ホンダが軽自動車「N-BOX」に追加した派生モデル「N-BOX JOY」は、予想に反して見た目がマイルドだった。背の高い両側スライドドアの軽自動車に「ゴリゴリ」のSUVテイストな派生モデルを追加するのが業界の主流だが、ホンダが流れに乗らなかった理由とは?
スペーシアギアがライバル?
ホンダは2023年11月に現行型「N-BOX」を発売。このクルマには標準車とカスタムがあるのだが、ここ新たに追加となるのが「N-BOX JOY」(ジョイ)だ。
競合他社はSUVテイストな軽スーパーハイトワゴンの派生モデルをラインアップしている。この分野の先駆けはスズキ「スペーシアギア」であり、最近のヒットモデルといえば三菱自動車工業の「デリカミニ」がある。
ホンダもついにこのジャンルに参入するのかと思いきや、登場したジョイはこんな見た目だった。
標準車とカスタムに比べればアクティブな印象ではあるものの、競合他社のクルマに比べれば明らかにSUVテイストの薄いジョイ。なぜ、もっと攻めた見た目にしなかったのだろうか。ジョイの事前撮影会でエクステリアを担当した本田技術研究所 デザインセンターの中島英一さんに話を聞いた。
ゆるくアウトドアを楽しむクルマに
――ジョイの撮影会ということで、「ホンダが作るSUVテイストな軽スーパーハイトワゴンってどんな感じなんだろう」と思いながらお邪魔したのですが、実物を見てみると、そこまでゴリゴリな感じではないんですね。どういう意図でデザインされたんですか?
中島さん:ジョイのグランドコンセプトは「エンジョイマイペースボックス」です。マイペースに、ゆるく過ごすライフスタイルが、多くの人たちが望む生活なのではと考えました。よくあるアウトドアではなく、お出かけ先でちょっと寄り道するとか、ちょっとした河原や公園でピクニックをするくらいの、ゆるいアウトドアにニーズがあると思い、そこに行くためのクルマを目指しました。林道や山奥に行って、走破性をいかしてゴリゴリに走るというよりは、乗用車に近いテイストでありながら、ちょっとアウトドアのテイストを入れつつ、キャンプ道具やSUVの道具感などのモチーフも持ってきて世界観を作り上げました。
――デリカミニやスペーシアギアといったクルマは、ライバルではあるんですか?
中島さん:大きなくくりでは一緒なのかもしれませんが、林道などを走る人はギア系、オフロード系に乗るのがいいと思いますし、もうちょっとゆるいテイストに振ったのがジョイなので、差別化できていると思います。
――例えばアウトドア系のクルマって、フェンダーの部分を黒くして、車高が高いように見せたりしますよね。ジョイは部分的に黒くなっていますが、ガチガチなSUVテイストではないようです。
中島さん:そこもバランスで、ゴリゴリになりすぎず、かといってプレーンにもなりすぎないように取捨選択しました。普段のお出かけの少し延長線上を走れるよね、といった感じです。
ただ、河原に行くときや細い道を通るときなど、万が一、クルマの下の部分をこすったり、傷つけたりした際にも、あまり傷が目立たないようなプロテクティブなデザインを局所的に取り入れています。お客様があまり神経質になりすぎず、マイペースに、ゆるくドライブを楽しめるように配慮しているんです。それも含めアウトドアテイストなデザインになっていると思います。
――そんな中で、ホイールが外見上の特徴として効いていますね。
中島さん:こだわったところのひとつです。オフロードというと通常、大径のブロックタイヤに大きなホイールを装着して走破性をアピールしますが、ジョイは14インチと小径で、センターキャップを装着して、ターボエンジン車にはメッキのリング加飾を施すことにしました。ゆったりと走ってくれそうな、落ち着いた方向でまとめました。
――「ジョイ」(Joy)というロゴの字体、フォントについては何かこだわりがありますか?
中島さん:あえて大文字と小文字を混ぜることで、文字に動きを付けました。基調としては、直線の太いところがあって、骨のある、しっかりとした道具感が感じられるようなレタリングになっていながら、遊び心も入っているといいますか、リズミカルでありながら強さも共存するロゴになっています。
――もっとかわいい方向にも振れたでしょうし、いろいろな案があったんだと思うんですが、ちょっとレトロな感じもするオシャレな字体ですね。チェックの内装にも合っているような気がします。
――もっとゴテゴテと飾り付けてSUVテイストを追求することもできたんだけど、このくらいに抑えたという感じのクルマなんですかね?
中島さん:そうですね。たくさん要素を入れることにはこだわらず、でも、アウトドア、ピクニック、ドライブに出かけたくなるような道具の本質を取り入れました。