新規就農では農地が見つからない

田中惠清(たなか・けいしん)さんはもともと、滋賀県出身。高校を卒業後は就職予定でした。しかし足のケガで1年間リハビリ中心の生活を送ることに。その間「自分が本当にやりたいことは何だろう」と考え、もともと興味のあった農業を志します。「果物が好きだった」という理由で、果樹を選びました。

父親の実家が青森県で、畜産や野菜の栽培をしていたこともあり、趣味で家庭菜園に取り組んでいたという田中さん。しかし本格的に農業を勉強したことも無ければ、実家が農家だったわけでもありません。田中さんは「地元の関係機関に相談しに行きましたが、なかなか農地が見つからなくて。特に果樹は最初にある程度の資金が必要で、未経験で若い自分がいきなり始めるのは難しかったです」と振り返ります。

そこでまずは農家に就職することを決意しました。「果樹栽培が盛んな場所で働こう」と考え、選んだのは山梨県。約1年半、家族経営の観光農園でブドウやモモの栽培を経験しました。その後、栽培方法の違いや経営に興味を持ち、ブドウの生産・販売を行うアグベル株式会社に転職しました。

就農後に感じたギャップ

実際に就農してみて「思ったよりハードだった」という田中さん。「朝が早い分、昼間はゆっくりできて夕方4時頃には帰れるイメージでしたが実際は全然そんなことなくて。割と大変でした(笑)」。

しかし「シーズン中でも週休2日が確保されている」「繁忙期も勤務時間は朝6時〜18時」など、働きやすい環境が整えられており「いち農家として、雇用就農もありだな」と感じたそう。「家族経営の農家で働いていた時は、勤怠管理の意識がそこまでありませんでした。生育状況や天候によって、『いま自分がやらないと終わらない』『いま動けるのは自分しかいない』と、長時間労働や休日出勤もせざるを得ない状況で。そういった曖昧な部分がなくなった点は良かったです」
また、経営的な視点での学びが多かったと言います。例えば、アプリを使って畑ごとに数値目標を管理したり、働く人をマネジメントしたり。

更に、モモの輸出の業務にも携わりました。「毎日莫大な量を輸出していても、さばけてしまうのはすごい衝撃でした」と山田さん。個人農家・農業法人の2つに勤務したことで、規模の違いを肌で感じることができたと振り返ります。

「自分が就農当初に立てた目標よりも、もっとスケールが大きいことをしたいと考えるようになりました。そのためには独立して一人でやるよりも、農業法人の社員として働いた方が、最終的にはもっと面白いことができるんじゃないかと思ったんです。自分の中での一番の変化でしたね」。

独立就農に向けて

農業法人へ転職してから1年。現在、田中さんは独立の準備中です。滋賀県に戻ってブドウ農家として新規就農し、2025年3月から苗の植え付けを始める計画も立てています。

現在所属している農業法人の代表にも相談しながら、個人事業主の傍ら、農業法人の関西拠点のマネージャーとして働くことも考えているそう 。「僕としては販路を確保できますし、法人は国内の規模拡大がスムーズに進められるメリットがあると思います。山梨で学んできたことを最大限生かした品質のものを作ること、いち社員として会社の目標である規模拡大に貢献すること、この2つがこれからの僕の目標です」。

農業は、やり方ひとつで大きな可能性が開ける。そのことに気づけたのは雇用就農を経験したからこそ。これから田中さんの新たなチャレンジが始まります。

補助金を有効活用して自分らしい農業を

最後に、「農業をやってみたい」と考えている人に向けてアドバイスを聞くと、「補助金を有効活用すると良い」と山田さん。

「農業をゼロから始めるとなると、初期費用が小さくありません。県や市などでいろんな補助事業があるので、自分の地域の補助事業を調べたり、自分がやりたい分野に手厚い補助をしている地域を探したりするのも良いと思います」。

田中さんも、独立するときにはさまざまな補助金を利用したそうです。

田中さんが利用した補助金(一例)※2023年〜2024年に活用

​​​名称 内容
工作条件の改善や​​高収益作物への転換、スマート農業の導入などを支援する事業。(例:補助率 国50%、県14%、市13%、自己負担23%)
 優良品目・品種への転換、小規模園地整備など経営基盤強化の取組みを支援する事業。併せて未収益期間の栽培管理経費の支援も受けられる。
就農後の経営発展のため、都道府県が機械・施設等の導入を支援する場合、都道府県支援分の2倍を国が支援する。都道府県支援分の2倍を国が支援(例:国1/2、県1/4、本人1/4)。

補助金を利用するためには、いくつか条件を満たす必要があります。関係機関に問い合わせるなどして、自分に合ったものを有効活用しましょう。

また、栽培したい作物が決まっている場合、1〜2年はその作物を栽培している農家で経験を積むのも有効だと言います。「栽培のサイクルを2回ほど経験すると、『やっぱり想像と違ったな』というミスマッチを防ぐことができます。数年プロのもとで経験してから、独立を検討するのが良いかもしれません」。

(編集協力:三坂輝プロダクション)