フィアットに新しい電気自動車(EV)が加わった。「600e」(セイチェント・イー)だ。デザインは個性抜群。見た目だけで欲しくなる人すらいるかもしれないが、EVとしての完成度はどうなのか。「500e」のように走りの楽しいEVなのか。試乗してきた。
600eとは?
フィアットは1950~60年代にかけてガソリンエンジン車「600」(セイチェント)を販売していた。このクルマは初代で生産が終わってしまったのだが、今回のEV「600e」で55年ぶりに車名が復活した。
ちなみに、いまなお日本で大人気のフィアット「500」(チンクエチェント)は1957年、初代とされるフィアット「トッポリーノ」は1936年に誕生している。500のEVバージョン「500e」はすでに発売済みだ。
500eより数字が100大きくなっただけに、車格も600eの方が格上だ。業界の言葉でいうと500eは「Aセグメント」、600eは「Bセグメント」の位置づけとなる。600eと競合しそうなEVはボルボ「EX30」やBYD「ATTO3」などだろう。
500eより上の車格とはいえ、600eのボディサイズは全長4,200mm、全幅1,780mmで、日本の道路でも扱いやすい大きさといえる。そこが、競合を含めBセグメントの各車に注目が集まる理由のひとつだ。
600eの価格は585万円で、EV購入の補助金65万円の対象となる。ちなみにEX30は559万円、ATTO3は450万円だ。
500/500eはコンパクトなハッチバック車なのだが、600eは同じボディタイプでサイズだけ大きくなったクルマではない。外観がSUV的なクロスオーバー車だ。これまでのフィアットでは、エンジン車のコンパクトSUV「500X」に近い。
試乗で確認! 600eの完成度
600eは4ドアハッチバックなので、500/500eを含む2ドア車に比べ実用性が高い。試乗では後席にも座って移動してみたが、十分な空間が確保されていた。ただ、SUV的なクロスオーバー車なので、地上から床までがやや高く、降りる際には地面までが遠い印象で、足が地に着きにくかった。
EVとしての基本的な機構は、フィアットと同じくステランティスグループに属するプジョー「208e」と同じだという。同じくステランティスのジープ「アベンジャー」も、このプラットフォームを使っているとのことだ。
シフト操作はダッシュボード中央のボタンスイッチで行う。簡素化された操作方法はEVならではだ。
走行モードはエコ/ノーマル/スポーツの3種類。どのモードを選んでも、街乗りなどでゆったり走行する際にはメーター内に「ECO」という表示が出て、省燃費運転になっていることを教えてくれる。
高速道路を含め、日常的にはエコモードでの走行で不足はないだろう。スポーツモードを選ぶと発進などで出足の加速がより強くなるが、不用意にアクセルペダルを踏み込むと、やや飛び出し加減の発進になる。ノーマルモードはその中間的な位置づけだが、エコモードで不足がないので、あえて選ぶ理由は見つけにくい。
走りはいたって快適。シフトスイッチの「D」と同じボタンで切り替えられる「B」にすると、EVならではの回生を利用した減速感覚を積極的に利用できる。停止まではできないのでワンペダル操作とまではいえないが、速度調節を含め、信号で停止する直前までアクセルペダルの踏み込みや戻し加減で運転できる。これはEVならではの利点だ。減速時にバッテリーを充電できるだけでなく、ペダルの踏み替え回数を減らして楽に運転できるようになる。一方、Dのままで運転すればエンジン搭載のオートマチック車と変わりなく走らせられる。
当然ながら走行中は静粛性が高い。高速道路の合流などでは、頑張らなくても流れに乗れる加速感があって安心感が高い。このあたりもEVならではだ。
個性的な走りは楽しめる?
一方で、走りに独自性があるかと言われると、ちょっと答えるのが難しい。500eは走って楽しいEVだった。さすがは500、エンジン車でもEVでもチンクエチェントらしい愉快な走りだなと感じた覚えがある。そんな感覚的独自性が、600eではあまり伝わってこなかった。
もちろん、何かに不足があったわけでも、不具合があったわけでもない。ただ、あえて600eを選びたくなる個性、主張を走行感覚からは感じにくかったのだ。
EVとしての仕上がりに問題はない。総電力量54kWhのバッテリーを搭載しており、一充電走行距離は493km(WLTCモード)と十分だ。「CHAdeMO」規格の急速充電に対応しているので、日本国内での利用にも懸念はない。
いわゆるBセグメントのクロスオーバー車を選ぶなかで、600eはエンジン車から乗り換えても不安材料の少ないEVに仕上がっている。オシャレなEVを所有する喜びを含めて、EV初心者にとっても価値ある存在だといえるだろう。