<お話をお伺いした方々>
練馬区商工観光課 永井氏・會沢氏
同  都市農業課 諸岡氏・馬場氏

手軽に収穫体験ができるツアーを実施中!「ようこそ練馬ぶらり旅」が持つ魅力とは

──「ようこそ練馬ぶらり旅」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

永井氏(以下、敬称略):元々は練馬区の魅力を発信すべく方法を模索した事がきっかけです。2023年6月に「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッター」が練馬区内にオープンして、それに伴い国内外から多くの来場者が見込まれる事となりました。これを機に練馬区内の見どころを訪問していただき、練馬区の魅力発信になるような取り組みの1つとして、ツアー事業「ようこそ練馬ぶらり旅」を立ち上げました。

練馬区公式アニメキャラクター「ねり丸」も区の魅力を発信している

──立ち上げから1年あまりが経過して、ツアーを拝見すると満席の日程が多く好評のようですね。

永井:おかげ様でソールドアウトの日程も多く出ています。練馬区として初めてのツアー事業で、どうなる事かと思っていましたがホッとしています。

──東京駅などに集合してから練馬区内を巡るツアーですが、参加者はどちらからお越しの方が多いですか。

會沢:ほとんど関東で、練馬区以外からご参加されています。中でも神奈川県からのご参加が多くいらっしゃいます。

──神奈川県を含め、関東近県でも農業は盛んですが、それでも敢えて東京の練馬区のツアーにご参加されるには、どんな目的があるのでしょうか。

永井:参加した理由を聞いてみると、多くの方は「都内で気軽に収穫体験ができるから」とおっしゃいます。家庭菜園だと自分たちで育てないといけませんが、収穫体験だったら農家さんが育てた作物を収穫する部分を楽しむ事ができ、負担が少なく土に触れられるところが人気のようです。

馬場氏(以下、敬称略):レジャーとしての参加が目的の方が多いですね。楽しみながら新鮮な野菜を収穫できます。収穫体験のため身体もある程度動かしていただくので、健康志向の人にも評判が良いです。

写真左・練馬区都市農業課 諸岡氏、右・同 馬場氏

──「ようこそ練馬ぶらり旅」の内容を企画している旅行会社は、農業系に特化した旅行サイトですか。

永井:日帰りのツアーを多く企画・販売している旅行会社で、農業系に特化しているという訳ではありません。ツアー内容については、練馬区の見どころや魅力をお伝えできるコースを組んでもらうようお願いしています。

──とうもろこしの巨大迷路や観光名所の見学など、収穫体験以外のツアーも盛り込まれていますね。

諸岡氏(以下、敬称略):巨大迷路に参加する方たちは、収穫体験とは少し違う層ですね。

會沢:「ようこそ練馬ぶらり旅」参加者のメインの年齢層は50代~70代ですが、アトラクション的な要素が入ったツアーだと、お子さまのご参加も多いです。幅広い層の方に満足いただくため、収穫体験の他にも区内の名所を巡ったり、レストランでお食事していただいたりなど、複数のジャンルを旅程に取り入れたツアーを用意しています。

収穫期や集客力にも配慮する。都市農業を盛り上げる収穫体験イベントの組み方

──「ようこそ練馬ぶらり旅」の旅程に組み込む農家の方は、どのように選んだのでしょうか。農家を選ぶ基準はありますか。

永井:練馬区では野菜の収穫体験ができる農園を「ねりまベジかるファーム」と名称し、紹介しており、また区内で生産される果実の摘み取り園・直売所を「練馬果樹あるファーム」として情報を提供しています。そこで紹介している農家の中から旅行会社がピックアップしています。

収穫体験の様子(画像は練馬区提供)

馬場:練馬区では、野菜の収穫体験は今後の都市農業の経営スタイルの一端を担う存在になると考えていて、収穫体験に取り組む農業者の方の情報を一冊のパンフレットにまとめました。この中から作物の収穫時期や集客力、団体受け入れが可能かどうかなどを考慮して、旅行会社が候補の農家さんを選定し、ツアー参加を打診しています。

──「ねりまベジかるファーム」や「練馬果樹あるファーム」に参加する農家さんが多い事に驚きます。それらの方へは、何か支援をしているのでしょうか。

馬場:「練馬果樹あるファーム」では、新たに摘み取り園を開始するための整備費用の一部補助をしています。一方、野菜の収穫体験は始めるときに大きな施設整備は不要なため、「ねりまベジかるファーム」では補助金ではなく、農園に人を呼び込むためのグッズを配布するなど主にPR支援を行っています。

諸岡:具体的にはロゴ入りのステッカーや立て看板、のぼり、ホワイトボードなどを作って農家さんへ配布しました。活用方法は農家さんにお任せしていますが、参加者がロゴ入りステッカーを胸につけるなど、利用していただいています。あとはパンフレットへの掲載、練馬区のHPで周知する、といった形で広報の支援をしています。

自治体と農家が組むタッグ。収穫体験ツアーを行うメリットとは

──自治体が支援することで農家さんにどんなメリットがあるのかを具体的にお伺いしたいと思いますが、「ようこそ練馬ぶらり旅」に協力した農家さんからの感想は寄せられていますか。

永井:ご協力いただいた農家さんからは、概ね好評をいただいています。練馬区外にお住まいの方にとって、練馬区の農園に自力で来て収穫体験を行う事はハードルが高いのですが、「ようこそ練馬ぶらり旅」としてツアーに組み込んであれば、気軽に訪問してもらえてありがたいという声を多くいただいています。

収穫体験の様子(画像は練馬区提供)

──「ようこそ練馬ぶらり旅」では練馬区がツアーの企画・広報をして、参加者の旅行代金を補助し、収穫体験の収入が農家に入りますが、実際農作物の売上アップに結びついているのでしょうか。

諸岡:売上アップにも貢献していると思いますが、何よりも農園のファンが増える事が最大のメリットです。それに加えて、収穫体験ならではの利点もあります。通常農家は作物を収穫・洗浄して袋詰めをします。しかし、収穫体験では参加者は自ら作物を収穫して、袋に入れて持ち帰るので、それらの作業が不要になります。省力化の上、ファンの拡大につながる一石二鳥の取り組みです。

馬場:都市農業は周辺が住宅地に囲まれている事がほとんどです。作業中の土ぼこりや機械音のように近隣住民から指摘されがちな課題も抱えています。摘み取りや収穫体験を通じて周辺住民と交流し、都市農業の意義を実感してもらう取り組みが大切だと考えています。

馬場:ツアーだからこその利点もあります。農家が個人で収穫体験イベントを運営するとなると、農作業で忙しい中、イベントにまつわる作業、連絡や集金、そして次へのPRなども自分たちだけでこなさないといけない。でもツアー形式なら旅行会社がコーディネートしてくれるので、農家の負担感がありません。加えて、ある程度まとまった収量を持って行ってくれる。農作業以外の作業をアウトソーシングできる点は魅力的ではないでしょうか。

──ツアーでリピーターは増やせているのでしょうか。

永井:目に見えて著しく効果があったか把握はできていませんが、練馬区のツアーに参加した方が、今度は別の収穫体験ツアーにご参加いただいている事もあるようです。
またツアーで農業体験をされた方が、「また食べてみたいから」と、後日改めて個人で農家さんを訪問する事もあると聞いています。

編集後記

都市農業という言葉が生まれて久しいが、実際に都市の中の農地を見ることは、周辺住民でない限りあまりないのではないだろうか。普段は行う事があまりない収穫体験を通じて農作業の苦労と楽しみを知る事で都市農業への理解を深める人が増えていく。「ようこそ練馬ぶらり旅」は、この流れを促進する良い例となる事だろう。