9月に入り、夏の暑さが少し和らぐかと思いきや、台風や猛暑といった異常気象が続いています。特に9月は、台風の上陸が増える時期として知られています。台風が接近すると、片頭痛がしたり、古傷が疼いたりと体調に異変を感じる人が多いのではないでしょうか。このような気象の変化に伴って体調が悪くなる現象は「気象病」と呼ばれていますが、なぜそのようなことが起こるのか、どのように対処すればよいのか、長岡技術科学大学の准教授であり、学校医としても活動されている勝木将人先生にお話を伺いました。

■台風が近づくと体調が悪い、それは「気象病」かも

――台風が来ると体調が悪くなるのはよくあることなのでしょうか。普段雨が降っても特に体調は悪くなりません

勝木将人先生:台風が接近する際に体調が悪くなることは、多くの人に共通する現象です。普段、雨が降っても特に体調に変化を感じないという方でも、台風が近づくと頭痛や関節の痛みを感じることがあります。これは、台風の際に急激に変動する「気圧」が体に影響を及ぼすためです。普段雨が降る程度とは異なり、台風の場合は急激に大きく気圧が変化することが体に影響を与えると考えられます。

台風が近づくと、気圧が大きく低下します。気圧とは、空気の重さであり、通常は私たちの体に一定の圧力がかかっています。しかし、気圧が低下するとその圧力が弱まり、血管が膨張しやすくなり、神経を刺激して頭痛や関節の痛みを引き起こすことがあります。また、耳の中の内耳に気圧センサーがあると考えられており、低気圧によってそのセンサーに刺激が加わると、自律神経が乱れやすくなり、体の調子が悪くなることもあります(Pain Res 2021;36:75-80)。

片頭痛の患者さんのおよそ半分が、天気によって頭痛が引き起こされると回答しています(Cephalalgia 2007;27:394-402)。また、「頭痛―る」というアプリを用いた研究でも、気圧の低下と頭痛の増加との関連が示されています(Headache 2023;63:585-600)。

――気圧の変化で起こりやすい体調不良の症状にはどのようなものがありますか

勝木将人先生:気圧の変化によって引き起こされる代表的な体調不良には、以下のような症状があります:

片頭痛: 気圧の低下が血管の膨張を引き起こし、頭部の神経を圧迫することで、片頭痛が生じやすくなります。

めまい: 気圧の変動が耳の内耳に影響を及ぼし、平衡感覚が乱れてめまいを感じることがあります。

吐き気: 自律神経のバランスが崩れることで、胃腸の働きが不調になり、吐き気や食欲不振を感じることがあります。

関節や古傷の痛み: 以前のケガや手術痕がある部位で、低気圧が神経を刺激し、痛みを引き起こすことがあります。

喘息: 寒暖差や気圧の変化が喘息発作を起こすことがあります。

メンタルの不調: 天気によるストレスや、自律神経の乱れにより、気分の落ち込みやイライラ、不安感が増すことも少なくありません。

これらの症状をまとめて「気象病」と呼び、気圧の変動が原因で発症する事があると言われています。

■「気象病」になりやすい人と病院の選び方

――「気象病」になりやすい人はいますか

勝木将人先生:気象病になりやすいタイプの人には、いくつかの共通点があります。

女性に多い: 女性に多いことがわかっています(BMC Res Notes 2024;17:203)。月経周期や妊娠、更年期といったホルモンの大きな変化がある時期には、気象病の症状が強く出ることがあります。

デスクワークが多い人: 長時間同じ姿勢で仕事をすることが多いデスクワークの人は、血流が滞りやすく、気圧の変化でさらに体の不調が出やすくなります。また天気の影響を受けづらい快適な室内に長時間居過ぎることも、体が天気の変化についていきづらい体質になってしまいます。

子供や高齢者: 子供はまだ自律神経が未発達であり、高齢者は自律神経の機能が低下しているため、気圧の変化に対して敏感に反応することがあります。また、特に高齢者は関節や古傷が多く、台風の接近に伴って痛みを感じやすい傾向があります。

――「気象病」では、病院の何科を受診すればよいのでしょうか

勝木将人先生:気象病の症状がつらい場合は、適切な診療科を選んで受診することが大切です。症状によって以下の科を受診するのが適切です。

脳神経内科や頭痛外来: 頭痛や神経痛がひどい場合、脳神経内科を受診するのが一つの選択肢です。また、最近では「気象病外来」や「片頭痛外来」など、気象病に特化した外来が設置されている病院も増えています。

耳鼻科: めまいや耳の違和感がある場合は、耳鼻科を受診することをお勧めします。耳鼻科では、内耳の問題や自律神経のバランスを調べることができます。

婦人科: 月経困難症に対して、低用量ピルや漢方薬を用いてその辛さを軽減することが可能です。近年では月経を数ヶ月に1回にできる低用量ピルがあります。

内科: 体調不良の原因がわからない場合、原因検査も含め内科を受診するのが一般的です。特に、全身的な不調や疲れを感じる場合には貧血やナトリウムなどの異常がないか検査をすることもあります。

■日常でできる効果的な予防方法とは

――症状の予防や改善のために効果的な方法を教えてください

勝木将人先生:気象病の予防や症状の軽減には、日常生活の中で取り組める方法があります。いくつかの対策を以下にご紹介します。

自律神経を整える: 規則正しい生活習慣や適度な運動、深い呼吸を意識することが、自律神経を整える上で重要です。特に、睡眠の質を向上させることは気象病の予防に大きな役割を果たします。

食生活の見直し: バランスの良い食事を心がけ、免疫力を高める栄養素(ビタミンCやE、鉄分など)を積極的に摂取することも、気象病の予防に役立ちます。また、副交感神経を優位にしてリラックスするためにも、3食きちんとゆっくり食べましょう。

マッサージやストレッチ: 痛みを感じやすい部位や、血流が悪くなりがちな箇所を定期的にマッサージしたり、ストレッチをすることで、血行を促進し、症状を軽減することができます。耳の後ろの大きな骨のところ(風池)を押したり、親指と人差指の間の付け根のところ(合谷)を押したりしてみましょう。

体操: 頭痛体操やめまい体操があります。簡単ですので、ぜひ日頃からやってみましょう。

気圧の変化に備える: 台風の接近が予測される時期には、気圧の変動に注意し、早めに対策を講じることが大切です。天気予報を確認して、気圧の急変に備えた準備をすることも一つの方法です。「頭痛―る」というアプリが気象病の記録や予報に最適です。

耳栓やサングラス: 光や音は、気象病を悪化させることがあります。あまり強い光や音にさらされないようにしましょう。電車の中では耳栓をしたり、強い光が出る場合は弱めたりサングラスを使いましょう。

――最後に「気象病」と向き合うコツを教えてください

勝木将人先生:台風による気圧の変動が原因で体調を崩す「気象病」は、多くの人が経験する身近な問題です。しかし、適切な対処法を知ることで、症状を予防したり、軽減することが可能です。自律神経を整え、日常生活の中で少しずつ対策を講じることで、気象病の症状を上手に乗り切りましょう。

――ありがとうございました

この記事は、医療健康情報を含むコンテンツを公開前の段階で専門医がオンライン上で確認する「メディコレWEB」の認証を受けています。