テレビやオーディオ、空気清浄機など家電製品のイメージが強いLG。しかし近年、同社は“ハードウェア”のメーカーから“AI・ソリューション事業”のメーカーへ、大きく舵を切ろうとしています。LGが目指す未来はどんなビジョンなのでしょうか。
今回、LGエレクトロニクス(LG電子)が9月下旬に開催したグローバルプレスツアーに参加。LGツインタワーとして知られる韓国本社や、製品展示スペース「LG Innovation Gallary」といった施設を見学し、最新の注力事業やその背景などを聞きました。
取材協力:LGエレクトロニクス
実は家電だけじゃない、LGエレクトロニクスが手がける多様な事業
LGエレクトロニクスのスタートは1958年。ラッキー・ケミカル・インダストリー・コーポレーションがゴールドスターという名の家電会社を設立したことから始まりました(LGという社名は「ラッキー・ゴールドスター(Lucky Goldstar)」の頭文字から取られています)。
韓国初のラジオ、テレビ、冷蔵庫を製造し、米ゼニスエレクトロニクスの買収などを経てグローバル企業へと成長。日本ではLG電子が手がける“家電”のイメージが強いLGグループですが、韓国では通信事業や化学(製薬)、自動車部品のメーカーとしても知られています。
2023年度、LGエレクトロニクスのグローバル全体での売上高に占めるカテゴリー別の比率は、白物家電を中心とした「Home Appliance & Air Solution」が最も高い36%(30.1兆韓国ウォン、約3兆3200憶円)、次いでテレビやオーディオなど「Home Entertainment」が17%(14.2兆韓国ウォン、約1兆5,700億円)、自動車向けコンポーネントなどの「Vehicle component Solutions」が12%(10.1兆韓国ウォン、約1兆1,200億円)、PCやディスプレイなど「Business Solutions」が6%(5.4兆韓国ウォン、約6,000億円)となっています。ちなみに日本市場におけるLGの売上比率は少し異なり、PCやディスプレイといったビジネスソリューションに分類される商品が最も高いとのこと。
なおLGと規模が近い日本の家電メーカーとしては、2023年度の連結売上高が8兆4,964億円のパナソニックが挙げられます。パナソニックも国内家電は安定収益源と位置付けながら、空調事業や車載電池、サプライチェーン管理といった法人向け事業を成長事業とみなす施策を展開しています。
家電事業を超えたスマート・ライフ・ソリューション・カンパニーへ
LGは今回、家電事業が今後も“屋台骨”たる大事な事業であるとしたうえで、AI技術を中心とした「スマート・ライフ・ソリューション・カンパニー」へ転換するという、新しい未来の姿を改めて示しました。
この方針は2023年7月にアナウンスしていたもので、“快適な生活を提供するための幅広いビジネス”、具体的にはコアとなるAI技術や、webOSサービスなどプラットフォームベースのサービス事業、HVAC(空調事業)や工場のスマート化支援などBtoB事業への注力、モビリティやデジタルヘルスケアなど新規事業への重点的な取り組みが示されました。
このため2030年までに50兆韓国ウォン(約5兆5,400億円)以上を投資し、LGエレクトロニクス全体で2022年に65兆ウォン(約7兆2,100億円)だった売上高を、2030年に100兆ウォン(約11兆円)へ引き上げることを目指すといいます。
コンシューマー向けの家電事業もいまだ高い売上を保持していながら、事業を主にBtoB向けへ転換する理由は、ユーザーの生活や業界の変化に合わせ「顧客の体験」や「事業の質的成長」を重視するためとのこと。例えばAIを組み込んだ家電の拡充により新たなビジネスモデルを提供するなどして、より高いレベルへ事業を引き上げるといいます。
対企業のビジネスを成長領域に
例えば注力事業の一つである空調では、LGは小規模住宅向けから大規模商業施設向けまで幅広いソリューションを、自社工場による製造で提供しています。空調事業は各地域の状況に沿ったカスタマイズが必要となる市場ですが、その反面グローバル全体を大手メーカーが寡占する状態はないため、食い込む余地があるといいます。
LGでは研究開発を進めたり、競争力のある価格帯のモデルを導入したりして競合と戦っていくとともに、同社のコア技術を活用した効率的なソリューションを提供したいとしています。また、空調関連の技術者を育成するための教育機関を各地域に設立するといった人材投資も行う考えです。
法人向けビジネスでは、製造業の企業に向けた、工場のスマート化を支援する技術やサービスの提供を今後の成長領域に位置づけています。このスマートファクトリー事業を検討し始めたのは2024年に入ってからだといい、事業化してのち約6カ月で、すでに契約額は1兆9,000億ウォン(約2,100億円)を超え、2024年末にはさらに増加する見込みだといいます。
これまでは社内工場のスマート化や製造効率化が中心でしたが、今後は外部顧客を対象とした製造ソリューションパッケージの販売に注力していくとのこと。長年にわたるスマートファクトリー事業の蓄積を強みとして、顧客の競争力強化や人手不足の解消などを支援していく予定です。
このほか新規事業の1つとして、同社が高い成長を見込んでいるEV充電事業も紹介されました。2023年にスタートしたLGのEV充電事業は、充電器の販売だけでなく、専用ソフトウェアを含む統合ソリューションで提供中。韓国と米国(テキサス州)で工場が稼働しており、米国で生産した製品は北米市場に提供、2024年中にヨーロッパでも事業を開始する予定だといいます。
「LGとは何か?」を伝える施策を強化。若年層にもフォーカス
事業の拡充にあわせ、ブランドイメージ戦略も刷新し、「快適な生活を実感できる体験を提供する」ことを伝えるためのCMも提供します。
例えば自動車メーカーのボルボは「安全」、スポーツ関連商品を手掛けるナイキは「チャレンジ精神」といったように、企業と紐づいた明確なイメージを確立しています。ではLGは何か? ――を伝えるため、ブランド理念である「Life's Good」を全面に打ち出し、製品やロゴに頼らず、LGが提供する「よりよい生活」や「快適な生活」を感じられる内容の動画を、SNSなどで展開し始めています。
同社は若い顧客(特に10代・20代)を将来の購買層として重要な存在と位置付け、若年層が“ファン”となりLGをお気に入りのブランドとするための戦略を実施。LGによると、若者はブランドを選ぶにあたり、特にその背景やストーリーを重視するといいます。とはいえ同社は2021年にモバイル(携帯電話)事業から撤退しており、若年層との接点は少ない状態です。
そこで若い世代とコミュニケーションを取るために、LGではTikTokやInstagram、YouTubeなどを中心としたデジタル空間に注目。多くの国からインフルエンサーを募り、ユーザーのSNSフィードにポジティブなコンテンツを表示させるプレイリストを創る「Optimism Your Feed」というプロジェクトを始めました。人生の楽しさをインフルエンサーが独自の方法で紹介していく一連のショート動画集で、LGが目指す「Life's Good」のブランド認知を高める施策の一環だとしています。