悲願の金メダル達成の瞬間、車いすごと駆け寄って抱き合った選手たち。2004年のアテネ大会(日本は8位)から日本代表の島川慎一は「(ここまで来るのに)長かった」と感慨深げに語り、2014年からキャプテンを務める池透暢は、表彰台からの“金の景色”を「悔しさがひとつもない。すべてが素晴らしく、美しくて最高」と表現した。
日本代表戦士12人のコメントで、パリ大会の激闘を振り返る。
【#21】池透暢(3.0) ※キャプテン「いろんな人から『楽しめ』という連絡がくる。ラグビーの難しさだったり、連携がうまくいったときの喜びを噛みしめながらやろうと思っている。少し難しいゲームだったけれど、いろんなものを乗り越えていくのが僕らは楽しい」(初戦後のコメント)
「(フル出場だった)決勝の今日は一番体が軽く、疲労なんか全然ない状態になっていた。いろんなものが僕の体の中のエネルギーとして(力になったのだと思う。)メッセージやケアもそうだし……そういったサポートがあって最後まで走り切れた」(決勝後のコメント)
photo by Takamitsu Mifune【#4】羽賀理之(2.0) ※副キャプテン
「(自身の役割について)もともと試合の中ではメインのラインとして長時間プレーするというよりは、特定の場面(ラストゴールシチュエーションやディフェンスで変化がほしいときなど)での起用が多くなることがわかっていたので、(ベンチで)試合の流れを見て、いつでも出られるように準備をしていた。また、選手村での生活では選手それぞれがどんな過ごし方をしているか、ストレスがかかっていないかなど(意識的に)見ていた」
リーチの長い羽賀は準決勝の第4ピリオド・最終局面で登場photo by Takamitsu Mifune【#32】橋本勝也(3.5)
「(東京大会では準決勝で敗退したが、今大会では)延長戦に入ることができ、まさか自分が(延長戦の)スタートから出るとは思っていなかったけれど(吐きそうになるほど緊張したが、倉橋)香衣さんを見たらすごく笑顔で。それを見て、肩の力がすっと抜けた。楽しいをモットーにやっていた予選の3試合や(自身の才能を見出してくれた、前HCの)ケビンからかけられた『Have fun』という言葉を次々と思い出し、最後に自分らしいプレーをすることができた」(準決勝後のコメント)
準決勝で勝利した後、「自分の目標は、パリ大会で決勝の舞台に上がり、金メダルを獲るためのキープレーヤーになること」と気を引き締めて決勝に臨んだphoto by Hiroyuki Nakamura【#13】島川慎一(3.0)「(今の日本の強さは)チーム全体の力が上がったこと。ここにいない選手も含め、強化指定選手全員がチームを強くしたいと思っている。(1年前に、HCを退任した)ケビンが金メダルを獲れるチームを作ってくれて、それをちゃんと1年間、一貫して継続できた結果の金メダルだと思う。そして、僕のキャリアがここまで続いたのはケビンのおかげ。彼が僕のモチベーションを上げて試合にも出してくれた。そこに応えたいと(いう、きっかけで、パフォーマンスを)上げられたし、彼がいなければこの年(49歳)でこの場には立てなかったかもしれない」(決勝後のコメント)決勝ではアメリカに7点差をつけ「日本はびっくりするくらい強かった」とレジェンドは話した
photo by Hiroyuki Nakamura【#7】池崎大輔(3.0)
「すべてのことが報われた、そんな幸せな(優勝の)瞬間でした。東京大会(2大会連続銅メダル)の悔しさから(パリに向かってリスタートし)、やっと胸を張って帰れるという思い」(決勝後のコメント)
「成長した姿を世界に見せた橋本をはじめとするハイポインターも、ローポインターも、それぞれの役割を果たし、今日は12人みんなが輝いていた。それぞれの役割を果たした結果が金メダルにつながった」(決勝後のコメント)
photo by Takamitsu Mifune【#14】中町俊耶(2.0)
「東京大会以降、練習してもなかなか試合に出られず、悩む日々だった。それでも、やっぱりあきらめずに練習し続けたことが、この舞台にたどり着けた(要因だ)と思う。(表彰式は)本当に幸せな、夢のような時間。(表彰台の真ん中でメダルをかけてもらい)この眺めをしっかり目に焼きつけようと思った。今は(ベテランの)池崎さんや池さんに頼っている部分があるので、これからは橋本選手、草場選手、小川選手も含めて日本を引っ張っていけるプレーヤーになりたい」(決勝後のコメント)
決勝でプレー時間がなかった悔しさは胸に秘めて勝利を喜んだ中町。「次は自分があの舞台に立つ」photo by Takamitsu Mifune【#22】乗松聖矢(1.5)
「決勝(アメリカ戦)は、立ち上がりから(急成長中の女性選手である)サラ選手を止めるのが自分の仕事だった。前半は難しかったんですけど、後半は自分のスタミナを活かして粘り強く戦った結果(仕事を遂行することができた)と思う。(決勝は大事な場面での起用が続いたが)期待に応えるために、一生懸命頑張った」(決勝後のコメント)
激しいディフェンスでライバルたちの体力を削り続けた乗松は、名実ともに世界最強のローポインターになったphoto by Takamitsu Mifune【#1】若山英史(1.0)
「(自身3個目のメダルとなる金メダルは)一番重たく、一番きれい。最高です。(今のチームは)与えられた役割をしっかりとこなすことができるし、何か気になることがあれば、それを互いに言い合ってすぐに修正して(パフォーマンスに)出すことができる。みんなが互いを支え合っているようなチームになっていると思う」(決勝後のコメント)
人一倍声を出してチームを鼓舞する若山は、ローポインターの精神的支柱だphoto by Hiroyuki Nakamura
【#11】草場龍治(1.0)
「(自身初のパラリンピックで、決勝ではスタメンに起用されたが)チームとしてもパラリンピックの決勝の舞台は初めて経験するもの。その中でスタートで出場させてもらい、試合が始まる瞬間の会場の景色をコートの中から見られたことはすごく貴重な経験だった。(今後について)もちろん4年後のロサンゼルス大会を目指すが、パリ大会で経験したことを、周りの選手に伝えることもしていきたい」(帰国後のコメント)
初出場の草場は「チームとして重要視していた準決勝でスタートで送り出してもらい、強い気持ちで戦った」photo by Takamitsu Mifune【#23】小川仁士(1.0)
「(東京大会の悔しさを経て)選手一人ひとりのパフォーマンスが上がったことにより、チーム全体の力が上がった。(個人としても、世界との差を突きつけられた東京大会から努力を重ね、)パフォーマンスの部分でまず負けないように力をつけ、ラグビーの知識も本当にいっぱいつけました。東京大会後から、ラグビー中心の生活をしてきたので、家族に迷惑をかける部分もあったが、この金メダルで恩返しできたかな。金メダルをしっかり奥さんの首にかけてあげたい」(決勝後のコメント)
世界のローポインターとの差を痛感した東京大会から3年、小川は決勝のスタメンを勝ち取ったphoto by Takamitsu Mifune【#2】長谷川勇基(0.5)
「いまだに世界一になった実感がなく、ピンときていません。常に平常心で挑むことにフォーカスして練習してきた。(試合では、)東京大会時よりも揺らぐことなくプレーできた」(帰国後のコメント)
長谷川は日本が誇る“ハイローライン”の一角を担ったphoto by Takamitsu Mifune【#3】倉橋香衣(0.5F)
「前回(東京大会の準決勝)は負けたら終わりなんやという気持ちだったが、今日は『なんとかなるやろ』と言う気持ちでできた」(準決勝後のコメント)
「楽しもうとか、楽しいとか思わずとも、楽しくプレーできた。本当に楽しい5日間だった。やってきたことを、みんなで連携できたところがすごくよかった。丁寧に実行できたし、それを相手のペースの時間になってもちゃんとやり続けられた」(決勝後のコメント)
photo by Takamitsu Mifune
「Believe」「Have fun」――選手たちを支えたのは、2017年から2023年まで日本代表ヘッドコーチを務めたケビン・オアー氏のラグビー精神だ。パリ大会のヘッドコーチ岸光太郎も名将の意志を引き継ぎ、全5試合で勝利。名実ともに“過去最強の日本代表”を最高の舞台で示した。
12人の選手たちは表彰台の中央からの景色を目に焼きつけたphoto by Takamitsu Mifune
text by Asuka Senaga
key visual by Takamitsu Mifune