昨今「チョコクロ」を始めとしたサンマルクカフェのメニューが、メディアやSNSで話題にのぼることが増えている。2018年に創業者を失い低迷していた同ブランドが復活した裏には、甘いものが大好きな代表取締役社長、鎌田滋之氏の姿があった。
創業者が倒れ苦境に陥ったサンマルクカフェ
25周年を迎えるサンマルクカフェが創業したのは、1999年、東京・銀座の1号店だ。創業当時の主力商品はコーヒーとあんぱんだったが、2001年に渋谷の2号店で「チョコクロ」が誕生。その人気から原宿にチョコクロ専門店を展開し、同時に店舗数の拡大もスタートした。現在ではおよそ300店舗を数えるまでに成長し、国内のカフェ市場で5番目の地位にある。
サンマルクカフェの最大の特徴は、他のカフェチェーンのようにセントラルキッチンで調理するのではなく、“店内製造”を行うという点。「ベーカリーカフェ」として見ればNo.1であり、シェア80%以上を占めている。
だが、2018年に創業者である片山直之氏が病に倒れ、経営は迷走状態になり、業績は低迷。さらに2020年からはコロナ禍の外出自粛が追い打ちを掛ける形となり、危機的な経営状態となった。
外部からやってきた新社長
そんな状況を改革すべく白羽の矢が立ったのが、現・代表取締役社長の鎌田滋之氏だ。
鎌田氏は、広告代理店で働いた後、スターバックス コーヒー ジャパンに所属し、マーケティングや新規事業などを担当。その後、知識と経験を活かすべくサンマルクホールディングスに入社し、2022年にサンマルクカフェの代表取締役社長に就任した。
「実は私自身も甘党で、サンマルクカフェを利用していたんですね。前職のメンバーと会議をしたり、ミーティングをしたりしながら、大好きなコーヒーゼリーパフェを楽しんでいました。銀座の1号店にもよくチョコクロやバターデニッシュを買いに行ったりしていて、非常に親しみがありました。そんな企業が大変な状況にあったので、培ってきた自分の知見を活かして貢献したいという思いがありました」と、鎌田氏は当時を振り返る。
就任時に考えたのは、“創業者の思いを引き継いでいく”ということ。「私たちはお客さまにとって最高のひとときを創造します」という企業理念を大切にし、外から来た人材と中で活躍している人材によって改革に挑んでいった。その結果、サンマルクカフェの業績はV字回復を遂げている。
ベーカリーカフェへの回帰を目指して
「サンマルクカフェを見ていて感じていたことは『訴求している商品がわからない』ということです。たくさんの商品が並んでいることはお客さまにとって悪いことではないのですが、ドリアがあったりどら焼きがあったり、夏にはかき氷を販売して、一時期はお弁当を売っていた時期もあったそうです。お客さまもサンマルクカフェというブランドがなんなのかわからなくなっていたと思うんです」
鎌田氏は、入社前に感じていたサンマルクカフェの印象をこのように語る。
「お客さまだけでなく、社員視点でも『なにを売りたいかわからないだろうな』と思いましたし、これだけ種類が多いとオペレーションも大変です。もっと踏み込めば、冷蔵庫の中も食材でパンパンになっていたはずで、調理もスローになってしまいます。実際に入社したらまったくその通りでしたので、まずサンマルクカフェの強みを打ち出すことから始めなければいけないと思いました」
サンマルクカフェを改革するには、なにをしなければならないのか。社員や現場のスタッフが集まり、会社のコアや強みについて話し合った結果、出てきた答えは「店内製造の鮮度の高いベーカリー」だった。鎌田氏は「ベーカリーカフェへの回帰」を御旗に掲げ、改革に乗り出していく。
「サンマルクブランドはレストランから始まっていますから、“美味しいものを届ける”というこだわりがすごく強いんです。だから店内で作る。私にとって、銀座の1号店の一番の思い出は『焼きたてですよ』と渡されたバターデニッシュでした。思い返すと、それを最近感じなかったんです。サンマルクカフェは、チョコクロのみならずサンドイッチやホットサンドもすべて店内製造。そこをしっかりと伝えたいと思いました」
チョコクロが他社製品とコラボレーション
「店内製造」を押し出し、ベーカリーカフェへの回帰を目指すという方針のもと、鎌田氏はメニューの整理と人気商品への注力を進める。
その軸となったのは、やはり「チョコクロ」。もともとチョコクロワッサンは、渋谷の2号店の人気商品だった。だが、ある日調理のプロセスを間違ってひと回り小さいサクサクのチョコクロワッサンが焼き上がってしまった。これが非常においしく、「これまでのチョコクロワッサンとは異なるので、店舗従業員同士での呼び名に変えよう」と、「チョコクロ」と命名してお店でも出したところ、大ヒットしたという経緯がある。
このチョコクロをいろいろな形でお客さまに楽しんでもらうためのアイデアのひとつが、他企業の人気商品とのコラボレーションだ。これまで、桔梗屋「桔梗信玄餅」、有楽製菓「ブラックサンダー」、サクマ製菓の「サクマドロップス」や「いちごみるく」とのコラボメニューなどが展開されている。
「まずサンマルクカフェから離れていった40~50代のお客さまに、もう一度チョコクロを体験してほしいと思いました。同時に、他社の人気商品を通じて話題性を提供したいと思いました。コラボメニューはSNSでも話題にしていただけるようになり、Z世代の新規のお客さまにも来ていただけるようになりました」
現在、このチョコクロの25周年を記念して、9月26日までの期間限定商品が販売されている。とくに「究極のチョコクロ」はチョコ2倍、バター10倍という贅沢な作りで、鎌田氏をして「BOXで大人買いしたくなる美味しさ(笑)」とコメントする逸品だ。チョコクロファンならずとも一度は口にしたい品だろう。
こういったコラボはチョコクロ以外の商品でも行われるようになり、アパホテルとコラボした「アパ社長カレーのビーフカレーパン」も販売されている。こちらも9月26日までの期間限定商品となる。
「従来のサンマルクカフェは、あまりメディアに情報を発信していませんでした。でも、いまの時代は来てもらう理由を自ら発信しなければ伝わりません。しかしコラボ自体はいろいろな業界がやっています。何度も来ていただくためには、“おいしさ”にこだわった商品でなくてはならないんです。『桔梗信玄餅』などは他社のコラボに負けないよう、チョコクロ初となる黒糖生地を採用し、原価をアップさせてでもおいしさを追求しました。そのおかげで『また買いに行きます』『おいしかったです』とお電話を多く頂いたり、SNSでの『おいしい』というコメントを非常に多く頂きました」
ホットサンド・イブニングセットの導入、ソフトクリームのリニューアル
もうひとつの軸は、喫食メニューの充実だ。鎌田氏はランチでも夜でも楽しめる食事系のコアメニューとして「サンマルクホットサンド」を導入。漫画作品「推しの子」を描く人気の漫画家、横槍メンゴさんがSNS上でそのおいしさを語るほど人気となり、ベーカリーカフェ回帰のひとつのきっかけとなった。
また夜間の来店者が減ったコロナ禍終盤には、「イブニングセット」も追加された。モーニングセットやランチセットは定番だが、イブニングセットはなかなか珍しい。これは顧客視点では夜に来店しても選びやすく、従業員視点では夜にきたお客さまにも勧めやすくという観点から導入されたという。
さらに、鎌田氏はパフェメニューの改良にも着手。創業以来初となるソフトクリームのリニューアルを行った。北海道産の生乳を従来よりも増量し、よりリッチな味わいながらもスッキリとした後味を実現している。
パフェはカフェチェーンではあまり取り扱っていないメニューだが、実は家族連れのみならず、疲れて甘いものが食べたいビジネスパーソンにも人気が高いという。昨今は飲み会の後の「夜パフェ」需要もある。実際、一部の駅前店舗でタペストリーを出したところ、非常に需要が高かったそうだ。
この新しいソフトクリームを使っているのが、先ほども紹介した「飲むチョコクロ チョコクロスムージー」と「チョコクロづくし チョコクロパフェ」だ。ソフトクリームの上には、直径約4cmの「ミニミニチョコクロ」がちょこんと鎮座している。チョコクロ好きはぜひ一度試してみてほしい。
甘党社長が大好きなサンマルクカフェメニューは?
話しているだけで“甘いものが大好き”と伝わってくる鎌田氏。普段からサンマルクカフェのみならず、さまざまなカフェや喫茶店をビジネスで、プライベートで利用しているそう。そんな同氏が、「大好き」「おすすめ」と語る定番商品以外のメニューをいくつかご紹介したい。
ひとつ目は「昭和レトロクリームソーダ」。
「仕事の打ち合わせでみんながコーヒーを注文するなか、私はクリームソーダを頼むタイプでした(笑)。いろいろなお店を飲み歩きましたね。サンマルクカフェを喫茶店として利用されている方も多いですし、昨今のレトロブームとマッチすると思って導入しました。実際、年配の方と若い方、両方にヒットして、嬉しい限りです」
ふたつ目は「大阪ミックスジュース」。
「他のカフェチェーンには無いと思うんですけれども、サンマルクカフェにはさまざまなメニューで使う生のフルーツがあるので、それを活用して作った商品です。飲みやすくヘルシーで、関西の方も地元の味を楽しめると好評です。9月20日より、関西国際空港店とユニバーサル・シティウォーク店の2店舗限定で、より豪華にした『大阪ミックスジュースDXスムージー』を発売しますので、関西に行かれた際はぜひ味わっていただきたいです」
三つ目はパフェメニューのひとつ、「クリームあんみつ」。
「クリームソーダが刺さったならこれも需要があると思いました。クリームソーダと同じで、私があんみつ好きなのもありますけれども(笑)。購買データを見るとやはりご年配のみなさまにバシっと刺さっていて、狙い通りですね。僕がサンマルクカフェの店舗を回るときに頼むのは、だいたいこの『クリームあんみつ』か、定番の『自家製コーヒーゼリーパフェ』です」
サンマルクカフェの店舗と働き方
サンマルクカフェは、いち早く店舗でキャッシュレス決済を導入、電源やWi-FIの拡充などにも積極的な企業だ。昨今はセルフレジの採用も進められており、一部店舗ではデジタルメニューボードの導入も行われている。
「いまセルフレジの導入を行っておりますが、これにはお客さまが自分の好きなタイミングでオーダーができるという顧客視点のほかに、オペレーション的な課題の解決という経営視点があります。人材不足が進む中で、この先、店舗はより少ない人数で回さなければならなくなるからです」
またガラス製のグラスを、割れないトライタン製グラスに変更している。これは、第一にお客様の安全を実現すると同時に、従業員の安全や、破損による廃棄の削減を目指したものだ。ドリンク用のグラスには容量がわかるラインが描かれており、従業員の効率的なオペレーションと、顧客へ確かな容量を提供する目安になっている。
さらに、ショッピングセンター内店舗ではベビーカーユーザー向けにベンチシートの導入も進められている。現在はまだどっしりとした質感の椅子が多いが、子どもがごろんと寝転がれ、親が隣で子どもの相手ができる、そういった店舗づくりを順次行っていくという。
「お子さまをお連れの方も気兼ねなく利用しやすい店舗をと考えているんです。時々、カフェを利用するママさんたちから『私たちもカフェに入っていいのかな?』『私たち、嫌がられてないかな?』という不安があるという声を聞くんですよ。親御さんたちはカフェで自分たちが歓迎されるか心配なんです。だからサンマルクカフェでは“ウェルカム”と伝えたくてキッズセットを用意していますし、ベンチシートなどを用意して使いやすさもアピールしていきたいと思っています」
そんなサンマルクカフェの社風について伺うと、鎌田氏は「総じてフラット、ヒエラルキーのようなものがない」と語る。
「創業社長というカリスマがいたぶん、その下はフラットでした。社内調査でも『風通しが良く和気藹々としていて、上司とも話しやすい』という評価が出ています。ですから、私が就任してからはそんな社風を活かして、『みんなで考えていこう』という体制づくりを進めたんです」
同時に、働き方改革も進められている。サンマルクはもともと岡山県岡山市が発祥の地であり、サンマルクカフェの本社機能も岡山市にある。だが、サンマルクカフェは1号店が東京であり、また店舗数も多く東京地区との関わりが強い。鎌田氏も毎週のように岡山と東京を行き来しながら働いていた。そこで現在は総務など管理系部門を除いた、商品開発やマーケティングの拠点を東京に移転したという。
さらにグローバル人材の育成にも積極的だ。これは、インバウンド増加に加え、食のトレンドのグローバル化が進む中で「海外のニーズも捉えておかなければならない」という鎌田氏の考えによるもの。サンマルクカフェはすでにシンガポールとフィリピンに店舗がある。現在は海外市場視察に加えて、社長賞を取ったスタッフのシンガポール視察を導入しており、「ゆくゆくは店舗スタッフも連れて行く機会を設けたい」と考えているそうだ。
その他、アサヒビールのグループ企業が取り組む「すみだCoffeeloopプロジェクト」に賛同してコーヒーの豆かすをアップサイクルし、東京都墨田区の両国西口店の店内で使用するお冷カップを作ったり、食育として子供向けのチョコクロ教室の開催、中学生の職場体験受け入れなど、社会的貢献も進められている。
第二創業期、新サンマルクカフェとして改革に取り組む
ベーカリーカフェへの回帰を目指し、よりおいしいベーカリー商品の開発を進めてきたサンマルクカフェ。いまはカフェとして、よりドリンクメニューの強化を進めている最中だという。とくにスムージー系は力を入れるそうで、店内利用だけではなくテイクアウトも楽しんでもらえるブランドを目指すそうだ。
最後に、鎌田氏から抱負の言葉をいただいたので、ご紹介したい。
「我々は日本社会に貢献するブランドとしてサンマルクカフェを育てるのみならず、この魅力を世界のみなさまに体験していただきたいと考えています。目標は『世界No.1のベーカリーカフェ』です。“いつの日か必ずなれる”と信じて社内にメッセージを伝えながら、いま第二創業期として改革に取り組んでいます。今までと違う新サンマルクカフェを、ぜひ楽しんでいただきたいと思います」