軽トラは10万キロを超えてもまだまだ走る

農家に軽トラは欠かせない車だ。農家じゃなくても、田舎で自給自足的な暮らしをしようと思ったら軽トラがなくては立ちいかない。

農機具や収穫物を積んで畑と自宅を往復する足となり、どこかで家を解体しているとあれば、廃材をもらって積んでくる。冬はあちらこちらで庭木や山の木の伐採が行われるので、声がかかるといそいそと出かけていき、まきストーブの燃料にするための丸太を運ぶ。ホームセンターの木材も楽に積めるし、ヤギやニワトリを載せることもある。わらやもみ殻や堆肥(たいひ)なども山積みする。田んぼのあぜ道を軽快に駆け抜け、泥で汚れても、狭い林道で灌木(かんぼく)にこすっても気にしない。普通の車ではできないことを軽快にやってのけるコンパクトなユーティリティービークル(役に立つ車)なのである。

まきを満載にした相棒のSUBARU・サンバートラック。軽トラの八面六臂(ろっぴ)の働きは使ってみればすぐわかる

もちろん私の暮らしにも軽トラはなくてはならないもの。初代は移住して間もなく手に入れたダイハツの1997年式ハイゼットトラック。走行距離10万キロを超えた中古車だった。2WDだったため、畑に乗り入れたりするとよくスタック(立ち往生)したが、そんなときでも後ろから誰かに押してもらえれば簡単に脱出できる軽くて小回りの利く車だった。

最初の相棒、ダイハツ・ハイゼットトラック。ボディーをブルーグレーにペイントし、DIYで木製の「あおり」(荷台を囲む開閉式の板)を作った

このハイゼットトラックには10年乗った。「ちょっとくたびれてきたな」と思っていたら、タイミングよく4WDのSUBARU・サンバートラックを譲ってもらえる話があり、今はそれが相棒だ。
ほかの軽トラにはない4輪独立懸架式(※1)のサスペンションとリアエンジン・リアドライブ(※2)を採用し、その駆動方式から“農道のポルシェ”の異名を持つ誉れ高き名車である。2004年式で走行距離はやっぱり10万キロオーバー。

普通の車で10万キロの中古車というと、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)する人もいると思うが、働く車として乗りつぶす人が多い軽トラの中古では当たり前。5万キロ以下ならかなり程度がいいと言える。ちなみに、わが家には軽トラのほかにトヨタのディーゼルエンジンの4WDとホンダの軽のワンボックスカーがあるが、それぞれ走行距離は30万キロと17万キロである。10万キロなんて、まだまだ走りが足りない。

※1 4輪がそれぞれ個別に動くサスペンションのこと。路面に傾きや凹凸があっても車体が安定し、乗り心地に優れる。
※2 車体後部にエンジンを配置し、後輪を駆動させる方式。加速性能や操舵(そうだ)性に優れる。略称RR。一般的な軽トラは車体の前方にエンジンを配置し、後輪を駆動させるFR方式を採用している。

豊富な車種と手ごろな価格が中古車の魅力

車もオートバイも農機具も、これまで新車というものを買ったことがない。予算的に高くて買えないというのもあるが、私にとっては新車より中古車のほうがずっと魅力的に思えるからだ。

第一の理由は、現行にはない車種が手に入ることだ。
軽トラで言えば、新車を求めた場合、実質的にはダイハツ・ハイゼットトラックとスズキ・キャリーの2車種しか選べない。SUBARUや日産、マツダなども軽トラをラインアップしているが、いずれもダイハツとスズキによるOEM(※3)供給である。
ところが中古車なら、2012年まで生産されていたSUBARU・サンバートラックや、ミッドシップレイアウト(※4)を採用し「農道のNSX(※5)」と呼ばれ、2021年に生産終了したホンダ・アクティ・トラックなども手に入るのだ。ホイールベース(※6)が長いセミキャブタイプ(※7)の軽トラも現行にはない。

※3 メーカーが他社ブランドの製品を製造すること。
※4 車体の中央にエンジンを配置した構造。
※5 かつてホンダが生産、販売していたミッドシップレイアウトのスポーツカー。
※6 前輪の中心から後輪の中心までの長さ。長いと直進安定性が増すが、小回りが利きにくくなる。逆に、短いと小回りが利くが直進安定性は低くなる。
※7 前輪を運転席の前に配置した構造。ホイールベースが長く、直進安定性に優れる。

富士重工業(現SUBARU)による生産としては最終型となった6代目サンバートラック

第二の理由は、価格である。
よほど年式の新しいモデルでない限り、車両価格は新車の半額ほどか、程度や年式によってはグッと安く手に入る。市場に出回る数が多い価格帯は40~70万円で、これくらいの価格ならそれなりに状態もいい。相場は20年前のモデルで30万円前後、10年前で50万円前後が目安。あとは走行距離と状態によっても価格が変わる。
一般財団法人日本自動車査定協会が発行する「シルバーブック」には、中古車の小売価格の目安が掲載されており、多くの中古車販売店ではそれを基準に価格を設定しているため、同年式、同程度のモデルで比べれば、大きな価格差はない。
また、車両価格のほかに税金などの諸費用がかかるのだが、中古車の場合、店頭で表示されているのは車両本体価格と諸費用を合計した「支払総額」である。諸費用のみの額は、軽トラであれば5~10万円程度。法定費用と代行費用に分けられ、前者は支払いが義務化されている費用、後者は手続きや整備にかかる費用で販売店によって異なる。

車両本体価格に諸費用(法定費用と代行費用)を加えたものが実際に支払う“乗り出し価格”(支払総額)となる


法定費用
・自動車税種別割
・自動車税環境性能割
・自動車重量税
・自賠責保険料
・消費税
・リサイクル料金

代行費用
・登録代行費用
・点検・整備・クリーニング等費用 など

中古軽トラをどこで入手するか

中古の軽トラを入手する方法は3つある。中古車販売店とディーラーとネットオークションなどの個人売買である。
中古車はそれを専門に扱う販売店のほかにも、新車販売のイメージが強いディーラーでも扱っているところがある。ディーラーとは特定の自動車メーカーと特約店契約を結んだ店舗のことだ。「ネッツトヨタ○○店」とか、「Honda Cars○○店」など、店名にはメーカー名が入っている。
中古車販売店ではさまざまなメーカーの中古車を扱っているが、ディーラーで扱っているのは契約している特定のメーカーに限られる。中古車販売店に比べると価格はちょっと高めだ。


中古車販売店
・車種:さまざまなメーカーの車を扱っている。
・価格:一般的な市場価格。
・保証:店舗によって異なる。年式の古い安価な車にはつかないことも。
・品質:店舗によって異なる。

ディーラー
・車種:基本的に特定のメーカーに限られる。
・価格:市場価格よりやや高め。
・保証:手厚い保証がつく。購入後のメンテナンスなどアフターサポートも充実。
・品質:一定の検査基準に基づいた安定した品質が保証されている。

中古車販売店はディーラーに比べると価格は手ごろだが、扱っている車のクオリティーは店舗によって異なる

一方で、なるべく安く入手したいのであれば、ネットオークションやフリマサイトでの個人売買という方法もある。売り手と買い手の直接交渉になるので、お互い魅力的な価格で取引ができる。とはいえ、ネット上のやりとりに不安がないとは言えない。落札後に不具合が見つかったとしても、通常クレームや返品には対応していない。入札前に必ず現物確認をして、多少のリスクがあることも納得したうえで購入するべきだろう。また、オークションで落札した場合は、輸送の手配や名義変更などの手続きも落札者側で行うのが一般的だ。

走行距離は10万キロが目安

中古車を選ぶときの指標になるのが年式と走行距離だが、一般の中古車に比べて軽トラは、年式が古く多走行でもあまり価格が落ちない。新車で100万円前後で入手できるのにもかかわらず、10年落ちで走行距離が10万キロを超えていても50万円前後するのだ。中古車市場に出るまでに、それだけ乗りつぶされる車であり、一方で丈夫な車であるともいえる。
多少の傷やへこみ、さびは当たり前。特に荷台の使用感は避けられない。普通の車は小さな傷でも気になるが、中古の軽トラでそれを気にしていたら選択肢はない。あまり神経質にならないことだ。

ものを載せる荷台は傷やへこみがあって当然。塗装が剥げた部分にはさびも発生する

走行距離は10万キロが目安。それ以上になると、丈夫な車とはいえ、どこかに不具合が見られたりするもの。劣化や消耗により、それは仕方がないことだ。ちなみに私の最初の相棒、ハイゼットトラックは、10万キロを超えてフレームのさびから小さな穴があき、それで車検が通らなかったことがあるが(溶接で補修した)、駆動部やエンジンは手放すまでノートラブルだ。

走行距離は10万キロを超えていても問題ないが、消耗した部品があれば交換しよう

何はなくとも4WD。できればエアコン、パワステも

軽トラには2WDと4WDがある。同じ車種で比べた場合、価格は2WDのほうが10~20万円ほど安くなるが、農業で使うなら選択肢は4WDの一択だ。農道は舗装されていないところも多く、雨でちょっとぬかるむと2WDではグリップが利かない。4WDなら畑の中に乗り入れることもできる。デフロック(※8)やトランスファー(※9)も装備していれば、なおさら悪路に強い。

※8 通常独立して回転している左右のタイヤを同じ回転数で駆動させる装置。タイヤが空転するような悪路で役立つ。
※9 4WDのマニュアル車のみに装備される補助的なギアで、エンジンからの力を前輪と後輪に分配する機能。通常のギアでは走行が困難な悪路で、より力を発揮できる。

2WDと4WDが切り替えられるタイプも

エアコンとパワーステアリング(パワステ)もついていたほうがよい。普通の車には当たり前の装備だが、古い軽トラにはついていないものも少なくないのだ。私が乗っていた1997年式のハイゼットトラックには両方とも装備されていなかった。長距離ドライブをすることはなかったので困らなかったが、近年の夏の異常な暑さを考えると10分程度の距離を移動するだけでもエアコンを入れたくなる。さらに暑さの中パワステがなかったら、ハンドル操作に力が要って汗だくになるだろう。
今、乗っているサンバートラックは、エアコンは装備されているのだが、冷却に必要なガスが漏れていて効かない。こういう不具合を抱えたまま売られていることもあるので、中古車を選ぶときはエンジンをかけて確認するように。

夏のドライブはエアコンが使えないとちょっとキツい。長距離ドライブには必須

車検2年付きがお得

車検の残存期間も要チェック。中古車には、車検の有効期間が残っているものと、車検が切れていて新たに受け直して納車となる「車検2年付き」の車両がある。有効期間が残っている場合、自動車重量税や自賠責保険料は前回の車検で納められているので不要となり、車両本体価格以外にかかる諸費用が安くなる。ただし、残存期間が少なければ、結局すぐに車検の検査・整備費と重量税、自賠責などの支払いが必要になる。それを考えれば新たに車検を通して納車される「車検2年付き」のほうがお得だし、安心だ。

今の相棒、SUBARU・サンバートラック。今では軽トラは手放せない道具だ

もしもあなたが農家を志してこの記事を読んでいるならば、どんな農業機械よりもまず手に入れるべきは軽トラだ。とはいえ、100万円の新車が必要かといえば、そんなことはない。土ぼこりの中で働く車であるのだから、多少くたびれた中古車のほうが細かいことを気にせずこき使えていいものだ。安く手に入れたいと思えば10万円前後の車両だってある。これほどコスパのいい車はない。いやあえて道具と呼ぼう。
軽トラは田舎暮らしを豊かにするために、なくてはならない道具なのである。