第83期順位戦A級(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は3回戦が進行中。9月19日(木)には渡辺明九段―増田康宏八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、相居飛車の力戦から抜け出した渡辺九段が84手で勝利。2勝1敗の白星先行としました。
「4度目の正直」なるか
渡辺九段1勝1敗、増田八段2勝0敗で迎えた本局は挑戦権争いの行方を占う大一番。これまでに両者の対戦は3局あり、いずれも渡辺九段が制しています。増田八段の先手番で始まった対局は渡辺九段が早い段階で変化。角道を止めたことで角換わりは回避され、盤上は定跡の整備されていない矢倉力戦へと進みました。
一手ずつ手探りの中盤戦を前にしてともに長考が続きます。銀と桂の協力で右辺からの勢力奪回を目指した増田八段に対し、これに適当な受けはないと見た渡辺九段は攻め合いで対応。激しいやりとりが一段落した局面は先手が敵陣に作った竜を、後手が角桂交換の駒得を主張しています。
渡辺九段が貫禄示す
互角に思われた終盤の入り口を抜け出したのは後手の渡辺九段でした。玉頭へのタタキの歩で先手陣を乱しておいてから拠点に銀を打ち込んだのが「優勢の時はシンプルに」の決め手。あとは自玉の安全度が問題ですが、先手からの竜での王手に対して底歩が打てているのが大きく、渡辺玉は見た目以上に安全な形なのが増田八段の誤算でした。
劣勢を自覚した増田八段は首をかしげる様子が目立ちます。そのまま選んだ金取りは自玉に受けがないのを認めた形作りとなりました。終局時刻は23時2分、先手玉を詰ませきった渡辺九段が冷静な着地を決めました。感想戦では中盤、銀をタダ捨てして竜を作った増田八段の攻めが指しすぎだったと結論付けられました。
これで勝った渡辺九段、敗れた増田八段ともに2勝1敗となっています。
水留啓(将棋情報局)