“農業はやめとけ”と言われる5つの理由

農業は作物を育てるだけが仕事ではありません。作物の販路の開拓や、除草や耕運などの畑の管理といった業務が不可欠です。加えて独立での就農は、自営業者が陥りやすい過重労働など、いわゆる“セルフブラック”になりやすい環境であることも事実。さまざまな要因を加味しつつ、「農業はやめとけ」と言われる5つの理由について紹介します。

収入の不安定さ

農業は安定した収入を確保するのが難しい職業の一つです。気候の影響を強く受ける農業では、想定している量が毎回取れるとは限りません。収量が下がれば収入減に直結します。また、豊作であっても、市場価格が下落している場合は出荷するのに必要な経費の方が高くなることもあるため、泣く泣く廃棄することも。
収入を安定させるには、営農戦略をしっかり考えることが重要です。6次産業化(生産・加工・流通・販売)で作物の付加価値を高めたり、契約栽培などで市場価格に左右されない売り先を確保したりするなど、工夫が必要です。

体が資本の労働環境

農業は健康な体ありきの仕事です。農作業自体が高負荷なだけでなく、作物の生育から目を離せず、毎日面倒を見なければならないため、週休2日のような決まった休みがありません。作物の管理や収穫、出荷ができなければ収入が発生しないので、ケガや病気のリスクが非常に高い職業です。
これらの負担やリスクを軽減するため、国はスマート農業の推進などに注力しています。実家が農家でなくても、農業を始めやすい環境に近づきつつあるでしょう。

初期投資費用の高さ

農業を始める際は、農地の借り入れや設備の導入、資材の購入などに費用がかかります。たとえば、ビニールハウスを10アールの規模で導入した場合には、おおよそ800〜1200万円かかります。一方、全国新規就農相談センターの2021年度の調査によると「新規就農するときに用意した金額」は、平均450万円であることが判明しています。
これらのデータからも分かるとおり、農業を始めるには元手をためておくことが不可欠です。また、国でも就農準備資金や青年等就農資金といった支援を提供しているので、活用しましょう。支援制度については、以下の記事で紹介しているので参考にしてみてください。

気候変動による影響

気候変動による影響は、新規就農者のみならず全農家が抱えるリスクです。近年、天候の予測は困難になっており、農業経営に大きな不確実性をもたらしています。順調に生育していた作物であっても、急な豪雨や干ばつなどにより品質が低下し、出荷できないことがあります。経験が浅く資金力も低い新規就農者は、予期せぬ気候変動に手の打ちようがないことも。ですが、最新の技術や対策法を積極的に学ぶことで、リスクを抑える手立てを講じられるかもしれません。過去の事象や事例、統計データなどについても調べておくと役に立つでしょう。

地域コミュニティーとの関わり

地域コミュニティーとの関わりに苦手意識を持つ人は、営農する上で苦労するかもしれません。農業の技術は発展する一方、農家という職業柄、やはり人とのつながりは大切です。たとえば、農業協同組合はもちろん、消防団などの地元独特のコミュニティーに参加する必要があるでしょう。
人付き合いに苦労することがあるかもしれませんが、横のつながりを広げられることにはメリットもあります。一例としては、農地を貸してくれたり出荷先を紹介してくれたりすることなどが挙げられます。周囲の人々と良好な関係を築けるスキルは、収益を高めることにもつながるでしょう。

農業はやめとけと言われたときの対処法

農業を始めるにあたって周りの人から「農業はやめとけ」と、アドバイスを受けることがあります。これは心配の気持ちからくる、優しさの表れかもしれません。しかし、最終的な決断は自分で下す必要があります。そのため、農業を始める前には自分自身であらゆる情報を収集し、慎重に検討することが重要です。

農家さんに直接話を聞く

情報収集する際にまず優先したいことが、現役農家さんから話を聞くことです。できれば就農する地域(地元もしくは移住先)の農家さんに会うことが望ましいでしょう。テレビやメディアでは知ることができない1次情報が手に入ります。
農家さんに連絡を取って話を聞くのはハードルが高いと感じる人は、マイナビ農業が主催する「農林水産FEST」をチェックしてみてください。現役農家さんが初心者向けに農業のリアルな内情を伝えてくれます。

農業で実現したい目標を明確にする

農業を個人で始める場合にも、企業などが理念として掲げる「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を定めることは、営農する上での指針となります。
ミッション・ビジョン・バリューとは、自身の「使命・未来像・価値観」を明確化して周りへ伝える一つの手段。項目ごとの例を紹介するので、策定する際に参考にしてみてください。

ミッション(使命)
安全で新鮮な野菜を提供し、食と農を次世代につなぐ架け橋になる
ビジョン(未来像)
地域で最も信頼される野菜生産者になる
バリュー(価値観)
従来の慣習にとらわれず、新しいアイデアを積極的に取り入れる

このように、目標を明確にすることは、周囲の人に信頼感を与え、自身が活動する根源にもなるのです。

農業白書などの資料や統計データを調べる

農林水産省では毎年、農業にまつわる出来事を取りまとめた資料「食料・農業・農村白書(農業白書)」を公開しています。2023年度の農業白書では、次のような情報を知ることができます。

新規就農者への支援策

スマート農業の推進状況

農地バンクの活用促進

事実に基づいたデータや資料をチェックして業界の動向を把握することは、農業を始めるときの判断に役立ちます。
また、農業白書の内容を分かりやすくまとめた記事もありますので、あわせてチェックしてみてください。

農業はやめとけと言われがちな人の特徴3選

「この人は農業をやっていけなそうだな……」と感じられると「農業はやめとけ」と言われることが多いかもしれません。農業を始めるときに「やめとけ」と言われる人の特徴を挙げてみます。

実家が農家じゃない人

農業を始めるには、実家が農家でないと難しいと一般的に思われています。それもそのはず、栽培に関するノウハウや農地、機械などがない“まっさら”な状態から始めなければならないからです。親、もしくは親戚に農家がいれば、融通が利きやすいのも事実。国はそのような事情に悩む人の相談窓口として、を運営しています。同センターでは、就農にまつわるさまざまな支援策を提供しています。実家が農家でないことに悩んでいるなら、一度相談してみるのもいいでしょう。

スローライフに憧れている人

農業に対する理想と現実は、大きなギャップをもたらします。「野菜を作って自分の好きなように生活する」というスローライフを願う人は、厳しい現実を目の当たりにするでしょう。実際問題、農業の業務のイメージと現実の相違は、新規就農者が離農する理由の一つとしても挙げられています。
「野菜を作って自分の好きなように生活する」ことはもちろんできますが、農作業はハードであり、野菜に合わせて生活する必要があることを認識しておきましょう。

農業に一度も携わったことがない人

農業に一度も携わったことがない場合、すぐに農家として独立するのはおすすめしません。一度は自分でどのような作業や苦労があるのかを体験してから、決める方がいいでしょう。農業とひとくくりになっているものの、栽培する作物一つとっても、労働負担や収益の見通しは異なります。新規就農して独立するなら、次に紹介する対策案を参考にして、今の自分にとってベストな手段を選んでみてください。

農業を始めてから後悔しないための対策案

新規就農する前には、自分の体で農業を体験しながら学びましょう。その後、本当に独立して農業すべきかを考えるのでも遅くありません。ここでは就農希望の人が農業を学ぶすべについてお伝えします。

農業バイトをする

農業を最も手軽に体験できるのは、農業バイトです。昨今の農業バイトは、単発や短期間での募集もあるため、空いた時間を利用して働くこともできます。農家も人手が欲しいタイミングはさまざまなため、双方にとってメリットのある雇用形態と言えるでしょう。もちろん、曜日と時間を定めた週勤務での働き手を募集していることもあります。とりあえず農業を体験してみたい人には、バイトがおすすめです。
農業バイトを探すときは、完全無料で利用できるバイトマッチングアプリ「(ノウマーズ)」も活用してみてください。

農業学校に入学する

新規就農する前に農業学校へ入学するのも一つの手段です。農業学校には大きく分けて、「農業大学」と「農業大学校」が存在します。農業大学はいわゆる4年生の大学や大学院を指すのに対し、農業大学校は“農業の専門学校”となります。
農業大学校は入学のハードルが低いことに加え、栽培技術から経営ノウハウまで実践的な内容を学べることが魅力です。2024年9月時点では、全国41道府県に農業大学校が設置されています。年齢制限もなく同期の仲間を作れるため、おのずとコミュニティーの輪も広がることでしょう。

農業大学校の詳細については、こちらをチェックしてみてください。

農業研修を受ける

農業研修とは、農家や農業法人が就農希望者を募集し、営農にまつわる知識や技術を教える研修プログラムです。農業大学校とは異なり、現役農家の下で直接指導を受けられるのが特徴です。研修期間は、数カ月から1〜2年と幅広く、実践的なスキルを集中的に学べます。作物の栽培技術はもちろん、農業経営のノウハウも習得可能。
研修先の地域の気候や土壌に適した農法を学べることから、その地域での就農を考えている人にもおすすめです。研修を通じて、農業の現実や自身の適性を見極められるのも大きなメリットになるでしょう。

農業法人に就職する

独立就農を目指している人のキャリア形成にも役立つのが、農業法人への就職です。農業法人はいわば、企業としての体制が整えられた大規模な農家です。一般企業の会社員と同様の待遇で働きながら、農業スキルを身につけられます。企業として成り立つ経営を目の当たりにできる、貴重な場にもなります。
農業法人に応募する際は、独立就農を目指していることを伝えておくといいでしょう。採用のミスマッチを防ぐことができます。独立後も長期的な関係を築くことができれば、ともに農業を発展させていくことも夢ではありません。

地域おこし協力隊になる

ここまでの対策とは違ったアプローチとなるのが、地域おこし協力隊への参加です。地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化などの課題を抱えた地域に移住して、持続可能な地域社会を支援する取り組みです。最長3年間の活動期間が設けられており、地域農業を深く理解しながら、就農への基盤を築けます。就農目的の一つに地方の活性化があるなら、地域おこし協力隊への参加はうってつけの選択肢となるでしょう。
また、地域おこし協力隊には2泊3日のおためしプランや、2週間〜3カ月間のインターンプランが用意されており、地方創生に関心がある人の参加も受け付けています。

農業にチャレンジしたいと思っているときが始めるチャンス

農業はやめとけと周りから言われている場合でも、最終的に決めるのは自分です。農業への参入といっても、独立して就農するのみではありません。昨今は雇用就農する人口も増加しつつあります。今の自分の状況に合わせて、始めやすいところからチャレンジしてみましょう。