相談者は、病院に勤務する36歳の女性。過去の職場でのいじめや実親のお金の無心に苦しめられ、体調も崩し、貯蓄もゼロに。それでも3人のお子さんのために、夫婦でどうライフプランを実現できるか……。

◆子どもたちに同じ思いをさせないためには……?

皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。

今回の相談者は、病院に勤務する36歳の女性。過去の職場でのいじめや実親のお金の無心に苦しめられ、体調も崩し、貯蓄もゼロに。それでも3人のお子さんのために夫婦でどうライフプランを実現できるか……。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。

◇相談者

ピンくんさん(仮名)

女性/会社員/36歳

持ち家・一戸建て

◇家族構成

夫(会社員/37歳)、子ども3人(15歳・12歳・10歳)

◇相談内容

子どもたちも大きくなり、8坪程度の狭小中古物件に住んでいたのですが、残債を抱えて28坪のリフォーム済み中古物件を諸費用等フルローン3070万円で購入しました。変動金利(1.0%)35年、ボーナス払いなしです。

現在は准看護師としてクリニック勤めをしていますが、それ以前に勤務していた病院で酷いいじめやパワハラを受け、精神的に追い込まれ一時的に働けなくなり、生活のために70万円キャッシングで借金がありましたが、先日一括返済を行いました。

また、学校に通う費用も、途中いろいろあり、最終的に教育ローンを主人に組んでもらい近く完済予定です。

心配事は、教育費です。第1子が高校進学を控えています。また、下の子たちは2学年置きでこれから教育費がかかるようになります。今後は月10万円ずつ貯金し、ボーナスも夏期講習等の教育費や季節的な子どもたちとのお出かけ以外は貯金に回していくつもりです。

私たち夫婦は毒親の元に育ち、ずっと搾取され続けてきて、学校もまともに通えず、学費も滞納され続けてきました。そんなこともあり、子どもたちの大学の費用や成人式、車の免許などは私たちでしようと決めています。

子どもたちが25歳になるまでは毎年50万円ずつ繰り上げ返済をし、それ以降は100万円以上は老後の資金も貯めつつやっていきたいのですが、可能なのかとても不安です。

また、実親が借金体質で年金も未納、貯金なし。この住み替えを機に同居を考え、年金のことを一緒に考えていこうと提案しましたが、拒否されました。

このことから、同居しないにしても何かあった場合、私たちがどうにかしないといけないのかという不安もあります。悲しいことですが、親が亡くなり次第、相続放棄の手続きも即しようと思っています。

子どもたちにはこんな思いをさせたくないと考えています。そのため、教育費用や自分たちの老後も考えたら、どのようにしていけばよいか御指導いただきたいです。

◇家計収支データ

ピンくんさんの家計収支データは図表のとおりです。

相談者「ピンくん」さんの家計収支データ

◇家計収支データ補足

(1)家計収支と今後の貯蓄について

今までは奨学金の返済やキャッシングの返済、クレジットカードの乱用等でまったく貯蓄とは無縁の家計だったが、やっとできるようになってきた。

雑費や光熱費、小遣い(相談者がタバコをやめれば削れるとのこと)をもう少し抑えて、月10万円の貯蓄を目標としたいと考えている。

(2)今後のボーナスからの貯蓄について

今まで貯蓄できなかったのは、第1子の進学塾費用に3年間で300万円(月5万円、春、夏、冬休みは各20万円)以上かかったため。また、姪の学校費用も負担していた。他に母親の金銭の無心や、借金返済の肩代わりなどもその要因。

また、相談者の資格取得の勉強のため、働く時間が減ったことも影響している。今後は年間40万円は貯蓄したいと考えている。一応、相談者のボーナスは年間3.5カ月。

(3)固定資産税(年額)について

6万円ほど。なお、住宅ローンはがん特約付きのため、やや金利が高め。

(4)加入保険の保障

夫/収入保障保険(25歳加入、加入時で死亡保障1000万円)=毎月の保険料は不明

相談者/傷害保険とがん保険に加入。個々の保険内容、保険料は不明

(5)教育費について

学習塾と水泳、学校費用(各2人分)

(6)電気ガス水道料金について

水道1万2000円、電気夏3万円・冬1万円、ガス夏8000円・冬3万円

(7)通信費について

スマホ5台で3万4000円、インターネット6000円

(8)趣味娯楽費について

主に子どもが個々に遊びに行く際の費用

(9)定年と退職金について

夫婦とも、定年60歳。夫は再雇用は不明、相談者はなし。相談者は60歳以降も働くため、転職も考慮している。退職金はともになし。

(10)親御さんについて(相談者コメント)

同居を拒否したのは、昔から貧乏なのにプライドが異常に高いのと、目の前の問題に立ち向かう力と勇気がないためだと思います。

父もどうしようもない人間なのですが、それをつけあがらせ臭いものに蓋形式で、父に問題を見せないようにするのが私の母です。それと、私の弟も溺愛して、いまだに甘やかしています。

私のお金はお年玉やバイト代も含めて、幼い頃から無心し当たり前のように奪い続けてきたのですが、兄弟にはお金を貸し続けて、そのしわ寄せが全部我が家に来ています。お金の無心は小学校の頃からありました。高校時代にはしょっちゅうで、母の友人の旅費を私が何故か払わされたこともあります。

旦那と結婚してからは、旦那の給料日の早朝に毎月のように数万円貸してと現れ、返してくれず、第2子の妊娠7カ月のときに私が必死で貯めた出産費用をあてにしてお金を貸してと言われて、妊娠中は何があるかわからないからお金を貸したくないと断るとキャッシングしてこいと言われ。

第2子出産後も私の独身時代のカードでキャッシング20万円していたようで、私が残債返済しました。

それからもずっと毎月のように金を無心され続け、ずっと必死で生きている中で今度は兄弟が女を妊娠させ、女は問題があったため、その子どもは出産後間もなく施設に引き取られました。

母がその子を引き取って育てると無責任に言いだしたので、私は施設に戻せと言いました。情がうつると返すのがつらくなるので。しかし、母は相変わらず臭いものに蓋でその子を引き取りましたが、もちろん私たち夫婦に全部しわ寄せがきました。

でも、その子は私たちをママとパパと呼んでくれるので、せっかく生まれてきたんだから幸せにしてあげたいねと話し合い、その子のことを考えてうちの親も同居しようと考えていました。

今後、家計が一緒になるだけでは済まないのが同居だと考えていますので、無年金に対してもどうにかしようと提案しましたが逆ギレされて終わりました。保険や扶養のことなどを考え、私は大切な問題と考えてのことでしたが。

◇FP深野康彦の3つのアドバイス

アドバイス1:資金援助も同居も一切しないことが絶対条件

アドバイス2:毎月12万5000円の貯蓄ペースが必要

アドバイス3:老後への準備期間が長いのは大きなメリット

◆アドバイス1:資金援助も同居も一切しないことが絶対条件

まず最初に厳しいことを述べることをご承知おきいただくと共に、このアドバイスはご夫婦で読んでください。ご相談、拝見しました。あくまでFPとして、マネープランの観点からお話しします。

ピンくんさんも理解されているとは思いますが、あえて申し上げます。今も、そしてこれからも、最優先に考えることは、自分の家族を守るということです。自分の家族とは、言うまでもなく、ご主人と3人のお子さんです。

そこにご両親はもとより、兄弟の方も含まれません。心苦しいですが、姪っ子さんも同様です。この基本が崩れるようなことがあれば、ピンくんさんの大事な家族のライフプランは残念ながら、高い確率で破綻します。これに関しては、細かい試算は不要でしょう。

したがって、ピンくんさんの5人家族以外に関しては今後一切、相手が生活苦の状況に陥っても、資金的に関わりを持たない。親御さんとの同居など、論外です。

もし、わずかでも資金的援助をする、同居をするということになれば、もはやピンくんさんだけの問題ではありません。その決断が自分の3人のお子さんの人生を台無しにする恐れがある。そのくらいの状況だということを認識してください。今後、連絡も不要でしょう。

結果、親子関係が切れるかもしれません。仕方がありません。親子の感情、思いはあるでしょうが、それに流されたら終わりです。鬼になるくらいの気概がなければ、自分の家族は守れません。

今後もし、お金の無心が続くようであれば、警察に相談する、あるいは弁護士を介して司法の場に訴える。そのくらいの覚悟、気持ちの強さが不可欠です。

そして、今お伝えしたことを、たった今から実行してください。それが今後のライフプランを実現していく上での絶対条件となりますし、それを前提にいただいたマネー相談にお答えします。

◆アドバイス2:毎月12万5000円の貯蓄ペースが必要

まず教育費について考えてみます。進路はまだ未定ですが、問題は貯蓄がゼロ、学資保険も加入していない状況で、第3子の方が大学卒業するまで12年しかないということ。その間でどれだけ資金準備ができるかがポイントです。

実際に必要な額を割り出してみると、一般的なコースとして高校は公立、大学は私立文系の場合、かかる費用の目安は高校で150万円弱、大学(文系)で400万円。したがって、一番上のお子さんは550万円ですが、第2子、第3子の方はその前に中学もあるので、さらに150万円加算して700万円となり、合計1950万円。

対して、今後の貯蓄ペースですが、月10万円、ボーナスから40万円を目指すとのことですから、年間で160万円。これは高いペースではありますし、12年間で1920万円を貯めることができます。とはいえ、目安の教育費にはわずかですが届きません。

さらに、教育費以外に成人式と自動車の運転免許取得の費用も負担したいと言われています。成人式は、着付けや写真撮影なども含めれば、安く抑えても50万~60万円でしょうか。

さらに、教習所費用を40万円とすれば、3人で計300万円が別途必要です。先の教育費と合わせて2250万円となります。

したがって、これを12年間で用意するには、年間で190万円を貯めなくてはなりません。ボーナスから回せる貯蓄分が40万円で変わらないとするなら、月々の必要額は12万5000円。

家計収支は現在、毎月の6万9000円の黒字ですから、それを達成するには、あと5万6000円の削減が必要となるわけです。

◆アドバイス3:老後への準備期間が長いのは大きなメリット

では、そのためにどう家計支出を削減していくか。具体的には、ピンくんさんが言われている雑費や水道光熱費、家族の小遣いは当然その候補となりますが、趣味娯楽費の月5万円についても資金の優先順位を考えると、削ることが望ましいと考えます。

一方、食費の月4万円は、上手にやりくりしての金額ならいいですが、無理に節約しているのなら、逆にもう少し掛けるべき。食事は生活の基本です。体調や健康を害しては、元も子もありません。

それと、現在計上している教育費「月8万円」は、先の教育費の試算に含まれている部分もありますし、お子さんの年齢に合わせて徐々に減っていきます。教育ローンも完済間近。その点も考え合わせると、今後貯めやすくなることは確かです。

それでも高い削減意識は必要です。さらに、児童手当も今後減っていきます。節約はそう簡単ではないかもしれません。

ピンくんさん自身が、これまでつらい経験を何度もしてきたため、自分の子どもにはできるだけのことをしてやりたいと考える、その気持ちは十分理解できます。

しかし、「何でもしてあげる」のではなく、普段、子どもたちにかかる費用も抑えていくことは必要になってきます。逆にいえば、そのあたりの予算管理、創意工夫ができるのなら、先の貯蓄目標は決して不可能ではないと考えます。

また、老後資金については、仮に目標どおり貯蓄できても、それはすべて貯まってはお子さんの費用に消えていき、結果的に残りはゼロということになります。しかし、それもあと12年の話です。それ以降は、お子さんたちも社会人となり、貯蓄の多くは自分たちの老後資金に充てられます。

このとき、ご主人は定年まであと11年。つまり、ピンくんさんが若いときに出産されたことで、老後資金の準備が一般より長く取れるということ。おそらく夫婦だけの生活費は、住宅ローンを加えても20万円台前半でしょう。

つまり、月20万円の貯蓄も可能。ボーナスと合わせて年間280万円貯蓄できれば、11年間で3000万円超の貯蓄が新たにできます。

退職金が不確定のことですが、これと公的年金で、老後資金の土台はできるはず。加えて、65歳まで家計が赤字にならない程度に働くことが可能なら、資金的にはほぼ心配はないといっていいでしょう。

また、この間、貯蓄が順調なら、希望されている住宅ローンの繰上返済も、結果的に老後に備えることになりますし、余裕資金を充てるという形で実施してもいいと思います。

あと保険ですが、まず夫婦の医療保障を現在加入している保険で確保できているかどうか、再度、保障内容を確認してください。

住宅ローンにがん特約が付いていますが、病気、けが全般をカバーする医療保障は必要。もし確保されていないなら、入院5000円で十分ですので、割安な掛け捨てタイプの医療保険や共済の加入は検討していいでしょう。

また、ピンくんさんには死亡保障も欲しいところ。10年定期で1000万円。保険料は1000円台前半です。それと今掛けられている傷害保険。これは不要です。

ともあれ、これからは自分たち5人家族を守る。それだけを考え、ご主人と力を合わせて、元気に明るく生活していく。それができれば、望むライフプランはきっと実現できるはず。頑張ってください。

◆相談者「ピンくん」さんから寄せられた感想

私たち夫婦は、親に振り回される人生を歩んできました。第1子を産んだとき、病室で主人と「この子が望む未来を応援できる親になろうな」と話したのを鮮明に覚えています。

もし、自分たちが普通に進学したり就職したりと、他の家庭のようにできていたなら、仕事も選べたし、結婚をし家庭を持った時点で私たちの人生設計をしていけたのだろうと思っています。

うちの母親は「なんとかなる」という言葉をいまだによく使いますが、なんとかなるのは、することをして努力をした上でなんとかなるのだと、先生からのアドバイスをいただいて再認識をしました。

数字と文章でアドバイスをいただき、これからの教育資金や老後に向けて、どう金銭管理を行っていけばいいかとてもわかりやすかったです。引越しを機に光熱費も2万円前後減ってきているので、これをできる範囲で維持していくこと。

また、子どもたちに教育を除いて、できることできないことを伝えて協力してもらい、子どもたちにも金銭管理の大切さを教育していこうと思います。

食費は週1か10日に1回程度まとめ買いをし、3品以上は栄養面を考えて作れているので、このまま維持していきます。アドバイスを元に相談に行き、保険の見直しも行っていきます。

子どもはどんなことがあっても、親がおかしいと思っても嫌いになれず、愛されることを求めるのだと、今回の自分の相談を振り返り思いました。だから、自分の親って酷いなって涙が出ました。

はじめて子どもたちと出会った時の気持ちや誓いを忘れずに、自分たちの子どもや老後のことだけを考えて、気持ちを引き締めて毎月12万5000円を目標に貯蓄していきます。姪のことも心配ですが、彼女が少しでもより良い人生を歩んでくれることを願います。

今は連絡を取り合わないようにしているし、このままこちらからは一切連絡を断ち切ります。私たちがした苦労や悩みを引き継がないよう、心を鬼にして親たちとの関係を考えていきます。子どもたちに余計な心配をさせないよう、2人で力を合わせて頑張っていきます。本当にありがとうございました。

私たち夫婦の人生の大きな第一歩になるアドバイスをありがとうございました。

教えてくれたのは……深野 康彦さん

マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。

取材・文:清水京武

文=あるじゃん 編集部