AI PCに全集中なIntel Connection Japan 2024 Day2
2024年9月3~4日に開催されたIntel Connection Japan 2024は、初日のビジネス系とうってかわり、開発コードLunar Lakeで知られているインテルCore Ultra プロセッサ シリーズ2と関連するAIアプリケーション、そしてAI活用するクリエイターとコンシューマーサイドの話題満載の内容でした。
基調講演「インテルが牽引するAI PC」では冒頭、大野社長が「初日はAIと半導体戦略の話だったが、本日はAI PCの話となりAIをパーソナルデバイスまで広げた。インテルはAI PCを昨年発売開始して現在までに2000万個のCore Ultraプロセッサを出荷しただけでなく、ISVと協業して300以上のAIアプリケーションを送り出した」とこれまでのAI PCについて語り、Core Ultraプロセッサーのシリーズ2(Core Ultra 200V)を発表したことで、飛躍的に性能を向上させたと紹介しました。
ここでマーケティングの上野氏にバトンタッチ。「数時間前にドイツで発表されたCore Ultra 200Vに関して臨場感を持って紹介してもらう」とスペシャルゲストとのビデオ通話を開始。
相手は現地朝3時のドイツの発表会に参加していた、ライターの笠原一輝氏でした。笠原氏は普段の記事のようにLunar Lakeのメリットを語っていましたが、現地の説明会で印象的だったフレーズとして「A Great AI PC Start with Great PC」を紹介していました。
AI PCを世に送り出したと言っても利用できるアプリケーションがなければ意味がありませんし、マーケティングの立場としては認知度を上げて使われるようにしなければなりません。
ISVと協業してAIアプリケーションを開発してもらい、さらにパソコンを知らない世代にもAI PCを知ってもらおうと今年は原宿でイベントも開催していました(関連記事)。開発者向けのDiscordコミュニティも開設しています(関連記事)。
そして、安生氏も加わって壇上の製品のアンベールが行われました。
AIだけが優れているわけではない、基本性能の高さと互換性をアピール
技術的内容に関しては技術本部の安生氏が説明しました。
第一世代のCore UltraとなるMeteo LakeのAI PC登場時はAI PCというワードを前面に出し過ぎていて、肝心のパソコンの性能に関してあまり言及できていなかった反省が「A Great AI PC Start with Great PC」というワードで表現されていると説明。パソコンは様々な用途で使われており、Lunar Lakeはパソコンとしての性能も優れた正常進化であるといいます。
インテルは新CPUの説明で「(買い替えを検討し始める)3世代前のCPU」との性能差を語る事が多いのですが、今回は現行製品であるCore Ultra シリーズ1やAI PCのライバルとの比較を行っていました。
シリーズ1のMeteo Lakeと比較して電力効率は最大2.29倍、GPUの電力効率は最大2倍。スレッドパフォーマンスは3倍、ゲーミングパフォーマンスは30%アップと非常に大きな差となりました。
バッテリーライフもシステムとして倍に増え、ワット当たり性能とGPUの電力効率も二倍。さらに「x86はARMと比較して消費電力が大きい」という従来の定説を覆すべくQualcomm X1E-87-100比で20%パフォーマンス/ワットがよいというデータも提示しました。
Lunar Lakeの性能の背景にあるのは全面的に刷新されたLionCove(P-Core)、Skymont(E-Core)のCPUコアです。P-Coreは電力効率を上げる事を重視し、長年続けていたハイパースレッドを止めました。また、幅広い周波数で電力効率を上げた事でE-Coreは1種類に統合。クロックあたりの命令実行数(Instruction Per Clock:IPC)はE-Coreで68%、P-Coreで15%も向上し、スレッド当たりのパフォーマンスが3倍となりました。
インテル関係者からは「E-Coreは『ATOM』だからという声をよく聞くが、最近のE-Coreは非常に進化している」という発言をよく聞きます。Skymontコアの性能アップはかなり高い印象を受けました。結果として、17W定格性能で比較するとMeteo Lakeの12C14TよりもLunar Lakeの8C8Tの方が速いという結果になっています。
GPUも第二世代Xe-Coreとなって性能アップ。特にAI演算で多用される行列演算をサポートするXMXエンジンが加わったのがポイントです。細かいところですが最新の動画フォーマットVersatile Video Coding (VVC) のデコードもサポートしているので数年後の動画でも円滑な再生が期待できます。
安生氏によるとAI PCで増えたNPUの利用はデベロッパーに対するアンケートでは、2024年から2025年にかけてもあまり増えず、GPUを使用するケースが多いため、GPUのパフォーマンスが重要だといいます。
Lunar Lakeの演算速度はCPU 5TOPS、GPU 67TOPS、NPU 48TOPSの120 TOPS(注:SKUによって異なるので最大値)な一方、CPUは小さな処理には有利で、NPUは音声からLLMにも向いていると説明。GPUは今回XMXがあるので画像生成も得意になった反面、消費電力はNPUより高いことを説明していました。アプリケーション開発者はNPUとGPUの適切な選択が重要かもしれません。
AI PCとしてもQualcommを大きく上回るだけでなく、Qualcommでは動作しないソフトもきちんと動作すると「妥協しない互換性」をアピール。AI PCだからAIアプリや最新のアプリだけ動作すればよいのではありません。業務アプリの中には古くて改定できないものを使わざるを得ないケースもあります。その意味では最新アプリもレガシー共々動作するというのはメリットでしょう。
AI PCとしての性能に関してはGeekbench AIの結果を使い、CPU / NPU/GPU共にライバル(AMD HX370/Qualcomm X1E-78-100)よりも早く、Stable Diffusionではライバルでは動かない設定でもLunar Lakeでは動くと説明していました。
また、現時点ではLunar LakeパソコンはCopilot+PCに対応しない「Copilot+PC Ready」として発売。後日マイクロソフトから提供されるWindows 11にてCopilot+PCに対応するようです。
SKUはメモリと速度の差でCore Ultra 5 / 7 / 9の3グレードで9製品。Core Ultra 9はクロックもメモリも1種類で設計TDPが17〜30W、Core Ultra 5/7はクロックとメモリが二種類づつで設計TDP8〜17Wとなります。
以前はNPUが48TOPSと説明されていましたが、Core Ultra 5は40TOPS、Core Ultra 7のクロックの低いSKUが47TOPSとなります。個人的には予算が許せばCore Ultra 7 258Vの製品が欲しいと思っています。
当日試作機を展示した7社を含むAI PCエコシステムパートナーを紹介するとともに記念撮影が行われました。試作機を展示していたのはAcer、ASUS、DELL、MSI、サードウェーブ、マウスコンピューター、ユニットコムの7社です(記念撮影はAI PCエコシステムパートナーのdynabook、EPSON、Fujitsu、HP、INVERSENET、Lenovo、LG、NEC、Panasonicも加わっています)。
メーカーによっては本日より予約受付を開始し、発売解禁は米国時間の9月24日6時。日本時間では24日22時。実質的には9月25日からの販売となります。
「パソコンの深夜発売」というとWindows95が最後だったと記憶していますが、どこかやってくれる会社はないでしょうか?(今回はサードウェーブ、ユニットコム、マウスコンピューターとCPU / GPUの深夜発売で定評のある会社さんが今回のイベントで展示していたこともあり、ちょっとだけ期待しています)
また、今回は通常版のパソコンで、エンタープライズ向けで管理性に富むIntel Evo Platform製品は来年発売開始の予定です。Intel Evo Platformは検証項目が多いので致し方ないところでしょう(展示機ではAcer、ASUS、DELL、MSIにEVOのステッカーが貼られていました)。
午後の分科会でも濃い話が盛りだくさん
午後は安生氏と上野氏がゲストも交えた分科会「AI PCトレーニング~インテルCore Ultraプロセッサーの真価とは~」、「広がる AI PC アプリケーション」、「AI PC 導入で実現する企業の DX 戦略」、「AI による WOW エクスペリエンスとクリエイティブの進化」を行いました。
安生氏がメディアジーンの小林氏と行った「AI PCトレーニング~インテルCore Ultraプロセッサーの真価とは~」では先に説明したように安生氏がマーケティングワードとして(Meteo Lakeでは)AIに寄りすぎてしまい、PCとしての性能をあまり語れなかったと反省点を述べ、上野氏も家族のパソコン購入に際し「AIをそんなに使わないからAI PCでなくてもよい」と家人に言われたというエピソードを披露していました。
安生氏は「ユーザーはインテル製品は消費電力が高いと思っているのに対して、技術的にチャレンジして覆した」と発言。「電力効率はCPUやチップだけの改善だけでなく、パソコン全体で(インテルが手を入れられない)Microsoftも巻き込んで上げた。Meteo Lakeの時点では改善途上とは当時言えなかった」と告白。
さらにLunar Lakeの低消費電力にかなり寄与した部分として、安生氏はメモリを挙げていました。最近のノートパソコンの中にはマザーボード直付けの製品が多くなりましたが、これはメモリの消費電力を下げるという効果を狙っています。Lunar Lakeはメインメモリをパッケージ内に組み込むことで、8533Mbpsの高速メモリを使いつつ消費電力を抑えたといいます。
さらにTeamsやzoomのようなコラボレーションツールは通信が入る上、パフォーマンスを要求しがちで(高性能だが消費電力も大きなP-Coreに移行させると消費電力が増すので)Microsoftとのパートナーシップで消費電力を抑えたといいます。つまり、コラボレーションツールはほぼE-Coreのみで動作するようです。
消費電力が減った効果として「同じ筐体でバッテリーサイズをギリギリまで入れて長駆動時間にすることも、逆に従来と同じ駆動時間で超薄軽にもできる」と設計の自由度が広がったとアピール。これは今後、製品が出そろった際にチェックしてみたいポイントです。特に2020年に634gという超軽量モデルを出したFCCLがどのような製品を出すのかは注目したいところ。
インテルにとっては第二世代のAI PCという事でサードパーティアプリの開発や作品も出ており、以降のセッションでは上野氏や安生氏と共に製品や作品の紹介が行われていました。
「広がる AI PC アプリケーション」のセッションではPowerDirectorやPhotoDirectorで知られるサイバーリンクがSNS広告などに向くPromeoを紹介。プロがデザインしたテンプレートを元にSNS用広告画像・動画を作成するツールで、簡単な指定をするだけで24の候補を出力してくれます。現在はAI PC動作はまだ英語のみですが、年内に日本語を含む多言語対応となる予定との事です。
GenerativeXの商談AIは商談中のやり取りをリアルタイムに文字起こしを行い、それをもとにLLMを使用して最適な商材の提案を行うというもの。AI PCによってネットワーク等がない環境でも利用できるほか、機密・社外秘情報を使用することもできると紹介していました。また、顧客ごとにカスタマイズし、AI PCならではの強みを生かした提案ができるといいます。
「AI PC 導入で実現する企業の DX 戦略」のセッションでは#LRとWEELが企業向けの受託開発に関して言及しており、外部に出せないデータを活用するためにAI PCを使うメリットを紹介。外部で解析するとコストが増すタスクをローカルで対処することでコストを抑えるという事例を紹介していました。
WEELに実際に相談された事例として「日報などのレポート処理を効率化したい」が紹介され、毎週2-3時間かかる日報作業を30分に押さえればコスト削減効果が高いと紹介。これに対してレポート作成で苦労している(?)安生氏や他の登壇者にインパクトを与えていました。
身近で切実な問題としてはセキュリティがあります。最近問題となっているDeepFake対策としてビデオ通話中の相手がDeepFakeかどうか判定するツール「レンドマイクロ ディープフェイクスキャン」が現在β提供中と紹介されました。警察官を名乗る劇場型詐欺事例は現在問題になっており、私の父親あてに電話がかかってきたこともありました。
従来からウイルスバスターの一機能として、怪しいメールを判断するスキャン機能を提供していましたが、従来はユーザーの許諾を取って、メールの文章をトレンドマイクロのサーバーにアップロードする処理が入っていました。
個人ユーザーはよいかもしれませんが、業務で社外秘、部外秘の情報を扱う人には躊躇してしまうでしょう。しかしAI PCを使うことで怪しいメールの判定をローカルで行えるようになります。
セキュリティはいたちごっこの傾向にあり、AIを悪用した脅威やリスクが今後増えると思いますが、逆にAIを利用して守るという事もできるようになるのでしょう。
「AI による WOW エクスペリエンスとクリエイティブの進化」のセッションではAIを作品として使った事例を紹介していました。
インテルがクリエイター向けに行っている施策「Blue Carpet Club」もすでに発足から2年半参考記事。当初8名だったトップクリエイターも44名に増加しています。その中でD2C IDの田中氏とT&Sの稲葉氏が登壇。AIを作品に取り入れたことについて語っていました。
作品と直接関係ないところですがBlue Carpet ClubにかかわるようになってT&S社内からMacが8割減となった話や「安生さんのせいでAIに触れる機会が得られた」というところでは思わず笑ってしまいました。
二日目はAI PCに全振りした内容となっていましたが、AI PCの時にAI PC Gardenとして撒いたタネが咲き始め、また直接は関係ないかと思っていたBlue Carpet Clubも新しい技術を貪欲に取り入れるアーティストにAIを渡すと、こういう作品になるのかという気づきもありました。
筆者はおそらくLunar Lakeマシンを買うと思いますが、買ったことで「これができるようになる」という期待を膨らませることができるイベントでした。