藤井聡太王将への挑戦権を争う第74期ALSOK杯王将戦(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は挑戦者決定リーグが開幕。9月24日(火)には永瀬拓矢九段―菅井竜也八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、相穴熊のねじり合いから終盤の競り合いを抜け出した永瀬九段が147手で勝利。挑戦に向け好スタートを切りました。
18回目の同学年対決
ともに1992年生まれの両者、公式戦では18局目の対決。昨年は5勝1敗の好成績で挑戦者に上り詰めた菅井八段ですがそのうちの1敗は永瀬九段に喫したもので、リベンジを目指します。後手番で迎えた本局で菅井八段は角交換振り飛車を採用、先手の居飛車穴熊移行を見てこちらも振り飛車穴熊への組み換えを目指しました。
ジリジリとした間合いの計り合いののち菅井八段が動きます。2筋の受けを放棄して飛車を盤上左方に転回したのは振り飛車らしいさばき。狙われそうな桂を中央に跳ね出せれば小駒を使っての穴熊攻略が間に合うとの見立てです。対する永瀬九段もこの注文を外す角打ちで応戦、敵陣に馬を作り合った局面はともに飛車のさばきが課題です。
冷や汗の勝利
混戦の中盤を抜け出したのは永瀬九段でした。狙われた飛車を敵の金の利きに突っ込むように成ったのが相穴熊の速度感覚。先に敵玉が見える形にしておけば多少の駒損は問題になりません。永瀬九段の勝利は目前と見られた終盤戦、しかしここに最後の山場が待っていました。菅井八段の最後のラッシュが始まります。
持ち歩が1枚でもあれば攻めの拠点ができて優勢になる局面、歩切れの菅井八段が代わりに選んだのは銀桂を連続でタダ捨てする勝負手でした。スピードアップを図る意図ですが、この折衝での駒得に満足した永瀬九段は一転して方針を切り替えます。囲いを再生するように丁寧に埋めた銀が一手の猶予を生み出しました。
終局時刻は19時22分、最後は先手玉の詰みなしを認めた菅井八段が投了。終局図で後手玉は一手一手の寄り形でした。一局を振り返ると、丁寧な指し回しで中盤をリードした永瀬九段が菅井八段の追い込みにあいながら辛くも逃げ切った格好。これで勝った永瀬九段は1勝0敗、敗れた菅井八段は0勝1敗となっています。
水留啓(将棋情報局)