韓国のヒョンデはコンパクトSUV「コナ」(KONA)の最上位グレード「コナ Nライン」を日本に導入した。個人的にあまりなじみのないヒョンデなのだが、発売前に試乗する機会を得たので、使い勝手や装備面、乗り味などをじっくりと探ってみた。

  • ヒョンデ「コナ Nライン」

    日本で発売となったヒョンデ「コナ」の最上位グレード「Nライン」に試乗!

ヒョンデが日本で売っているクルマは?

まず、ヒョンデという自動車メーカーについて基本を押さえておきたい。

ヒョンデは韓国の自動車メーカーだ。かつて日本では「ヒュンダイ」と名乗っていた。2010年に日本市場の乗用車販売から撤退(商用向けバスの販売のみ継続)したが、2022年に再上陸を果たし、電気自動車(EV)の「アイオニック5」(IONIQ5)と燃料電池自動車(FCEV)の「ネッソ」(NEXO)の2モデルを導入。2023年11月にコンパクトSUV「コナ」を発売した。今回の試乗車はコナの最上位グレードだ。

コナはガソリン車、ハイブリッド車、EVをラインアップしているが、日本市場で販売するのはEVのみ。日本市場でのEVの盛り上がりに懸けての投入のようだが、世界的に見てEVが失速気味なのは気がかりな点ではある。

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    これまで見たことがないような特徴的なデザインだが、リアは重厚感があり好印象

身近で乗っている人がいなければ、かつての「ヒュンダイ」も今の「ヒョンデ」もピンとこないかもしれない。自動車ライターをしている筆者であっても、これまで韓国製のクルマにはほぼ縁がなかった。ともすれば、どこかのスタートアップが立ち上げた新しい自動車メーカーなのでは……と勘違いしてもおかしくないかもしれない。実際に試乗するまでは、ワクワクするよりもおっかなびっくりという気持ちが強かったし、とにかく「目新しいクルマ」という印象が強かった。

ところが、実際に乗ってみると印象が変わった。

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    ドアを開けた瞬間から高級感が伝わってくる

いざコナに乗ってみると、乗り心地がかなりいい。極上の走りといっても言い過ぎではない。縁石に乗り上げても、高速道路で段差を乗り越えても、ドライバーを優しく包んでくれるような振動で不快感がない。

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    質感が高い車内ではあるが、ボタンの数がかなり多いので、操作に慣れるまでには少し時間が必要かも

アクセルを踏み込めばEVならではの爽快な加速感が楽しめる。それなりに勾配のきつい高速道路の合流でも、遅れることなく流れに乗ることができた。

ハンドリングも優秀。停車時や低速時は驚くほど軽い一方で、速度が上がればほどよい重さが加わり、ブレることなく安定した操舵が可能となる。ブレーキも強めに踏めばしっかりと制動し、軽く踏めば思った通りの緩やかな減速へと導いてくれる。クルマとしての完成度がとても高いことに感心した。

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    後席のシートも座り心地がいい。運転席を178cmの筆者のシートポジションに合わせてそのまま後席に乗り込んでみたが、足元にはまだ余裕があった

Nラインは最上位グレードだけあって装備が充実している。いまや必須ともいえるスマホのワイヤレス充電はもちろん付いている。フロントガラスに速度などを表示するヘッドアップディスプレイもクリアで見やすい。高級車にしか付いていないイメージのあるシートベンチレーションも完備していて、風量は3段階で調節が可能。BOSEのプレミアムサウンドシステムまで装備していて、至れり尽くせりといった印象だ。シートはアルカンターラ素材で肌なじみがよく、いつまでも触れていたいと思わせる上質さがある。

運転に必要な装備はもちろん、あれば便利という装備も一通りは備わっている。ここまで装備が充実していて価格は506万円(N Line)。かなりお得なのではないだろうか。

  • ヒョンデ「コナ Nライン」
  • ヒョンデ「コナ Nライン」
  • ヒョンデ「コナ Nライン」
  • 左:センターにはスマホをワイヤレス充電できる収納スペースを用意。中:カップホルダーは形状が変更できるユニークなタイプ。ドリンクを入れなければ広い収納スペースとして活用できる。右:サンルーフを全開にすれば爽快感マックスだ

新興メーカーとは違う確かな出来栄え

ここまで読んでいただいた方の中には、「他の有名メーカーのクルマも、最近はみんなそんなもんだろう」とお感じになった方もいるかもしれない。でも、決してそんなことはない。誰もが知る有名メーカーのクルマであっても、デザインや装備だけにこだわっていたり、加速力だけに注力して装備はオプション扱い(いわゆる別売り)だったりして、クルマの基本性能と快適性のバランスがいまひとつと感じるモデルも少なくないのだ。

コナは「走る」「曲がる」「止まる」の基本性能と装備面での「快適性」を高い次元で両立できているクルマだ。1967年からクルマを作り続けてきた老舗メーカーだからこその完成度と言えるだろう。

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    いくつかある「Nライン」専用装備の中でも、ウイングタイプの大型リヤスポイラーはかなり迫力があった

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  • 左:ラゲッジスペースは6:4の分割可倒式を採用。長尺の荷物でも余裕で積み込める。右:リアハッチは自動で開閉できるのだが、なぜか大きめのグリップを採用。ありそうでなかった設備だが、このグリップがあることで、手動で閉めるのが格段に楽になる。すべてのクルマに標準装備してほしい

すでに発売済みのグレードとNラインの違いはNライン専用装備が付いているかどうかで、走りやスペックに大きな違いはない。低重心を強調するフロントとリアのバンパー、大型のウイングタイプのリヤスポイラー、19インチアルミホイール、赤いステッチが特徴のアルカンターラ/本革コンビネーションシートなどがNラインの専用装備となる。個人的には、リヤスポイラーがあるとないのとではずいぶん印象が違う。可能ならリヤスポイラーの付くNラインを選びたいと思った次第だ。

バッテリー容量は64.8kWh、一充電航続距離は541km(Voyageグレードは625km、Casualグレードは456km)。これだけ走れば長距離走行も申し分ない。

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    正直、ドアパネルの内装はいただけない。かなり凝った内装で統一されているクルマなのに、なぜかここだけ、プラスチック感満載の安っぽさなのだ。担当者によればコスト削減のひとつとのことだが、内装に合わせて、せめて赤いラインを一本引くくらいでもいいから工夫が欲しかった。ここだけ見たら一昔前の軽商用バンのように感じる

オンラインで買っても大丈夫?

ヒョンデは日本市場に再上陸した際、これまでとは全く異なる販売戦略をとった。インターネットでのオンライン販売のみという大胆な戦略だ。とはいえ、実車を見てからでないと買えないというユーザーは多い。そこで、横浜に車両の試乗や整備などを行う日本市場の中核施設「Hyundaiカスタマーエクスペリエンスセンター横浜」を開設。ここには、旅行を兼ねて遠方から試乗や納車に訪れる人がたくさんいるという。

また、クルマのオンライン購入を検討しているユーザーをサポートするため、名古屋、福岡、沖縄に都市型ショールーム「Hyundaiシティストア」を展開。多用なライフスタイルを提供する他企業とコラボしたショールーム「Hyundaiモビリティラウンジ」も東京、京都、富山に設けている。

そのほか、一部のスーパーオートバックスの店舗や自動車整備工場など全国約60カ所に協力整備拠点を設けており、ヒョンデのクルマの試乗や購入相談、納車などもできるように販売体制を整えている。クルマを購入したあとでも、日常的なメンテナンスは心配不要とのことだった。

  • ヒョンデ「コナ Nライン」

    ウインカーを出すと側方の映像を前面のモニターに表示してくれる画期的な機能。巻き込み事故を防げるだけでなく、自車の寄せ具合まで把握できるという優れものだ。こういった細かい機能は実際に試乗しないとわからない部分。これもすべてのクルマに標準装備してほしい

輸入車である以上、整備や修理時にパーツ類が必要になった際には取り寄せなければならない。そうなった場合、すぐに準備してもらえるのだろうか。その点について担当者は、「韓国からであれば1日足らずで届くため、遅くとも数日以内に準備できます。何週間もお待たせすることは、まずありえません」と話す。

アフターサービス体制の充実ぶりも、クルマのことを熟知した老舗メーカーならではと言えるかもしれない。全国に数十カ所の販売店、正規ディーラーを置いて営業マンや整備士を配置するよりも、オンライン販売に限定することで、圧倒的にコストを抑えられるようになる。日本市場でシェアを広げていくためにオンライン販売に絞った戦略は今後、吉とでるかもしれない。

  • ヒョンデ「コナ Nライン」
  • ヒョンデ「コナ Nライン」
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  • 正直、このデザインは好みが分かれそう。ただ、ほかにはないデザインなので、人とかぶりたくないという人にはいいかもしれない

間違いなくクルマの出来はいい。SUVのEVの購入を検討しているのであれば、一度はコナに乗ってみることをおすすめする。走りや充実した装備に満足するはずだ。デザインの好みは分かれそうだが、コナ Nラインが起爆剤となって日本市場を席巻する可能性も否定できない。それくらいよくできた1台だった。今後もヒョンデの動向に注目していきたい。