札幌に在住する筆者の本格的な自転車歴は8年くらい。現在もMTB、ファットバイク、シングルギアと様々な自転車カルチャーにアプローチし、2020年より旅を目的としてグラベルロードバイクに乗りはじめる。現在も旅と冒険をテーマに活動を続行中だ。

そんな筆者が9月22日に開催された「ニセコグラベル」に参戦したので、その模様を紹介したい。

ニセコはウインタースポーツだけではない

北海道ニセコ町と言えば、スキーやスノーボードで極上のパウダースノーを味わえることが有名で、国内外で広く知られるエリアだ。しかし、ここ数年グラベルロードバイクの利用者が増えたことで、サイクリングエリアとしての価値が急速に高まっている地域でもある。

同地域で開催されるライドイベント「ニセコグラベル」においても例外ではなく、スプリングライドを含め今回で8回目の開催となる「オータムライド2024」には、過去最高の640名が出走することとなった。

そのうちの1人が筆者なのだ。

気候はすでに秋の訪れを強く感じさせる

会場到着時間は早朝の5時半。天候は曇りで車載の外気温度計は6℃を示しており、いつ霜が降りてもてもおかしくはない。北海道外からの参加者は早朝の冷え込みに驚いたことだろう。

そんな中、全国から640名のグラベルバイカー達がここニセコ町に集結し、寒さをものともせずに熱いライドを繰り広げるのである。

走行するコースは体力とスキルに応じて、「IKEUCHI GROUPミドルコース 69,5km/±1,195m」、「SHIMANO GRX ロングコース100Km/±1,834m」、「PAS Exロングコース125,1Km/±2,311m」の3コースが用意され、ゴール時間はすべて16時と共通なので、走行距離の長いクラスから順にスタートする。

本大会の概要について少し説明しておく

ニセコグラベルはレースではない。サイクリングを通して豊かな自然や景色を楽しむライドイベントであり、スタート及びゴール地点以外に交通規制はなく一般道と私道を利用してのライドとなるのが特徴。

コースには30%〜50%のグラベルロード区間(未舗装路)が含まれ、高低差はコースごとに±1,195m〜±2,311mであり、ある意味、山岳サイクリングと言ってもいいだろう。

林道を含め私有地と一般道の走行となるため、交通規則に従い安全に走行することが大前提となる。

また使用する自転車の管理は自己責任で行い、トラブル(パンクや故障)にも自分で修理対応しなくてはならない。

  • ロングコーススタートの約1時間前 変速機のチェックやタイヤの空気圧、装備のチェックに余念がない、みんな無事に100kmを完走して笑顔で帰ってきてほしい

なお、会場にはオフィシャルパートナーのPanaracerやSHIMANOの出展ブース、CANNONDALE、RIDLEYの自転車展示のほかアウトドア用品の販売やフード、ドリンクのキッチンカーも出店しているので買い物や食を楽しむことができる。

  • IKEUCHI GROUPのブースではアウトドアアパレル、雑貨の販売のほか参加賞の引換所も兼ねる。写真中央の白いロンTが今回の参加賞 北海道らしくて素敵なデザインに仕上がっていて、お気に入りの一着になりそうだ

最新のグラベルバイクを展示しているRIDLEY メーカーのアンバサダーもエントリーし出走する。ニセコグラベルでのライドを、心から楽しもうという気持ちが表情からみてとれる

SHIMANO GRX Long Courseがスタート

  • 寒さを感じさせない熱量と気迫でスタート! この勇姿をみてこのあとスタートを控えている筆者もテンションが爆上がりだ

ミドルコースはスタート時間が9:00なので7時間で69,5kmを走り切ればよいのだが、侮ってはいけない。注目すべきポイントは距離ではなく、±1,195mという高低差だ。

筆者は今年の6月に札幌から洞爺湖までの区間で中山峠(約825m)を越えたのが自己の最高記録(1日の走行距離100km高低差±1,180m)で、今回、走行距離は短いものの未舗装路(グラベル)での獲得標高1,195mは未知の領域であることに間違いはない。

個性的なカスタムを施された自慢のグラベルバイクやマウンテンバイクがズラリと並ぶ

ファンライドを目的とした参加者が多いのもミドルコースの特徴といえるだろう。

ハンドル形状やカスタムパーツ、タイヤの種類、タイヤの空気圧に至るまで様々な情報交換ができるのもカスタム好きにとってはメリットが大きい。

9:00 IKEUCHI GROUP Middle Courseスタート

地図データによるとスタートから約16km地点でグラベル山岳区間に入り標高378mまで登り坂が続く。

ロングコースに比べると時間的にも余裕があり、初めて出会った人との交流や仲間の笑顔が不安な気持ちを和らげてくれ、みんなでワイワイ楽しむ雰囲気で走れるのもミドルコースの良いところだろう。

  • ミドルコースには200人以上がエントリーしており、クラスで最も出走者数が多く人気のコースとなっている

この後、この日最大の上り坂となる山岳グラベルに突入するが、その前にエイド(休憩場所)で水分補給とエネルギーの補給をおこなう。

エイドで出される食べ物は地元特産の果物や菓子、かまぼこ、地元でとれた米を使ったおにぎりなどが振る舞われるが、実においしく、このイベントならでは。ライド中はお腹いっぱいにして走ることが難しいので、エネルギー補給はジェルや顆粒のアミノ酸などに頼りがちだ。

少量だがエイドで食べる固形物は空腹感を満たすには十分だった。ミドルコースにはエイドが3箇所設置されており、最後のエイドで食べたおにぎりは格別で米から沁み渡るエネルギーをこれほど感じたのは初めての経験だったと言える。

エイドでの補給が終わると、いよいよ本日の核心部である山岳グラベル(Rhythm Gravel 12km)に突入だ。

このグラベル区間は単純計算しても登りが約6km弱 平均値は不明だが筆者のサイクルコンピュターを見ている限りでは6%から最大13%の勾配が続く。

ギアを軽くして呼吸に集中しながら無心になって登っていく あちらこちらから「キツイィぃ~」と声があがる。

この山だけで終わるなら一気に駆け上がりたいところだが、頂上に到達したところでまだまだ先は長いので、溢れ出ようとするアドレナリンをおさえながら、無理せずゆっくりと標高をあげる。

舗装路とはちがいタイヤはスムーズに転がらない。ここでタイヤの空気圧をどう設定しておくかが完走できるかの明暗を分けることになる。

グラベル区間ではタイヤの空気圧が高すぎると路面への食いつきが悪く、タイヤが空転してしまうこともある。これでは大きなパワーロスと筋肉疲労にもなり激しく消耗してしまう。

逆に空気圧が低すぎると、舗装路区間で大きな抵抗となり体力がどんどん削られてしまう。相反する路面状況を踏まえどう落とし所を見つけるかが鍵だ。

筆者は事前に近所の裏山で何度かのテストを繰り返しベストな空気圧値を導き出し、その甲斐あって、決して楽ではなかったが比較的スムーズに山頂まで登り切ることができた。

この山岳グラベル区間は全コース(クラス)共通ルートなのでPAS Ex Long Course(125km)を走る猛者達のライド間近で見ることができた。

同じ人間とは思えないスピードでまるで平地を走るかのように(ちょっと大袈裟かな)追い越してゆく姿には感動すらおぼえる。そして山頂では何事もなかったかのようなこの笑顔、ほぼノーダメージなのか?

そして我々のグループもなんとか登り終え、笑顔をつくってみた。

登りきった者に与えられる最高のご褒美

今回、初参加の私は普段からお世話になっている自転車店のグループにまぜてもらい一緒にライドさせていただいた。

頂上を超えると当然下りがある 登りきった者に与えられる最高のご褒美だ。約6km続く下りのグラベルロードを想像してみてほしい。日常でそうそう体験できるものではないだろう。

体力を温存するために抑え込んでいた脳内物質が一気放出され、登り坂で聞こえた声色とはあきらかに違う 「ヒャッホゥー!」という声がニセコの森の中に響き渡っていた(声を上げていたのは我々だけかもしれないが)。

舗装路区間では、何キロも続く直線道路(ほとんど信号も無し)を雄大な山々、広大な敷地に広がる畑を眺めながらのライドとなる。

ただ走っているだけで気持ちがいい 本州からきた参加者はさらに新鮮に感じたことだろう。

この後もアップダウンを何度も繰り返し、グラベルと山岳区間を走り抜けた 後半は疲労で少々きつく感じた場面もあったが仲間の笑顔に助けられた。

ゴールまで残り約2km地点からは、攣りそうになっている足を騙し騙し回し続け水をガブ飲みしながら走る。

先に述べていた獲得標高だが、筆者のサイクルコンピューターはすでに1,300mに達しており、自己記録の更新であった(公表値との誤差が若干あった)。

さらにゴールが近づくにつれ少しずつ声援が聞こえ、ゴールゲートでは最後尾を走った私達をスタッフの方々が笑顔とハイタッチで迎えてくれる。アットホームな雰囲気に包まれる 心が熱くなる瞬間だった。

ニセコグラベルは初心者から上級者は勿論のこと、これから自転車を始めたいと思っている人まで幅広く楽しめるイベントといえる。

今回の「ニセコグラベル オータムライド2024」は9月21、22の二日間で開催され、21日は「体力に自信のない方でも気軽に参加できてニセコの雄大な自然を体感することのできる」Sライドツアーも用意されていた。

さらには、会場周辺にはお洒落なカフェや雑貨店なども点在し、お目当てのお店まで景色を楽しみながら、ゆったりとサイクリングするのもお勧めだろう。

メインライドも含めて興味のある方はぜひ来年の参加を検討してみてはいかがだろうか。