな金利差は確認できない。さらに昨年に発生したシリコンバレーバンクの破綻では、ネット銀行は信用不安に直面すると資金退避が急速に進むことが明らかになった。このため、金融機関は預金獲得の「攻め」と「守り」を両立することが課題となっている。しかし、日本の金融機関は預金獲得の重要性は理解しつつも、具体策の策定と実行に課題を抱えている。

本調査では、銀行などの金融機関が金利上昇の影響を見極め、必要となる戦略の変換を具体的に考える契機づくりを目的とし、マイナス金利解除の影響についてのアンケート調査を用いて検証を行った。

預金金利の高さは、取引金融機関を選ぶ重要な基準の1つであると認識されている

普段利用している金融機関から他の銀行に預貯金の預け替えを検討する際、最も重視する点を問うアンケートを行った結果、2割以上の回答者が「預金金利の高さ」を挙げた。同選択肢は「自宅・職場に近い」に次いで2番目に多い回答となりました。年齢別に見ても、18~29歳を除いた、いずれの年齢層でも約2割前後の回答を得ており、年代を問わず預金金利が金融機関選択の重要要素であることが明らかになった。

  • 他の銀行に預貯金の預け替えを検討する際に重視する点(世代別)

18~29歳では、同選択肢は3番目に多い回答だが、その回答者割合は他年代比でやや低くなっている。同年代の特徴として「経営が安定している」という選択肢を選んだ回答者が半数近くに達しており、経営の安定性を重視する傾向が見られた。若い世代は資産形成の途上にあり、相対的に金利のメリットを享受しにくいことなども影響していると考えられる。また、海外での金融機関の破綻や国内での金融機関の合併が進む中、若い世代は金融機関選びに対して慎重になっている可能性も考えらる。その他の傾向として、若い世代は「ATMや振込手数料の安さ」を、高齢になるほど「自宅・職場からの近さ」を重視する傾向が見られた。

普通預金金利が0.25%の場合、2割を超える預金者が預貯金の預け替えを検討する

「普段利用する金融機関から他の銀行への預貯金の預け替えを検討する際に、預金金利の高さを重視する」と回答した人(343人)を対象に、「他行の普通預金金利が何%であれば預貯金の預け替えを検討するか」を調査した。

他の金融機関の普通預金金利が1.0%以上であれば、65.0%が「他の金融機関への預貯金の預け替えを検討する」と回答した。また、他の金融機関の普通預金金利が0.25%であっても、21.0%が預貯金の預け替えを検討すると回答した。

  • 預貯金の預け替えを検討する普通預金金利

預貯金を預け替える金額に関しても併せて調査したところ、「普通預金金利が0.1%~0.5%未満の金融機関があれば預貯金の預け替えを検討する」と回答した人の預け替え平均額は579万円以上であり、「普通預金金利が2.0%以上の金融機関があれば預貯金の預け替えを検討する」と回答した人の預け替え平均額は403万円以上だった。

預貯金の預け替えを検討する普通預金金利が低い人ほど、預け替えを行う金額も大きい傾向が見られた。金利感応度が高い人は金融リテラシーも高く、預け替えの検討対象となる金融資産を多く保有していると考えられる。

  • 預貯金の預け替えを検討する金額

住宅ローン返済額が2割増加すると、2割の人が返済できなくなる可能性がある

「住宅ローンの残高がある」と回答した人(95人)を対象に、「毎月の住宅ローン返済額が何%程度増加した場合、家計を見直したとしても住宅ローンの返済ができなくなるか」を調査した。その結果、返済額の増加により「返済できなくなる」と回答した割合の合計は52.6%、「返済できなくなることはない」と回答した割合は47.4%だった。

  • 住宅ローンの返済が困難になる返済増額水準

返済できなくなる増加額を水準別に見ると、現行の返済額から30%~100%程度返済額が増加すると、32.6%の人が返済できなくなると回答した。ただし、多くの人が選択している変動金利型の住宅ローンには、一般的に「5年ルール」や「125%ルール」が適用される。そのため、毎月の住宅ローン返済額がこの水準まで増加することは少ないと考えられる。

一方、住宅ローン返済額が20%以下の水準で増額(125%ルールの対象にならない)にとどまった場合、返済できなくなると回答した割合は20.1%だった。家計状況によっては、返済額増加の負担が大きいことが示唆される。特に、最近住宅ローンを借り入れた人や物件価格や地価の高い都市部に住む人は、住宅ローン残高が多く、金利上昇により返済が難しくなる可能性が高くなると推察される。

「5年ルール」などが適用される変動金利型の住宅ローンでは、ローン金利が上昇しても直近5年間の毎月の返済額への影響は小さくなる。しかし、負担を後ろ倒しにしているだけであるため、住宅ローンの貸し倒れリスクが顕在化する可能性には注視する必要がある。